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✽ 公爵令息は重すぎる愛を自覚している ✽ 第28章 思いがけない告白(エリック視点)


 三人の王女達がなぜあれほどまで怒ったのか、その理由を知ったのは、それからかなり年数が経ってからだった。

 第三王女であるカタリナ殿下の結婚から二年ほど経ったころ、双子の王女が揃ってこの国に里帰りしてきたときだった。

 私は、三姉妹が揃っているお茶会の席に招待された。そこで衝撃的な話を聞かされた。

 なんと、カタリナ王女の初恋の相手は私だったというのだ。



 私は物心付いたころから、三人の王女達を身を呈して守ってきた。

 しかしそれは、別に祖母や両親からそれを命じられていたというわけではなかった。

 ただ、当時の王太子夫妻は王女達にあまりにも無関心だったので、王宮の警備はともかく、子供の集まる場所の配慮が十分にはなされていなかった。

 彼女達に付いている侍従や侍女があまり優秀ではなかった。

 そのために彼女達に嫌がらせやをする者や、お近づきになろうとする不埒な輩に上手く対処ができなかった。

 それを間近で見ていた私は、幼なじみ達がそんな嫌な思いをしているのを我慢できず、勝手にしゃしゃり出ていたのだ。

 

 私は幼いころから鍛錬を積んでいたので、護衛術ならすでにかなりの腕前だった。相手が多少年上だろうが、腕を後ろ手に捩じ上げるくらい簡単だったのだ。

 しかも侍従達とは違って、公爵家の令息である私に抵抗し楯突く者はいなかった。まあ、私の背に女魔王の影がちらついていただろうし。

 

 そしてその後学園に入学してからも、私は自主的にカタリナ王女の護衛的役割をこなしていた。

 双子の王女達は当時はもう他国の王太子と婚約していたために、さすがにしっかりした護衛が付けられていた。

 そのために私は、カタリナ王女だけに専念していたのだ。

 しかしそのせいで、私が彼女の婚約者候補などと噂されていたのかもしれない、とその時にようやく気付いたのだ。迂闊だった。


 私からしたら権力バランスを考えれば、私がカタリナ王女を娶るなんてありえないことだった。

 それに、そもそも自分達は幼なじみであり、親友ではないか、と思っていたのだ。

 男女の友情などあり得ないという者もいたが、自分が彼女に異性として見られているとは思ってもいなかった。

 剣も交えていたし、彼女を女扱いした覚えがないからだ。

 

 しかしカタリナ王女からすると、私は彼女を守る騎士として映っていたらしい。

 

「私達でさえ、いつも嫌な奴らから守ってくれていた貴方を、素敵な王子様のように思っていたのよ。

 貴方は自分の容姿にあまり関心がないみたいだけれど、貴方のような眉目秀麗な人をこれまで見たことがないもの。絵本の挿絵の中でだってね。

 貴方のお父様以外って注釈が付くけれど。

 まあ私達は、二つも年上だったからさすがに恋心までは持たなかったわ。

 でも、カタリアが貴方を好きになってもなんら不思議はなかったのよ。

 貴方って本当に綺麗で、凛々しくて、頭が良くて、憧れの存在だったのだから。

 しかもいつも側にいて守ってくれていた素敵な騎士だったわけだし」

 

 チェルリー第二王女のこの言葉に私は喫驚した。えっ? そうなのか? いくらなんでも褒め過ぎだろう。何か裏があるのか?と私は勘ぐってしまった。


 とにかく、カタリナ王女は私が彼女を守っていることを、自分に好意を持ってくれているからだと思い込んでいたのだという。

 だから、私の婚約者の話を聞いてもそれは女除けの作り話で、自分との婚約を陰でこっそり進めててくれていのだと信じていたらしい。

 学園に在学中の私は中立派を装っていたので、あの父親も私との婚約に反対しないのではないか、とカタリナ王女は考えていたようだ。

 

 しかし、幼少期から皮肉を言ったり、からかっては怒らせていた自分が、まさかカタリナ王女に好かれていたなんて、普通思わないよな? 

 彼女は自虐趣向だったのか? それともこの顔がたまたま好みだったのか? 

