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✽ 公子は祖母の慧眼の力に改めて感心する ✽ 第41章 叔父の発明品 (エリック視点)

 

 

 あの一族が集合した日以来、父はポンコツになって使い物にならなくなった。

 あの時点ですぐに謝罪して話し合えば良かったのだ。それなのに、ショックで何もしないでいるうちに半月が過ぎてしまった。

 その間母は家令や執事、そして侍女頭に全ての指示をし、家を留守にする準備を整えると、父と全く会話をすることなく屋敷を出て行ってしまった。

 ただしそれは家出ということではなく、単に父の側に居たくないからと叔母レイラと旅行へ出かけたのだ。

 行先も滞在期間も決めず、のんびりと気ままに旅行し、最終的には領地へ向かうらしい。

 

 弟達は母のことだけでなく父の心配もしているようだったが、正直なところ私には今、二人のことをかまっている余裕はなかった。

 

「二人のことは放っておいても大丈夫だよ。レイラ義叔母上に記憶石を持って行ってもらったから。

 お祖母様がなんとかしてくれるよ。俯瞰的な視野で公平に判断してくださる方だから」

 

「ああ。たしかにそれは言えてるな。

 それにしても、あの石には驚かされたな。本当に人の会話を記録出来るなんてさ。

 ケンドル叔父上の発明品の中で一番役に立つのではないかな」

 

「そうだよな。今後、言った言わないという論争もなくなるかもしれないな。

 まあ、魔石使うから使用料が高額で、世間に出回るかどうかはわからないが、公の機関には採用されるだろうな」

 

 スコットとマックスが感心したように言った。

 父の末弟であるケンドル叔父はバークス子爵家に婿養子に入ったのだが、領地経営は妻任せで、自分の好きなことばかりしている幸せな男だ。

 天才と呼ばれる頭脳の持ち主で、著名な植物の専門家なのだが、趣味で様々な発明品を生み出している。

 そして最近発明したというのが、魔石を利用した人の声を留めておくことができる装置で、「記憶石」と命名された魔道具だ。


 大昔この世界には魔物や魔力のある人間がそれなりにいたらしいが、今では滅多に存在しない。 

 しかし滅びた魔物の墓場となった山からは魔物達の化石が採掘されて魔石が取れる。その魔石を使って、発明家が色んな魔道具を作っているのだ。

 まあ、魔石は希少価値のある材料なので、それを自由に使えるのは裕福な貴族くらいだ。

 それ故に、発明家気取りの金持ちの道楽者が作る物だから、結局お遊び程度の発明品しか生まれて来ないのが現実だ。

 ところがケンドル叔父は違っていた。

 いや、彼もその例に漏れず、一応夢のある魔道具作りを目標にしているようなのだが、なぜか毎回実用性のある発明品ばかり生み出している。

 服の皺を伸ばす道具とか、お湯を素早く沸かす道具とか、手足を温める道具とか……その発明品は結構商品化されていて、そこそこ売れているらしい。

 

 そして彼の最新の発明品というのがその「記憶石」で、ケンドル叔父はその魔道具のお試しをしようとして、それを携えて家族と共にモントーク公爵家の屋敷にやって来たのだ。

 まさか父と我々のやり取りが「記憶石」に全て記憶されているとは思わなかった。

 しかし、これを聞かせれば、今回のやり取りを正しく祖母に報告できると私は思った。

 だからこそその石をレイラ義叔母上に託したのだ。片方だけの話ではいくら冷静に語ったとしても、やはり偏りが出て俯瞰的視野にはなりにくい。

 そのせいで聞く者の判断を誤らせる可能性がある。その相手がいくら賢者だったとしても。

 ただ「記憶石」の内容は間接的にユリアーナに伝えて欲しい、と母と義叔母上には頼んだ。

 ユリアーナへの思いは自分の口で伝えたいから。祖父のように。

 

 

 

 私が登城したのは、王都に戻ってから一週間ほと経ってからだった。

 一族との会合を持った後、仲間達と連絡を取り合い、今後の計画を練り直していたからだ。自分達の計画に父の考えも加えようと思ったのだ。


 私のいない間に、城内は混乱の極みに達していた。

 国王は苛ついて怒鳴りまくっているし、大臣達は皆で右往左往していた。そして私の顔を見ると一様にホッとした顔をした。

 ところが、この混乱を唯一抑えられるであろう宰相である私の父が、体調不良でこのまましばらく登城できそうもないと伝えると、彼らは落胆し、その顔は絶望色に染まった。

 

 しかし、私自身は父がこれからしようとしていた意図を理解していたので、今後はそれに自分達の新しく作り上げた計画どおりに、それを実行して行くだけだった。

 弟達だけでなく叔父のヘンリーも仲間に入ってくれたので、色々と心強かった。

 実のところ、義叔母のレイラまで母と一緒に領地へ行ってしまったので、叔父も父同様に落ち込んでしまった。それ故に使いものにならないかなと危惧していたのだ。

 しかし意外にも、妻に見直してもらいたいと、叔父は今必死になっている。


 まあ元々義叔母は別に叔父と離縁するつもりはないようだが、どうも部下達の会話から、叔父がマリアンヌ嬢(レノマン先生)に対して侮蔑発言をしていたことを知ってしまったようだ。

 しかもその件から、祖母をずっと誤解していたこともわかってしまい、義叔母からひどく失望されてしまったらしい。


 義叔母のレイラは元侯爵令嬢で、それこそ淑女の中の淑女だった。

 しかも才色兼備だったので、幼い頃から現在の国王の婚約者候補だと噂をされていた。

 しかし、彼女は幼い頃から祖母である女魔王(・・・)の信奉者だということがよく知られていたので、当時の王太子から敬遠されて、婚約者にならなくて済んだ(・・・・・・・・)


 叔父のヘンリーと義叔母のレイラは幼なじみで、互いに初恋の相手だったらしい。

 だから、王太子の婚約者候補には絶対になりたくなかったし、させたくなかった。

 そのために叔父は、義叔母が自分の母親に懐いている姿を目にしても、王太子の婚約者になりたくないがための振りだとずっと思っていたらしい。つい最近まで(・・・・・・)

 そのことがマリアンヌ嬢(レノマン先生)との一件でばれてしまい、義叔母に激怒されたらしい。


 叔父は汚名返上するために、私達のこの計画を何としても成功させたいようだ。

 ぜひとも父には弟を見倣ってもらいたい。

 捨てられてしまった!とただショックを受けているだけではなんの解決にもならないのだから。






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