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その後少し気分が落ち着いたところで仕事へ戻ったが、顔色があまりに酷かったため早く帰された。娼婦への聞き取りも大分目途がついたらしい。
しかしまっすぐ家に帰る気にもならず、帰り道にある公園のベンチでボーっとしていると、よく知った顔を見つけて思わず声をかけた。
「ライラさん!」そのミザリーの声に振り返ったライラはぎょっとした顔をして
「あんた!なんちゅう酷い顔してんの!」と言った。
「えぇ!確かにライラさんみたいに美人ではないですけど~」
「違う!顔が真っ青で死人みたいよ。…何かあったの?」そういってライラは手を伸ばし、ミザリーの両頬を優しく包みこむ。
なぜかライラの顔を見るとほっとしてミザリーの目から涙がこぼれそうになるが、ズッと鼻をすすってなんとか阻止した。
「何かあったというか……昔の恥が掘り起こされて居たたまれない気持ちで……あれカイルさんも一緒だったんですか」
よく見るとライラの隣には紙袋をいくつか持った恋人のカイルがいた。カイルは第一騎士団に所属している金髪碧眼の美男子だ。
だがその見た目に反して性格はやや荒っぽく、ライラは彼に憧れる女性たちに対してあれの中身は「田舎のヤンキー」だと笑っている。
「ああ、今日二人とも非番でライラの買い物に付き合わされてたんだ」
「それはすみません、お邪魔して。私、帰りますね」と急いでその場から立ち去ろうとしたが、今度はライラがミザリーを引き留めた。
「家に帰りたくないからこんなとこで油売ってたんでしょ?嫌なことは飲んで忘れるに限るわよ!さ、飲みにいきましょ!」と強引に腕を掴んでくる。
「えぇ~」
(ライラさんと飲みにいくと長いんだよなあ)
どうにかしてくれと視線でカイルに訴えるが、もう恋人の買い物に付き合うのに飽きたカイルはそれを無視したのだった。