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✽ 元女公爵、昔語りをする ✽ 第11章 祖父のプロポーズ(フランソワーズ視点)


 えっ? いつからお祖父様を好きだったのかですって?

 それは最初からよ。兄の方腕になってもらおうと父に呼び寄せられた彼を一目見た瞬間に。つまり一目惚れね。

 貴女にもわかるでしょう? あんなに優しくて、強くて、格好良くて、頭が切れている素晴らしい男性なんて他にいるわけがないもの。

 えっ? エリックがいるですって? やめてちょうだい。あんな腹黒と一緒にしないで。

 マーチンは純粋で真っ直ぐで辛抱強くて、とても温かい人なのだから。しかも最高に強くて逞しいのだから。

 まあ、一人の女性に一途って点ではよく似ているとは思うけれどね。

 

 それなのになぜ素直にお祖父様のプロポーズを受けなかったのかって?

 それは愛していたからこそ、義務感でプロポーズしてきた相手とは結婚なんてしたくないと思ったのよ。

 断った私にマーチンはこう訊ねたわ。


「それでは貴女は一体誰と結婚するつもりなのか?」


 だから、私はこう答えてあげたわ。

 

「男の方がいなくても私はこの公爵家を守っていけると思います。私はこの国の守護神で、最強の女とか女魔王と呼ばれているそうですから。

 後継者は従兄弟達の息子の一人を養子に迎えるつもりだから心配はいらないわ」

 

 ってね。彼はまだ何か言おうとしていたみたいだけれど、それを無視して私は部屋へ戻ったわ。

 ところがね、なんとその翌日から毎日薔薇の花を一本手に持って、懲りずにプロポーズにやって来たのよ。

 花に罪はないから受け取ったけれど、彼のことはすぐに追い返してやったわ。

 そしてそれが一月も続いたものだからもううんざりしてしまって、迷惑だからもう顔を見せないでって言ってやったの。

 

「そもそも私の花壇から私の薔薇を切って贈るなんて、なんて図々しいの。

 そんなお手軽なプレゼントで私の心を向かせることができると思っているなら、馬鹿にするな!だわ」

 

「貴女が本当に欲しがっているものもわからない俺は、確かに気の利かない駄目男だ。

 そして、貴女が望むものならどんなことをしてでも手に入れる気概だけはあるのに、それを教えてもらえないような情けないやつだ。

 しかし、この薔薇は決してお手軽な贈り物などではない。

 この薔薇は十年前から、ドクトール様や庭師のサンドル爺さんと一緒に俺が手入れしてきたのだから」

 

「えっ?」

 

「どんなに忙しくても俺は、時間を見つけてはあの庭園へ行ってこの薔薇の世話をしてきたんだよ。絶対に枯らさないと決意して。

 そしてドクトール様がこのお屋敷を去るときに彼に誓ったのだ。

 フランソワーズ様があの薔薇の庭園でゆっくりとお茶を飲める生活ができるように、これからは俺が貴方の代わりに必ずこの公爵家を守りますってね。

 

 身分違いだってことは子供のころからわかっていたから、これまで貴女への思いを誰にも話したことはなかった。

 だけど、ドクトール様はとうの昔から気付いていたみたいだ。

 だから、あの薔薇の世話を手伝って欲しいと俺に声をかけてくださったのだと思う。

 

「妹を幸せにしてやって欲しい。君には、何にでも頑張り過ぎるあの子のとまり木になってもらいたい。

 君が強いことを私は誰よりもよく知っている。でも、君が守らなくてもあの子もかなり強い。

 でもね、心は違う。見かけどおりに本当は繊細で傷つきやすい。

 それなのに、人のためなら無理をしてでも頑張ってしまう子なんだ。

 だから身を守るというより、あの子の側にいて安らぎの場になってくれ。

 もちろん今までもそうだったと思う。でもこれからは主従関係ではなく夫婦としてね」

 

 ドクトール様は、俺とフランソワーズ様が両片想いだと以前から気が付いてたんだ。

 だからこそスラレスト王国の王配になる決断をされたのだと、そのとき俺は気が付いたのだ」

 

「どういうこと?」

 

