第二話 対決
魔王は最上階にいた。
豪奢な椅子に座り、ふてぶてしく笑っていた。
あたしは魔王の顔を見て、先ほどの予想が裏切られたのを知った。
信じられないことだが、魔王はブサイクでも太っているわけでも無く、もの凄い美形だったのだ。
肩まで伸ばした空色の髪に、赤い瞳。目は切れ長で鼻筋も通っている。酷薄そうな薄い唇も美しさを際だてていた。
こんな美形が女性魔族を排除しようとしていたのか?
なぜだろう?
疑問が残るが、今はそれどころではない。
とりあえず、周りを見渡して心を落ち着ける。
部屋の中には魔王ともう一人の配下しかいなかった。
不思議だ。なぜこんなに魔王の配下が少ないのだろう。
ここに来るまでも魔王の配下に襲われるかなと思っていたが、杞憂に終わった。魔王城の中は、シーンと静まり返っていたのだ。
もしかしたら魔王城は、あまり多くの人員がいないのかもしれない。
もっとたくさんの敵と戦うかと思っていたあたしは、少し拍子抜けして魔王と対面する。
魔王は薄く笑いながらあたしを見つめた。
「よく来たな、勇者よ。お前のことは私の配下に聞いている。なんでもラクリナ大陸の王は私を魔王と呼び、お前に退治させようとしているらしいな」
「知っているなら話が早い。そうだ! お前を倒すためにここに来たのだ!」
魔王は豪奢な椅子から立ち上がり、ふんっと鼻を鳴らした。
「面白い……。倒せるものなら倒してみよ。お前のような小僧っ子が私を倒せるとも思えんがな」
「そんな余裕を言っていられるのも今のうちだ!」
あたしは腰に差していた剣を引き抜き、魔王に向かって突進した。
魔王を頭から真一文字に切り付けてやろうと思ったのだが、すんでのところでよけられる。更に、よけたついでに反撃してきた。魔王の長い爪があたしの胸の辺りを切り裂いたのだ。あたしは瞬時に後方に下がり、間合いを取った。
「ハァッ……ハァッ……」
息を切らせているあたしとは対照的に、魔王は余裕の笑みを浮かべている。
切られた胸はどの程度の損傷を受けているのか確認したくなり、下を向いたら服が切られているだけだった。
あたしはホッと胸を撫で下ろす。
良かった……。まだ戦える!
「……」
それにしてもこの魔王……強い!!
動きが速すぎる。更に、爪の武器もすさまじい威力だ。
油断していたら負ける! 気を引き締めなければ。
あたしはブルっと武者震いしてから魔王を睨んだ。
すると、魔王と目が合った。
不思議なことに、魔王は目を大きく見開き動揺していた。
「お前……その胸……」
「?」
服が破れたので、あたしの胸が露出している。でも、胸を見られたくらいで恥じるほど、あたしは乙女じゃない。それよりも、集中集中!
だが、魔王はワナワナと震え出し、あたしに向かって指を突き出した。
「お、お前……! 女じゃないか!!!」
「は? 女だからなんだってんだ!」
「驚いた! 全く気が付かなかったぞ!? お前、女としての色気がなさ過ぎる!」
失礼なやつだな。まぁ、確かにあたしはよく男の子に間違えられるけど……。
「うるさい! とにかくいくぞ!」
そう言ってあたしは剣を構え直すと、再び魔王に突進した。
だが、魔王に剣が届く直前に、誰かが魔王とあたしの間に割って入ってきた。
その者の持った剣と私の振り下ろした剣が交わり、カキーンと耳障りな金属音が鳴った。
「だ、誰だお前!」
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