表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/72

✽ 公爵令息は重すぎる愛を自覚している ✽ 第30章 友人の思い(エリック視点)


 それにしても、ブライトン侯爵夫人となったカタリナから今ごろになって学生時代の恋話を聞かされて、私は珍しく動揺した。

 カタリナ夫人だけではなく、今では親友になったフランドールに対しての気まずさもあったが、一番申し訳なく思ったのはマリアンヌ嬢に対してだった。

 

「なぜマリアンヌ嬢の気持ちを知っていながら、仲間に引き摺り込んだのですか? 

 彼女は貴女の親友でしょ?」

 

 カタリナ夫人を睨み付け、少し恨み節でそう言うと、彼女はため息を吐きながらこう答えた。

 

「さっき、マリアンヌには忠告したと言ったけれど、時系列で言うと、それはあの集まりに呼んだ後だったのよ。

 声を掛けたときは、それほど彼女と親しかったというわけでもなかったの。


 貴方とフランドールとラドクリフト様の中に、女性が私だけでは目立つし不自然だと考えたから彼女を加えたのよ。

 でも、仲間にするなら誰でもいいというわけにはいかなかったから、成績優秀で真面目なマリアンヌを選んだの。

 彼女にはすでに婚約者がいたから、貴男達と恋愛沙汰なんて起きないと思ったの。

 それに、彼女は保守派の家族や婚約者をあまり快く思っていないように感じていたから、私達の主義に賛同してくれるかも、って思ったし。

 でも、まさか彼女の家と婚約者があれほどひどいとは思っていなくて。

 まあ、そんな辛い環境の中でも貴方を想うことで耐えられていたというのだから、彼女を仲間にしたことを私は後悔していないわ。

 恋でもしていなければ彼女は絶望したまま、あのクズ男に婚約破棄された挙げ句に、クズ家族にどこかの年寄りの所へ後妻として嫁がされていたでしょうから」

 

 男の方が一方的に婚約破棄する事象は、残念ながら後を絶たない。

 理不尽な目に遇っている女性達を気の毒に感じても、その全てに私が口を挟むなんてことは不可能だった。

 苛立ちながらそれを聞き流すしか術がなかった。

 だからもしマリアンヌ嬢が仲間でなかったら、助けようとはしなかったに違いない。


 大切な友人だと思っていたからこそ、彼女をまるで奴隷のように扱う婚約者や、物のように扱う彼女の家族が許せなかった。

 わたしは必死に対策を考え、計画を練り、彼らを追い込んで行った。

 しかもこちらの存在は相手側には絶対に悟らせずに。

 自分達が見下していた一令嬢(娘)にじわじわと追い詰められ、さぞかし恐怖を感じたことだろう。

 

 しかし、そのことで彼女が私への想いを強くしたのだと知って、私はなんとも言えない気分になった。

 それでも、彼女が最悪の環境から脱出することに協力できた。そのことを私は後悔するつもりはない。

 そして、彼女も私ことを含めたそれら諸々を乗り越え、彼女なりの幸せを見つけられたからこそ、カタリナ夫人もこうして話してくれたのだと私は解釈した。


 マリアンヌ嬢は平民になったが、優秀な成績で卒業して学園のマナー教師となった。

 カタリナ王女が口添えをすれば、彼女の力からすれば教科を教える教師になれただろう。

 しかし、彼女はそれを固辞したらしい。


「私達の改革が成功すれば、そのうち実力に見合った仕事を与えてもらえるでしょう。その時に過去にコネを使っていたらきっと後悔することになるから」


 と言って。

 

 彼女は決して表立って改革派の活動をしているわけではない。

 しかし、偏見にとらわれることのなく物事を見て、聞いて、考えることをさり気なく生徒に伝え、見守っている。現在の世界情勢とこの国の実情をさり気なく比較しながら。

 何が正しいのか、良いことなのかは簡単に答えが出ることではない。

 大切なのは人に惑わされず、鵜呑みにせず、まず自分の目と耳と頭で確かめ判断することなのだと彼女は伝え続けているのだ。

 真実を知るために本や新聞を読み、外へ出かけ、人と触れ合い、語り合いなさいと。

 

 そして自ら動き出した生徒達を、彼女は陰から応援し協力をしていたのだ。そう、例えばユリアーナの勉強会などを。

 婚約者の令嬢を見下して好き勝手をするような連中や、その地位や資産の力で下位貴族の令嬢を陥れようとする令嬢達。

 マリアンヌ嬢はそんな輩の妨害から、勉強会を陰から守ってくれていたのだ。

 その話をユリアーナとカタリナ夫人から聞いて以来、私はずっと彼女には感謝していた。

 

 しかし、女性としての適齢期を迎えても、まだ婚約者を持とうとしない友人のことを、正直心配していた。

 マリアンヌ嬢が元婚約者のせいで深く傷付いていることはわかっていた。それでも、そろそろ一歩を踏み出して結婚してもいいのではないかと思っていた。

 だから誰か良い人がいたら彼女に紹介しようと、こっそりと探し始めていたのだ。


 おそらくそのことを、カタリナ夫人がどこかで嗅ぎ付けたのだろう。

 そして彼女はそれを阻止しようと、秘密にしておきたかったであろう自分の初恋の話まで持ち出して、マリアンヌ嬢の話をしたのだろう。

 私がもうこれ以上、無自覚に彼女を傷付けないようにするために。

 

「結婚ばかりが幸せとは限らないわ。男も女もね。

 貴族は恵まれた暮らしをさせてもらっている分、領地領民を守るために政略結婚を義務付けられても仕方ない面もあるわ。

 けれど、マリアンヌは平民になったのだから、どうしても結婚しなければならない、ってことにはならないわ。

 好きな人ができたらその時に結婚すればいいのよ。彼女は仕事を持っていて、独身でも生きていけるのだから。

 今彼女は、教師という仕事が楽しくてたまらないらしいの。だから幸せだって言っていたわ」

 

 彼女は自分の力で自身の幸せを見つけたのだ、とカタリナ夫人から聞かされた。

 私は心から安堵すると同時に、彼女の幸せがこれからも続くようにと、友人として切に願ったのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