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✽ 公子は祖母の慧眼の力に改めて感心する ✽ 第44章 国王への提案 (エリック視点)


 この三年、学園では試験の成績の発表がされてこなかったので、ブライアン王太子とリンジーはお互いの成績を知らなかった。そのせいでお互いの実力を知らなかった。

 

 この時点ですでに国王の怒りは頂点にまで達していた。そして、この後の息子の発言でついにそれが爆発した。

 

「父上! それではユリアーナを側妃にします。そして彼女をパートナーにして式に参加します。そうすれば……」

 

 王太子はその先の言葉を続けられず、その代わりにうめき声を上げた。

 彼は父親に渾身の力で顔を殴りつけられて、文字どおりに吹っ飛んだからだった。

 

「何をふざけたことを言っているのだ。私がどんな思いでユリアーナ嬢にお前の婚約者となってもらったと思っているのだ!

 国王であるこの私が、いくら幼なじみとはいえ、年下の家臣であるモントーク公爵に頭を下げて懇願したのだぞ。

 それなのに、私の許しも得ず婚約破棄をした挙げ句、今度は彼女を側妃に迎えるだと!

 よくもそんな恥知らずなことを言えたものだな。

 しかも、人払いもせずにこんな場所でそんな発言をするとは、お前の頭の中にはおが屑が詰まっているのか!

 モントーク一族を敵にしてしまえば、お前は王太子ではいられなくなる。いや、命だって危うくなる。それくらいのことをなぜ理解できないのだ!

 公爵だけでなく女魔王までお出ましになったら、お前だけでなく私の首まで無事ではないのだぞ!」

 

 烈火の如く怒り狂う父親の様に、全身の痛みすら一瞬消えたブライアン王太子は、呆然とした。

 そしてようやく自分の過ちに気付いたようだった、と報告を受けていた。

 今さらそんなことに気が付いても遅過ぎるだろうと、それを聞いたとき、私は呆れを通り越して、その愚かさに苦笑いを浮かべてしまった。

 その後、王太子は近衛兵によって自室のベッドへと運ばれ、マントリー子爵令嬢は貴族牢へ入れられたようだ。

 

 もっともその翌日に、早くも彼女は一般の牢へ移されたらしいが。

 どうしてそんなに騎士団の動きが早かったのかといえば、彼女のこれまでの経歴がすでに騎士団長(叔父ヘンリー)によって、調査済みだったからだ。そう。平民時代の犯罪歴が詳細に。

 ただし、それらの犯罪は未成年時のものであった。しかも元の両親や現在の父親である子爵によって全て賠償金が支払われていた。そのために、その行為自体が罪に問われたわけではなかった。

 ただ、そんな問題のある娘の素性を隠して養女にしたマントリー子爵の方が問題となり、その連座で勾留されたまま保釈されなかったのだ

 そしてその後の調査で、学園に入学後も言葉巧みにご令息達から金品を搾り取っていたことが判明して、結婚詐欺の容疑が浮上したのだ。

 

 彼女は恐らく婚約とか結婚なんていう直接的な言葉は使っていなかっただろう。

 しかし、過去に同じような罪を何度も犯している前科持ちがどんなに弁明しても、信用されるわけがなかった。

 しかも多くの令息や令嬢の恨みを買っているのだから、厳しく処断されるに違いない。彼女の過去を知りつつ養女にした父親と一緒に。

 

 登城していなくても、私はそれくらいの情報は得ていた。

 城には仲間がたくさんいたし、我がモントーク一族はこの国の諜報活動をしている者が多いので、大方のことは耳に入ってくるのだ。

 国王も私が身を置く環境を知っている。だからこそ、若造の私に対しても直接怒りをぶつけられずにいるのだろう。

 

 国王だって本当は全てわかっているのだと思う。自分が今、八方塞がりのどうしようもない状態に陥っていることを。

 それでも、私の父ならなんとかしてくれるに違いないと、微かな期待をしていたのだろう。

 それなのに、ようやく登城して来たのがその息子だけだったのだから、さぞかし絶望したことだろう。

 そして案の定、私のこの塩対応だ。


 しかし、いくら国王の命令でも無理なものはどうしたって無理なのだ。

 王妃の病はすぐには治らないし、ユリアーナを王家に取り込むことももはやあり得ない。

 国王は、パートナー無しで出席するのは恥だと主張するのならば、当然王太子では無理だ。婚約者予定だった相手は今投獄されているわけだし。

 というより、たとえ犯罪を犯していなかったとしても、王太子妃になんてなれる器ではなかったのだから最初から問題外だったのだが。

 今後新たな婚約者を見つけるのもかなり難しいだろう。そもそも王太子妃に相応しい相手がいたのならば、ユリアーナは婚約者に指名されていなかったのだから。


 そこで私はこう陛下に提案した。

 

「陛下、王太子殿下が無理ならば、王弟であるヴァルデ公爵夫妻にお願いするしかないのではないですか?」

 

 ヴァルデ公爵夫妻はお二人ともに語学が達者だし、容姿端麗で華もあり、各国の著名な人々の中にいても引けを取らないだろう。

 しかし国王は激しく頭を横に振った。

 各国の王族が集まる場へ弟夫婦を参加させてしまったら、次の国王の座は息子ではなく彼らだと認識させてしまう恐れがある。それだけはできないと。

 あれもだめこれもだめって、幼い子どもでもあるまいしと、ため息を吐きそうになって必死にそれを堪えた。

 まあ、こちらはそれがわかっていて、こんなまどろっこしい面倒なやり取りをしているわけなのだが。

 では、とっておきの案を出しましょうかね。

 

「陛下、それでは一体どうなさるおつもりなのですか?」

 

「ハロルドを、宰相を呼んでくれ。彼ならなんとかしてくれるはずだ」

 

「いくら父だって無理なものは無理ですよ。しかし父はこう申しておりました。

 もし陛下が直系に拘るのなら、ブライトン侯爵夫妻にお願いしたらどうかと」


 手のうちようが無い状態になったところで、私は、陛下にとって究極の選択となるであろう解決策を提示してみた。

 

「カタリナを?」

 

「ええ。陛下のお子様で国内にいらっしゃるのは王太子殿下とカタリナ様しかいらっしゃらないでしょう?

 ブライトン侯爵夫妻ならば語学力に優れ、国際的視野も持っておられるので、我が国の代表として適任だと思うと申しておりました」

 

 本当のところ父はそんなことを言ってはいないのだが、通常な精神状態をしていたら間違いなくそう言ったと思うので、平然とそう告げた。

 彼らに代理を頼むしか他に手立てがない、というのは紛れもない事実なのだから。 

 

 それを聞いた国王は眉間にシワを寄せたが、結局その案を受け入れた。

 そして、もちろんブライトン侯爵夫妻もその要請を受けたのだった。

 




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