第三話 側近グレイス
突然の乱入者に驚いたあたしは声を張り上げた。
コイツ……、魔王の隣に立っていた魔王の配下だ。
こちらも美しい男だ。黄金色の髪と青く透き通った瞳が美しい。
魔族って美形揃いなのだろうか?
い、いや……今は魔族の顔の造形についてなどどうでもいい!
それより、なぜ邪魔をするんだ!?
あたしがそいつをギロっと睨むと、そいつは困ったように微笑んだ。
「勇者様。剣をおさめてください。話をしましょう」
「話?」
「そう。大事なお話です。あなたの返答次第でラクリナ大陸に流れ込んだ魔族たちを連れ戻せるかもしれない」
「!」
話だけで解決できるなら、それに越したことはない。
あたしは魔王の配下の話に興味が湧いてきた。
「本当だろうな?」
「はい」
「……」
よし。話だけでも聞いてみるか。
あたしは剣を下ろし、鞘にしまった。
すると、配下もゆっくりと剣を下ろした。
配下はニコニコ微笑みながら口を開く。
「もう戦うのはやめましょう。実はですね、魔王様は女性恐怖症なのです」
「なに!?」
魔王は女性恐怖症なのか! だからデルマン大陸から女性魔族を排除しようとしていたのか!
あたしが驚いていたら、魔王が恥じるように叫んだ。
「グレイス! 余計なことを言うな!」
「まあまあ魔王様。よろしいではないですか」
グレイスと呼ばれた配下は魔王を宥めたあと、再びこちらを振り返る。
「魔王様は、女性を見ただけで蕁麻疹が出てしまうのです。だが、貴方はどうだ? 女性なのに、魔王様の身体は無反応だ。多分、貴方に色気が無さすぎるのが原因でしょう」
「ふーん」
蕁麻疹が出るほど女性が苦手なのか。それは大変だな。女性を排除したいと思う魔王の気持ちも分からないでもないな。
あたしが気の毒そうな表情で魔王を見たら、魔王にギロリと睨み返された。
おー怖い怖い。
そんなあたしの反応を見ながら、グレイスがピッとあたしを指差した。
「そこであなた! この城で働く気はありませんか? あなたを魔王様のおそばにおき、触れ合うことで魔王様の女性恐怖症を克服しようと思うのです」
グレイスの提案に、魔王が怒った。
「勝手に話を進めるな!!!」
だが、あたしもグレイスも魔王のことは無視して話を続ける。
「魔王が女性恐怖症を克服したらどうなるんだ?」
「魔族をデルモン大陸に連れ戻しましょう。元々魔王様が女性恐怖症だから大陸から女性を追い出そうとしていたのです。女性恐怖症が克服できれば、大陸に女性が居てもなんの問題もない。大陸同士は元の均等を取り戻します。そうすれば、また平和な世界が訪れるでしょう」
なるほど。
確かに魔王の女性恐怖症が克服できれば全て解決する。あたしは魔王と戦っても勝てる見込みは少ないだろう。さっきの一戦で分かった。だったら苦労して戦い続けるより、グレイスの提案に乗った方がずっと平和的だ。
「分かった。その話、受けよう」
あたしの言葉に、グレイスはぱあっと表情を明るくした。
「ありがとうございます!」
グレイスが右手を差し出したので、あたしはそれを握り返した。あたしたちは固い握手を交わし、自己紹介をした。
「あたしは勇者のフウだ」
「私は側近のグレイスと申します」
「分かった。よろしくグレイス」
蚊帳の外の魔王は怒りながら叫んだ。
「だから、勝手に話を進めるなー!」
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