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その時のことを思い出すと、恥ずかしい。ただただ恥ずかしい。
あんな美しい人からしたら、ただの凡庸な暗い茶髪に黒い目をしたソバカスだらけのちびっ子など、道端の石ころにも等しいんじゃないだろうか。
きっと隊長につきまとう子猿かなんかに見えたに違いない。
これまで周囲にいた隊員たちはミザリーの行動にすっかり慣れて応援という名の野次まで飛ばすようになっていたから、ああしたフレイアの反応はとてもショックだった。
あんな風に大人な対応をされたら、自分の子供じみたところが浮き彫りになる。
「ライラさんにはああ言ったけど、これが嫉妬なのかな…」
そう問いかけるが、もちろん熊は答えない。
(嫉妬なんてしたら少しでも隊長とのことを期待してたみたいだ。隊長とどうこうなるとか、絶対ありえないのに)
ミザリーはもともと孤児だった。物心ついた頃には辺境の孤児院にいたが、どういった経緯でそうなったかは本人も知らない。
そんな杜撰な管理をしていた院長は子供の人身売買に関わっていたことが発覚し、ミザリーが13歳の時に辺境を管轄する第三騎士団に逮捕された。
それがミザリーと当時第三騎士団にいたディルクとの出会いだった。
「………」
ぬいぐるみを一度ぎゅっとしてからミザリーは立ち上がり、仕事へ戻った。
そうしてミザリーが鬱々と日々を過ごしていると、ある日その隊長自らが備品室を訪れた。
「ミザリー隊員、いるか?」
「隊長!」
え、備品室に来るなんて珍しい!どうしよう嬉しい嬉しい!こんな近くで会うのいつぶりだろう。
「どどどうしたんですか?何か足りないものでも?」
何とか取り繕おうとするが久しぶりの本人を前に動揺が隠せない。
「あぁ、インクの補充と…顔を見に来た」
「!」ワタクシメノカオヲ!
「最近全く顔を見せないから気になった。何かあったのか?」
美女に笑われて拗ねていたからです、とはとても言えない。ディルクは純粋に心配してくれているようだった。
「特になにも…えと最近は備品室の整理に忙しくて。最近予算絞られてるから在庫の無駄がないようにと」
備品室の前任のヤンじいさんは親切な人だったが、在庫管理は適当だった。
「そうか。手が足りないようならすぐ言ってくれ。力を持て余してるやつならいっぱいいるしな」
「はい。ありがとうございます…」
そう言うとディルクが微笑んだので、それで胸がいっぱいになり
「(やっぱり優しい…)隊長~!好きです~~!!」と気が付けば久々に告白していた。
「いつも通りになったな。じゃ、戻る」
(返事はやっぱりドライだった!)