第七話 勇者の自信作
「魔王ー。見て見てー」
あたしは魔王の執務室で、ずっしりとしたダイコンを持ち上げた。
これはあたしが家庭菜園で作り上げたダイコンだ。
ダイコンは大きく、みずみずしかった。きっと、土が良いからこんな立派なダイコンに育ったのだろう。
この立派なダイコンをぜひ誰かに自慢したくて、あたしは収穫後、すぐに魔王のいる執務室に向かったのだ。
魔王はあたしにダイコンを見せられ、嫌そうに顔をしかめた。
「おい。泥だらけで執務室に入って来るな。汚れるだろうが」
「あ、ごめん。でも、立派なダイコンでしょう?」
「そうだな。お前の足と同じくらい立派な太さだ」
あたしはムゥと頰を膨らませた。
レディの足と同じくらいのダイコンなんて失礼じゃない? そこは、ああ、そうだな。でいいのだ。魔王ってなんでいちいち憎まれ口を叩くのだろう?
腹が立つけど、ダイコンを誉めてくれたのは嬉しかったので、まぁ、許してやるか。
などと思っていたら、同じく執務室にいた魔王の側近のグレイスが、ニッコリと微笑んだ。
「本当、みずみずしくて美味しそうなダイコンですね。フウ様が頑張って育てたから、こんな立派に成長したのですね」
「!」
やっぱりグレイスだなぁ。魔王とは全然違う。グレイスはいつも、私の期待以上の言葉をくれる。
あたしは嬉しくなってニコニコと微笑んだ。
「うん! 頑張ったよ!」
「ふふ……。そうだ! せっかくなので、今晩の夕飯にそのダイコンを使ったらどうでしょう? 料理長に渡したら、きっと喜びますよ?」
「わぁ! それは良い考えだね。料理長に頼んでみる」
あたしたちがニコニコ笑いながらそんなことを話していたら、魔王が会話に入ってきた。
「私はダイコン料理など、貧乏くさくて食べたくない」
むぅ。またそんな憎まれ口を叩いて……。
魔王はいつもこうなのだ。あたしのやることなすこと全てを否定する。なんでこんなに性格が悪いんだろう……。こんな性格なら、たとえ女性恐怖症でなかったとしても、女の子にはモテないだろうな。
あたしはぷりぷり頰を膨らませながら魔王を睨んだ。
「じゃあ魔王は食べなくていいよ!」
「そう言うわけにはいかない。料理してくれたものを残したら、料理長に失礼だ」
「じゃあ食べてよ!」
「嫌だ。食べたくない」
もう! ああ言えばこう言うんだから!
あたしは腹が立ってその場でダンダンと地団駄を踏んだ。そんなあたしを見ながら、魔王がニヤニヤ笑っている。
すると、苦笑しながらやり取りを見ていたグレイスが、まぁまぁとあたしをなだめた。
「フウ様。魔王様の言うことにいちいち腹を立ててはいけません。魔王様はね、わざとフウ様を怒らせているのですよ? よく小さな男の子が好きな女の子にわざと意地悪をするでしょう? 魔王様のやっていることはそれなのです。つまり、魔王様の精神年齢は小さな男の子と同じということですね」
グレイスの言葉を聞いた魔王の顔が、一瞬で真っ赤に染まった。
「ば、馬鹿なことを申すな!! だれがこんなバカガキを……! 私はただ、コイツを怒らせると面白いから、からかっているだけだ!」
「ふふ……。そういうところが子どもなのです」
「グ、グレイス……! 貴様……!」
そう言って魔王はギロリとグレイスを睨むと、ふんっと顔を背けてしまった。
なんだか知らないけどいい気味だ。慌てる魔王を見るのは胸がスーッとする。
グレイス、流石だね! あたしはグレイスに向かってグッと親指を突き出した。そんなあたしを見て、グレイスはクスクス笑っている。
よし! 魔王にも一泡吹かせたし、そろそろ料理長に会いに行くか。
あたしはダイコンを大事に抱えると、じゃあ今晩の夕飯楽しみにしてね〜と言いながら、執務室をあとにしたのだった。
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