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✽ 公爵令息は重すぎる愛を自覚している ✽ 第26章 双子の王女(エリック視点)

 

 ユリアーナと王太子の婚約を解消させるための方法。それはすなわち、祖母と王太后様が実現したくてできなかった長年の希望(・・)を実現させることだった。

 つまり、女性王族にも王位継承権を認めさせることだ。

 一般の貴族の家ではとうの昔に認められたのに、なぜか王位だけは旧態依然のまま、女性王族にはそれが認められていなかった。

 

 あの女傑二人でさえ、王室典範の内容を変更させることができなかった。それほど、これは困難な課題だった。

 なにせ貴族院の議員は高齢の男性ばかりで、保守的な考えを持つ者がほとんどだからだ。

 しかし最近では、世界的な流れを無視するわけには行かない状態になっている。

 世界の情勢を鑑みると、以前は男系や女系、生まれの順、実力主義と、各国によって王位継承権の在り方は様々だった。

 

(二十年前には王家を廃して市民が国の代表を決めようとした国もあったが、それは数年後には崩壊している。

 一部の市民が勝手に決めた支配者を多くの国民が支持して敬って従うなんてあり得ない。

 まあ、巨大な軍を作り上げてそれを統率できれば可能だが、そもそもそんなものを市民の力だけで組織できるわけがない)

 

 四半世紀前、次期国王を実力主義で選ぶという方法で決定した国があった。

 その国はその後大きく繁栄した。

 そして結局それを真似た国々の多くが、今では目覚ましい発展を遂げている。

 もちろん実力主義となると、それに共なる権力争いも激しくなる。

 しかし、実際はどんな制度であっても、権力を求める者がいる限り陰謀策略はなくならない。

 それなら優秀な人間が王になった方が、事態の収拾も上手くやれる、ということなのだろう。

 それ故にそれに倣う国々が増えて、未だに男系のみを続けているのは我が国を含む少数の国だけなのだ。


 とはいえ、我が国の体制が上手く機能しているのならば、自国民も他国から口出しを許さないだろう。

 しかし、先代国王のころから、王家は上手く機能していなかった。一歩間違えば、他国から攻め入られて国が崩壊していたかもしれない。


 その時この国を救ったのは前王妃と筆頭公爵家の嫡女だった。

 その際に王位継承問題を解決できていれば良かったのだが、まだ若い二人にそんな余裕はなかったのだろう。国と王宮を立て直すことに必死で。

 そしてその後王妃の跡を継いだ現国王がそこそこ優秀だったために、王室典範を改正しようという議論が盛り上がることはなかった。


 しかしここ数年で徐々に国力が落ちてきていた。

 いや、正確に言えば落ちているというより、他国の勢いに追随できてなかったせいで、相対的にその地位が下がった、といった方が正しいのだろう。


 外交や経済、そして文化の面でも他国と比べると見劣りするようになってきたのだ。

 それはこの国では、新しい考え方を容易に受け入れないという、古い体質の貴族達が多いからだ。

 正直、貿易などに携わり世界的な視野を持つ平民の中には、大分前から焦りや不安を覚える者も増えてきていたのだ。

 

 私は学園に入学した年、二学年上だった双子の王女に一つの提案をした。

 それは、この国の王室典範の改正を進めようというものだった。

 

「お二人は半年後に学園を卒業したら、他国へ嫁ぐことがすでに決まっているので、今から王位を狙うのは手遅れです。

 しかし正直なところ、ブライアン王太子が王位に就くことを不安に感じているのではないですか?」

 

「まあ! よくそんな恐れ多いことを平然と口にできるわね」

 

「チェルリー、今さら何を言っているのよ。この子に怖いものがあるわけがないでしょう。

 あの恐ろしいお祖母様達に平気で苦言を呈することができるのに」

 

「シェルリー第一王女殿下、私にだって怖いものくらいありますよ。もし妹に嫌われたらどうしようと毎日不安で仕方ないんです。

 学園に入学以来、我が家には私宛の手紙や贈り物が殺到して、妹にはまるで女たらしを見るような目で睨まれるのですよ」

 