「ドクトール様はフランソワーズ様に後継者の座を譲りたかったのだと思う。

 モントーク公爵当主とは、武門の長になることを意味する。その座にはご自分よりも、やはり貴女の方が適していると考えられたのだろう。

 貴女は魔王とか守護神という通り名がついているほどこの国最強の女性だから。

 それに王家の内情を知っている貴女を、この国は囲い込んで側に置こうとするに違いない。

 それなら女公爵になってしまった方が、王家と対等にやり取りができるし、貴女の自由が保たれると思われたのだろう。

 ただの貴族の妻の立場になるよりも。

 

 ただし、王家はきっと夫選びに口を出してくるだろう。貴女が反体制勢力の家との縁を結んでしまうと困るので。

 それならば俺が貴女の結婚相手に立候補すれば、それを旦那様達や王家が認める確率が高いと考えられたのだと思う。

 ドクトール様は何事にも俯瞰的視点で冷静に物事を判断できるお方だから。


 俺の身分は低いが、モントーク公爵家の一門の人間だ。

 その上、近衛騎士団の騎士としてそれなりの手柄を立てて、一応貴女に匹敵する力のある男だと周りからは認識されているからな。

 

 上に立つ者は腕力より頭脳が大切だと思う。

 しかし、将たる者が先頭に立つことで士気が高まるのも事実だ。

 ご自分では到底そんな真似はできないと、ドクトール様はずっと悩まれていたのだと思う。

 そしてそれは旦那様や奥様も同じ思いだったのだろう。今はとりあえず平和だが、世の中いつ何が起こるかはわからない。

 大分お元気にはなったとはいえ、いざ世の中が不安定になって、ドクトール様が戦場に馳せ参じるということになったら、寿命が縮まってしまうことは明らかだ。

 旦那様達はそれを避けるために婿入りを認められたのだと思う。丁度相手は王族だったから都合が良かったのだろう」

 

「それはどういう意味? 王族じゃなきゃ結婚を決めなかったということ?」

 

「例えば、ドクトール様が体調不良を原因にして後継者を降りると発表したとしよう。

 もしそれが事実だったとしても、貴女が後継者になったら、兄からその座を奪い取ったと噂されるかもしれない。

 しかし、兄が他国の王配に望まれて拒否できなかったことにすればどうだろう。

 この場合は、妹が後継者になっても同情されることはあっても悪く言われることはないのでは?とそう考えられたのだと思う」

 

「やっぱり、私のために結婚を決めたのね? 

 私のせいで兄は望まない結婚をすることになったのね。私がお兄様を不幸にしてしまったのだわ」

 

 私は兄の心情を知らされて、再び後悔の念に襲われたわ。

 しかし、それは違うと即座にマーチンは言ったの。そして、兄から届いた手紙を私にも見せてくれたのよ。

 兄は婚約期間にスラレスト王国で王配になるための勉強をしていたの。

 毎日がとても楽しく有意義だとそこには綴られていたわ。


「女王との仲もかなり深まり、互いに相手を思いやり助け合う良きパートナーになれそうだ。

 自分の持つ知識がこの国の役に立てると確信している。それが誇らしい。

 そして残念ながらその自信は、おそらく母国では得られなかっただろう。

 

 自分は幸せな結婚をする。だから妹にも幸せな結婚をしてもらいたい。

 私の結婚式には君に妹のパートナーとして参加して欲しい」


と。

 

 その手紙を読んでお祖父様のプロポーズを受け入れたのか?ですって! とんでもないわ。

 だってよく考えてみて、ユリアーナ。

 確かに私はお祖父様からプロポーズされたわよ。

 でもね、普通そのプロポーズをする前に言うべき言葉というものがいくつかあるでしょう。

 それをすっ飛ばされて諾と頷けるわけがないでしょう。

 貴女はいいわね、ずっと昔からその言葉をエリックに言われ続けて。羨ましいわ。

 

「僕のユリアーナ、大好きだよ」 

 

 恥ずかしげもなく、貴女を抱きしめながら年がら年中囁いていたでしょ、あの子。

 えっ? それは妹として大好きと言っていたに過ぎないのでは? ですって?

 違うわよ。子供のころがずっと貴女を好きだったのよ。

 たまにしか会えなかった私でもわかっていたわ。

 貴女って案外鈍いわよね。そんなところは父親によく似ているわ。さすが親子ね。


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