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✽ 公爵令嬢、未来を夢見る ✽ 第20章 兄への思い2(ユリアーナ視点)

この章は少し短めです。

 

 三年前、私は偶然に祖父と兄エリックの会話を聞いてしまった。そして、兄が父の従兄の息子だという事実を知ってしまったのだ。

 ひどいショックを受けた私は、体調不良だと嘘をついて自室に三日ほど引きこもった。


 エリック=モントーク公子は、父親のハロルド=モントーク公爵に生き写し。

 公爵家特有のほんのり赤紫色がかったプラチナブロンドの髪に、緑系の瞳の超絶美形。

 そして容姿だけでなく、その能力の高さも受け継いで、モントーク公爵家は将来安泰だと社交界では評判だった。


 次兄のスコットお兄様は、婿養子だったマーチンお祖父様似の金髪碧眼。

 すぐ上のマックスお兄様は、お母様似の黒髪碧眼。

 そして私はお祖母様似で、赤味を帯びた明るい茶髪に明るいアンバー色の瞳。

 顔立ちは四人ともそこそこ兄妹だと分かるくらいには似ているが、色目がみな違っている。

 そんな中で、お父様に一番よく似ているエリックお兄様がお父様の子供じゃないなんて、私には到底信じられなかったのだ。


 しかし三日で私は立直った。

 血が繋がっていることに変わりはないのだから、何も問題はないと私は頭を切り替えたのだ。

 それに兄は兄。私の大好きなお兄様なのだと。

 とはいえ、やはり真実を知る前と後では、私の心の持ちようは変化してしまった。


 内輪のパーティーで兄がたくさんのご令嬢方に囲まれているのを見ると、ムッとするようになってしまったのだ。

 でもそれは、大好きな兄を独り占めしたいという妹の我儘なのだ。

 そんなはしたない感情を持ってはいけないと自分を戒めて、その感情は一切表には出さないように努めていた。

 

 しかし学園に入学する日が半年に迫ってきたころの、下の兄達との会話で私は気付いてしまったのだ。

 自分は兄としてではなく一人の男性として好きなのだと。 

 

 でも……これは決して結ばれない、結ばれてはいけない恋なのだと思った。

 なぜなら、兄エリックと結ばれるためには、当然お兄様の出生の秘密が明らかにしなければならなくなるからだ。


 でもそうなったら、兄は後継者として認められなくなる可能性がある。

 お兄様は幼いころからずっと、厳しい後継者教育を受けてきた。

 そして今では世間でも文句無しの次期公爵だと言われている。

 なにせこんな巨大な力を有するモントーク公爵家の手綱を握れるのは、優秀かつ少々腹黒のエリックお兄様しかいない。

 だからこそ、お兄様の出自については隠し通さなければいけないのだ。


 スコットお兄様とマックスお兄様。この二人の兄達には幼い頃から夢があり、彼らはそれに向かってずっと努力していた。

 それなのに、もしエリックお兄様が後継者として認められなくなったら、下の兄達も希望の進路に進めなくなる恐れがあるのだ。


 そして、両親も戸籍を偽ったと罪に問われる恐れがあるのだ。

 ただ親を亡くした赤子のためにしたことで、悪意や作為がなかったとしても。

 

 私は兄への恋心を胸の奥底にしまい込んだ。

 そして王太子との婚約は、兄への思いを断ち切るのにちょうといいとも思った。

 しかし、王宮に通うようになると、女官に言い寄られている兄の姿を目にする機会が増えて、むしろイライラしてしまった。

 そのために、却って心穏やかでなくなる日が増えてしまったけれど。

 

 その上学園では、兄の思い人だと噂されていたレノマン先生もいて、彼女との触れ合いも、最初のうちは正直苦痛だった。

 先生はとても優秀な教師だった。そして生徒の誰に対しても公正で平等に接する素晴らしい人物だったのに。


 それに、私だけでなく、先生の方も私を意識してたようで、時々彼女の視線を感じていた。

 それは私が王太子の婚約者だったからなのか、エリックお兄様の妹だったのかはわからなかったけれど。


 先生と私的な会話を初めて交わしたのは、ようやくできた友人達と共に勉強会を始めたころだった。

 最初は気付かなかったけれど、私の行動を先生が陰でサポートしてくれていたことに気付いて、改めて礼を言ったのがきっかけだった。


 レノマン先生は、エリックお兄様と私が良く似ていると言った。

 本当なら喜ぶべき言葉だと思うのに、なぜか嬉しいとは思えなかった。

 似ているわけがないわ。たしかに血は繋がってはいるけれど本当の兄妹ではないのだからと。

 先生は兄とは仲の良い友達だと言った。そして恩人でもあると。

 だから、ついつい貴女が気になってしまったと先生は笑っていた。

 私はなんとなく、やはり先生はエリックお兄様に好意を持っているような気がした。

 でも、卒業して四年以上経っても婚約していないということは、兄にはその気がないからなのだろう。

 当時の私は、必死にそう思い込もうとしていたのだった。

 

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