「「シスコン!!」」

 

 王女達には呆れられたが、これは大袈裟ではなく、当時は深刻に悩んでいたのだ。

 ユリアーナとの婚約は両親との間では内定していたが、それはあくまでも彼女がそれを望んだ場合に限るのだ。

 私が女好きだと妹に勘違いされて、もし嫌われでもしたら大変だ。


 私は送り主一人一人に対して、礼の言葉と、すでに決まっている相手がいるので今後は手紙も贈り物もご辞退します、と記した手紙を返礼品と共に送った。

 すると、私にはすでに婚約者がいるという噂があっという間に学園中に広まり、交際目的で私に擦り寄ってくる者達はいなくなった。

 まあ、中には婚約者から奪い取ってやろうというつわ者も数名いたけれど。


 そしてそれからというもの、私の婚約者は一体誰なのかという疑問と、何故隠しているのかという謎を解き明かそうとする連中が、未だに集会を開いているらしい。全くモノ好きというか、暇人だな。

 

 まあそれはともかくと、私は話を元に戻した。 

 

「お二人は内心では、妹である第三王女のカタリナ殿下に王位を継いで欲しいとお考えなのでしょう?」

 

 二人は顔を見合わせると揃って頷いた。

 

「あの子にならこの国を任せられると思うのよね。貴方もそう思っているのでしょう?」

 

 シェルリー第一王女の問に私は首を傾げた。

 

「それはどうでしょう。私としてはお二人のうちどちらかが女王になってくださる方が安心できますけれどね。

 カタリナ殿下は真面目過ぎますからね。

 人を手玉に取ったり、手懐けたり、操ったりできないでしょう? 脅したり、命令したりはできるでしょうが」

 

「待って、待って! 

 それじゃあ、まるで私達なら人を懐柔したり丸め込んだりできると言っているようなものじゃないの!」

 

「チェルリー第二王女殿下、実際にお二人は、人を丸め込んだりたらし込んだりするのがお得意じゃないですか」

 

「「下品だわ! 不敬よ!」」

 

 双子の王女達は天使のような無垢で愛らしい顔をピンク色に染めて、声を揃えて大きく叫んだ。その声さえも澄んで清らかだ。

 しかしそんな二人の性格はとらえどころがなく、破天荒で気まぐれだ。

 その上我が祖母に鍛えられて、心身共に強靭だ。祖母ほどではないが、違う意味で外見と中身のギャップが激しい。

 

 彼女達なら自分の父親のことだって、上手く丸め込んで操れたのではないかと思う。

 しかし彼女達は言う。

 無事に生まれてきたことを喜ぶこともなく


「何故女児が二人も生まれてきたのだ。男児一人生まれてくればそれで十分だったのに」


 そう父親に言われたことは死んでも忘れないと。 

 そしてそんな父に、次こそは男の子を産みますと、夫に泣きながら謝った母親のことも。

 彼女達は、母親のお腹の中いるときからの記憶を全て覚えていたのだ。

 

 妹のカタリナ王女が生まれたときの記憶ももちろんあったという。

 国王は怒り狂い、妻である王妃を責め立てていたようだ。

 その精神的ショックのせいで、王妃の産後の肥立ちが悪くなり、一年以上彼女は寝室から出てこられなかったという。


 つまりその間王女達は母親と面会ができなかった。

 そして赤子のカタリナ王女は、母親に抱かれたことは一度もなかった。

 そのために彼女は母親を求めたり慕うことはなく、母親の方も赤子に愛情を抱くことはなかった。

 まあそれは、上の二人の姉達も似たようなものだったらしいが。


 そしてもちろん父親は問題外だった。

 彼女達にとって父親は、赤の他人より遠い存在であり、疎ましいだけの人間となっていた。

 そんな父親に媚を売ってまで女王になるより、他国へ嫁いだ方がいいに決まっているよな。私も幼なじみとしてそう思っていたのだが。

  







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