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「まあだやってるんだ、あの公開逆セクハラ」
「いやセクハラは酷くないですか?ライラさん」
「だって同じじゃない?衆人環視の元で上司を辱めてるんでしょ。怖い女ね」
「違います!純粋な好意を伝えているだけですー、はい、これ薬草の納品分です」
ライラは第二騎士団に籍を置く薬師だ。
フェロモン系の黒髪の美女で、団員に女性が少ないからかミザリーを可愛がってくれている。
ただ、こうやってからかってくるところだけは玉に瑕だ。
ライラは受け取った薬草の袋を開き、簡単に検品しながら
「純粋な好意ねえ…。本気で隊長と結婚したいとか思ってるの?」と尋ねたので、
「違いますよ!そんな滅相もない!そうじゃなくて私が隊長を素敵な男性だと思っている、ということが伝わればいいんです。」
ミザリーは赤面することもなくそう答えた。
「恋人とか結婚相手とかではなくて…うーん……アイドル!そう、私にとって隊長はアイドルなんです。告白はいつもお仕事熱心なアイドルを応援する気持ちが溢れてつい言葉として出てしまう感じですかね…。ライラさんだって恋人がいるのに、ウィル王子の絵姿集めてるじゃないですか。それと同じことです」
「ちょっと殿下とあのゴリラを一緒にしないでくれる?」
「隊長はゴリラじゃありません!」
詰所の地下にある備品室でミザリーの声が思ったより響いたので、一瞬、二人とも押し黙る。
そうして先に口を開いたのはライラだった。
「それにしてもあんな好き勝手してよく怒られないわね。あの堅物隊長はもっと厳しく言いそうなものだけど」
「それはまあ子供扱いされてるんじゃないですか?全く本気にもしてないようですし。最初の印象が悪かったんだなきっと」
「最初って…」
ライラが何か言いかけたがすぐ口をつぐむ。そのライラの様子を見て、ミザリーはニコッと笑顔を作ったのち、今度はわざとらしくよよよ…とその場に崩れ落ちた。
「隊長は…見かけで怖がられるけど、とても優しい人です。なのに毎年新人さんには赤鬼なんてあだ名つけられて…きっと本人も気にしてます」
途端演技臭くなったミザリーを見ながらライラは呆れたようにため息をついた。
「あの悪人顔がそんなことでへこむとは思えないけど…あ、新人と言えば、なんでも第一から女性の隊員が送り込まれてくるらしいわよ。ずっと申請してた執務室の増員がやっと通ったんですって」
「なんでも貴族のお嬢様で、しかもすごく美人だとか。ライバル出現かしら?」
もう違うって言ってるのに!ライラさんの恋愛脳!