 まさか本人に面と向かってそれを聞くわけにもいかず、私は悶々とした。

 しかも、カタリナ王女が発した次の言葉で、もやもやがさらに深まった。

 

「才気煥発で洞察力にも優れていると評判の貴方も、自分に関することは本当に鈍いわよね。

 私、ずっと貴方を好きだったのよ。そして貴方も私を思ってくれていると思っていたの。

 だから生徒会で貴方がマリアンヌ(レノマン先生)と仲良くしていると嫉妬したし、腹を立てていたわ」

 

「なぜマリアンヌ嬢に嫉妬なんてしたんだ? 彼女は婚約者持ちだったじゃないか」

 

「彼女の婚約者が最低のクズ男だったことは貴方だって知っているでしょう。

 そもそも彼女とあの男と別れさせたのは、貴方と言っても過言ではないのだから。

 まあ、みんなは知らないでしょうけれど」

 

「最終的に彼女は婚約破棄をしたが、在学中は婚約していたのだから、相手がどんなに酷い奴だろうが、違う男を思ったらそれはまずいだろう?」

 

「貴方って恋愛に関しては考えが硬いわね。

 人を好きになるのに倫理観なんて関係ないのよ。もちろろんそれを行動に移さなければだけどね。

 心で思うだけで不倫とか子供のようなことは言わないでよね」

 

 そうなのか? 

 まあ、妹に恋心を抱いている自分に、倫理観がどうこういう資格はそもそもなかったのだが。

 しかも妹がまだ十歳にもならないころから好きで、絶対に他の男の下には嫁がせないと勝手に決めていた私は、執着心と所有力の強い変態だ。


 彼女達の思いに気付けなかったことには心から申し訳なく思う。

 しかし、こんな男と両想いになるよりはずっとマシだったに違いない。

 本当に哀れなのは彼女達ではなく、そんな私から逃げられないユリアーナだろう。

 それがわかっているのなら、さっさと彼女を解放してやればいいのだが、それだけは絶対にできない。

 

 話は少しずれたので元に戻すと、私に失恋したカタリナ王女は、マリアンヌ嬢に忠告したのだという。

 モントーク公爵令息には婚約者がいて、その彼女にしか目に入らないみたいだから、貴女も諦めた方がいいわ、と進言してくれたらしい。

 するとマリアンヌ嬢は、

 

「最初から告白するつもりはなかったので大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。

 婚約者に冷たくされ、ひどい目に遭わされても、私にだって想う人がいる。

 だからこんな男に嫌われていても一向に構わない。そう思うことで、これまでどうにか耐えることができたのです。

 ですから、この気持ちを今さら消すことはできません。でも、決してエリック様に迷惑をかけません。ですから見逃してください」

 

 とカタリナ王女に懇願したらしい。

 そんなことを知らなかった私は、マリアンヌ嬢が卒業前にあの婚約者からの婚約破棄されたことを知って、友人として腹が立てた。

 だから彼女に助言して、一方的な婚約破棄を撤回させ、反対に相手の有責で婚約解消ができるように話を持って行った。

 その結果、彼女は裁判に勝つことが出来た。

 そして彼女は慰謝料を手に入れられたので、毒親の籍を抜けて独立したのだ。

 これは偏に彼女が頑張った結果であり、私はフォローしたに過ぎなかった。

 しかしこれらの一連の出来事で、彼女は私への思いをさらに強くしてしまったのだという。

 

 そしてこのままでは私への想いが膨らみ過ぎて、いつ爆発するかわからないと、彼女は恐ろしくなったらしい。

 そのために、彼女は卒業とともに私への思いを、強い覚悟を持って断ち切ったのだそうだ。

 

「今ごろになって、なぜ私が貴方にこんな恥ずかしい話をしているのか、それがわかるかしら? 

 それはね、貴方への恋心を私達が完全に昇華させることができたからなの。

 私とマリアンヌは、ようやく貴方のことを大切な友人で同志だと、本当に思えるようになったのよ」

 

 そうカタリナ王女は言った。いや、彼女は今はブライトン侯爵夫人だ。

 フランモール=ブライトン侯爵令息と結婚し、おしどり夫婦として評判だ。すでに嫡男も生まれて、幸せそうだった。

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