冒険した事は無駄じゃないから⑤
それから日が落ち、下で待つ3人は暗い空をただひたすら眺めていた。
「……遅いですねぇ、2人とも」
「……来た」
「えっ???」
その時、空から光が落ちてくるのが見えた。
否。光の正体は、クエスターの跳躍に使用されるスラスターで、それを使用して減速をしながら落下していたのだ。
『おっまたせぇ〜!!』
『ひいいいぃぃぃ!!落ち、落ち、落ち……!!』
スラスターを使用しているとは言え、6mの金属の塊が5000mもの高さから落下しているのだ。このままではひとたまりもないであろう。
しかし、2名を除きこの状況で冷静さを保っている。
「あのあのあのほんまに大丈夫なんですよねぇあれ!?」
「騒ぐな。強度は問題ない」
「ま〜、使うのは初めてだけどねぇ〜」
「それほんまに大丈夫なんです!?!?」
狼狽えるルースを他所に、2人は指示灯を灯して着地予測地点の周辺まで走る。
「お前も、そっちへ付け!」
「は、はい!分かりました!!」
その間にも、クエスターは尚も減速しつつ落下する。
そしてその着地予測地点には……巨大なエアマットが設置されていた。下で待つ3人は、そこで指示灯を振って待ち構えていた。
『パールさん、衝撃に備えて掴まって!!』
『掴まっ、どこに……!?』
パールは戸惑うも、気にしている暇もなくクエスターはエアマット上に着地。減速や指示灯での誘導の甲斐もあってか、揺れはあったものの無事に軌道エレベーターから降りることが出来た。
『ひ、ひぬかと思った……』
『生きてるよ、大丈夫大丈夫っ!』
着地したクエスターはエアマットから降りると、腰を落としてハッチを開け、サファイアがワイヤーフックを昇降ワイヤーにして降りる。降りられないパールは、下で待っていた3人とサファイアが用意したマットで受け止めて降りた。
「どうでした!?ソラクジラ、いました!?」
「にひひぃ〜……じゃーん!!」
サファイアは端末を取り出し、依頼報告用の写真と、別に撮影した動画を皆に見せる。
「ほ、ほんまや……ほんまにおったんや、ソラクジラ……!」
「うわぁ……こんなに綺麗なのねぇ……」
「なるほど、上から吹いた風に渡り鳥が下に流され、それを餌とするソラクジラが追ってくるように降下したのか。それにこの体、常に浮かんで生活する事に特化しているように見える」
「タンザ……ロマンが無いわねぇ」
「だが、奇跡だとも言える。風の向きによっては、今日の依頼は失敗していただろう」
依頼達成の喜びに皆が湧き上がる。その様子を見て、感動を思い出してパールが再び泣き始める。
「本゛当゛に゛良゛か゛っ゛た゛で゛す゛ぅ゛〜゛!゛夢゛が゛叶゛っ゛て゛……皆゛さ゛ん゛の゛お゛か゛げ゛で゛す゛ぅ゛〜゛!゛」
「よかったね、パールさん。いい退職祝いになったじゃん!」
「……い、いえ。それが……」
咳払いをし、続ける。
「私、これからも記者を続けていこうと思います」
「えぇ〜、いいじゃん!でもどうして?」
「あなた方のおかげで、こんなに素敵な経験が出来たんです。もっと、もっと……沢山の経験をしてみたい。冒険したいんです!」
その混じりっ気のない笑顔に、皆の頬も緩む。しかし……。
「なので私……今から退職届を書きます!!」
「うんうんっ……えっ???」
その言葉に、サファイアは目を丸くする。
「どどどういうこと!?どっちなの!?」
「なるほど、フリーになるという事か」
「フリー???」
サファイアはいまいちパッとせず頭を捻る。その疑問にアイオラとパールが簡単に答える。
「会社に所属せず、自分の判断でお仕事することよ。要はアタシたちと同じ」
「概ねそんな所です。今回の経験を踏まえて、冒険者さんたちに同行を依頼して、この世界のいろんな出来事を記事にしたいのです」
「でもねぇ……難しいわよ、経験の浅いフリーランスは?」
「もちろん承知してます。でももう、腹は括りましたから!」
パールは目を輝かせ、既に完成している退職届の書かれた端末を、アイオラに突きつけて見せる。
「ま、まあ……そこまでの覚悟ならいいんじゃない?アタシはそういうの、嫌いじゃないわ」
「そうだよ!きっとパールさんなら素敵な冒険に出会えるよ!!」
その希望の言葉に、再び目頭が熱くなるパール。それに気にも止めず、雲の晴れた様な笑顔で返した。
「ありがとうございます……!」
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