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1.夢の続き?

 レトロかわいいワンピースにハイヒール、片手にソーダ水が入ったコップを持って、レンガの道を歩いている私。

 少し大き目のジャケットを着た超絶イケメンが向こうから歩いてくる。

 

 どこかで見たような……。

 

 ああ、私の大好きな映画『愛を知らないあなたに恋をして』に出てくる俳優さんだ。

 これは夢なのだ。


 すると、このあとはこのソーダ水を……。


 ヒロインである私は、台本のとおりに、レンガの溝につまづき、手に持ったソーダ水をヒーロー役の俳優さんに思いっきりかけた。

 私は、あわててバッグからハンカチを取り出し、ヒーローに差し出す。

 そんな私の手を握って、ヒーローは私を力強く引き寄せた。

 見つめ合う二人の間に衝撃が走る。

 耳を塞ぎたくなるほどの効果音。


 『火事です、火事です』


 ……あれ?


    ◆


 午前2時過ぎ、マンションに大音量で鳴り響く、火災警報器の音。

 『火事です、火事です』


 私は、あわてて部屋の外に出た。


 テレビで映画を見ながら、寝落ちしてしまっていたらしい。

 階段を降りながら、コンタクトも眼鏡もしていないことに気づいたが、命最優先、このまま外に避難することにした。


 しかし、どの階から火が出たのだろう。

 視界はぼんやりしているものの、まわりに炎が上がっている様子はないようだし、煙臭くもない。


 手すりを頼りにおぼつかない足取りで階段を降りる私は、途中、何人かに追い抜かれながらも、やっと1階のエントランスに到着。

 私は、ぼんやりした視界の中、慣れと勘を頼りに、玄関ドアを目指して勢いよく走り出した。


 『バンッ!』


 実際に音が鳴ったのか、それともあまりの衝撃にそう感じただけなのか。

 ともかく、マンション入口の分厚いガラスのドアに思いきりぶち当たった私は、フラフラと後退りして、仰向けに倒れた。


 まさか、閉まっているなんて……。


 上半身を起こすと、鼻の奥から、何かが流れ落ちてくるのを感じた。

 手の甲で拭ってみると、やはり鼻血だった。と同時に、鼻と額に痛みが走る。

 

「……サシネクテキケネ……ワ? ユサハッテアッタ。ケネ、シンパイスネデ……ヘバ」


 背後から近づいてくる、若い男性の声。

 何を言っているのかは、いまいちわからないが。


 ほかの住人たちと同様、足早に通り過ぎると思いきや、私の横で彼の足が止まった。


「ワイハ! オメ、ナシタ?」


 私に向かって言っているのだろうけど、意味がわからない。

 日本語? 方言? 「ワイハ!」?……状況的に「大丈夫?!」とかかな?


「全然、大丈夫です」


 私は顔を上げ、笑って言った。

 しかし、鼻血が再び滴り落ちてくるのを感じて、あわてて下を向いて手で拭った。


 すると、その彼は、後ろから脇を抱えるようにして私を立ち上がらせてくれた。

 お風呂にでも入っていたのかな。彼の髪からシャンプーのいい香りがする。


「ハナヂフイデ」


 彼は私の目の前に白いタオルをにゅっと差し出してきた。

 これで鼻血を押さえておけということなのだろう。


「あ、ありがとうございます」


 私は素直にタオルを受け取り、鼻を覆った。

 さっき彼の髪からした香りと同じ匂いがする。そして、少しゴワついてもいる……。


 『火事です、火事です』

 依然として鳴りやまない警報音。


「コッチャコイ」


 彼は、私の腕を握ると、ぐいぐいと引っ張って、外に連れ出してくれた。


 マンションのすぐ外では、警報音が響く以外はシンとした暗がりの中、ほとんど着の身着のままの住人たちが、時折マンションを見上げながら所在なげにぽつぽつと立っていた。

 火の粉が降ってくるわけでも、燃える音が聞こえるわけでもなく、マンションに火の手があがっている様子はない。

 ほんとに燃えているのか?


 私は親切な青年の隣りで、彼に借りたタオルで鼻を押さえながら、真夜中の空気の冷たさに身を震わせた。

 すると、彼は着ていた服を脱いで、私の肩にかけてくれた。


 私は驚いて青年を見上げたが、彼は、まるで何もしていないとでも言うように、そっぽを向いて黙っている。


 強引に腕を引っ張られたり、着ていた服をかけてもらったり……。

 これって、現実? 実は『愛を知らないあなたに恋をして』の夢をまだ見ている?

 それなら、服をかけてもらったヒロインは、ヒーローに思わずこう言うんだよね。


「ここでキスしてくれたら、完璧ね」


 すかさず近くにいたマンションの住人たちから、吹き出すような笑いが漏れてくる。


 現実、だね。

 まずい……。


 私は、あまりの恥ずかしさに、現実から逃れようとタオルで顔を隠した。


「ハナガキヤヂデデイネダバイイシ」


「え、なんて……?」


 私は、青年から降ってきた異国の呪文のような言葉の意味を知りたかったが、ちょうど到着した消防車のサイレン音にかき消されてしまった。

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