第八話 美味しいでしょ?
夕飯の時間になったので食堂に向かう。
魔王はもうすでに席に座っていたので、あたしも対面に座った。
席についたのはあたしと魔王のみだ。こんなに大きくて長いテーブルがあるのに、二人だけで食事するのはなんだか寂しい。どうせならグレイスや使用人も席に座り、みんなでご飯を食べた方が楽しいんじゃないかと提案したのだが、高貴なお方と下々の者が同じテーブルに着いたらマナー違反です、と却下されてしまった。
まぁ、それがマナーなら仕方ないと思い、テーブルにのっている料理を見つめた。
お肉料理にパン。それにスープとサラダとデザートがある。どれも凄く美味しそうだ。その中で、あたしはサラダに注目した。
「あ! このサラダ、ダイコンだ。あたしのダイコン使ってくれたんだ!」
それからあたしたちのそばに待機している料理長の方へ顔を向けると、ニッコリ微笑んでくれた。
「はい。フウ様からいただいたダイコンで作ったダイコンサラダです。収穫したてなので、みずみずしくて美味しいですよ」
「わーい! 料理長、ありがとう!!」
あたしは席から立ち上がり、魔王の元に向かった。
食事中に席を立つなどマナー違反かと思うが、細かいことは気にしちゃダメなのだ。あたしは魔王がダイコンサラダを食べてどんな反応をするのか見たかったのだ。
ニコニコ微笑みながら魔王にダイコンサラダを勧める。
「魔王。サラダ食べて。美味しいよ?」
「……。ジロジロ見られたら食べにくい」
「そんなこと言わずに。食べて食べて」
魔王は呆れたように私の顔を見ていたが、ハァーとため息をつくとフォークを握った。
それからパクリとダイコンサラダを口に入れる。
あたしの目がキラキラと輝く。
「どう? どう? あたしのダイコン、美味しい?」
シャクシャクダイコンを咀嚼していた魔王は、ゴクンと飲み込んだ。
「……。まぁまぁだな」
まぁまぁと言いつつ、再びダイコンサラダにフォークを突き刺し、もう一口食べた。
それを何回も繰り返し、あっという間に完食してしまった。
その反応を見て、あたしは魔王に飛びついた。
「わーい! 全部食べてくれた! 嬉しいー! ありがとう!」
「こ、こら。食事中に抱きつくな。下品だろう」
「だって嬉しいんだもん」
「……」
嬉しくてニコニコしながら魔王の顔を覗き込むと、目が合った。
魔王の顔は、なぜだかジワジワと赤くなっていった。
「あれ? 魔王、どうしたの? 顔赤いよ?」
「うるさい……」
風邪でも引いていたら大変だ。
あたしは料理長の隣に待機しているグレイスを呼んだ。
「グレイスー。魔王、顔赤いよぉ。熱でもあるんじゃない?」
あたしの言葉にグレイスは、ぷっと吹き出した。料理長も、微笑ましいものを見るような表情でニコニコしている。みんなどうしたのだろうと思っていたら、グレイスがクスクス笑いながら口を開いた。
「大丈夫。風邪じゃありません。きっと、フウ様に抱きつかれて照れているのです」
「え? 魔王、照れてるの?」
魔王の顔を覗き込むと、更に真っ赤になってしまった。
「うるさい!!」
「なんで照れてるの?」
「うるさいうるさいうるさーい!!」
などと怒りつつも、魔王はあたしを退かしたりしなかった。
どうしたのだろう、魔王?
あたしは不思議に思いながら魔王の真っ赤な顔を見つめ続けたのだった。
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