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「おはようございます!今日もいい天気ですね、隊長!好きです!」
「…おはよう、ミザリー。昨日の書類は出来てるから、持って行ってくれ」
「はい!」
エインディア王国第二騎士団第一部隊において、備品係のミザリーからディルク・アヴァン隊長への告白は日常茶飯事だ。
それは告白というかもう挨拶がわりの気軽さで、訓練場や詰所、食堂でもどこでも顔を合わせる度に猪のごとく突撃してくる。
それを渋い顔してスルーするディルクを眺める、というところまでがセットで、部隊内ではちょっとしたイベントになっている。
おはようございます、お茶置いておきますね。新しい湯呑み、私とお揃いですよ!
巡回お疲れ様です、隊服のボタン外れてたのでつけておきましたよ、でも第二ボタンは私のために貰っておきました!
お先に失礼します、今日の夜ご飯は何を召し上がりますか?私、鳥のトマトシチューが得意料理なんですよ!いつ来ますか?
「後なんでしたっけ。レパートリーすごいよなあ」
「うるさいぞルパート。大体おまえ副官のくせにあいつを執務室にホイホイ入れるな」
この前は茶まで汲んでたぞ、とディルクはギロリとルパートを睨んだ。
「えー毎朝告白を聞かないと調子でなくて…あ、ごめんなさい」
ディルクの眼光がより一層厳しくなったのでルパートは肩をすくめた。しかしまだ好奇心が勝つのか、
「それにしても毎日健気じゃないですか。ほだされちゃったりしないんですか?」と聞いてみるが
「するわけないだろ。いくつ年が離れてると思ってるんだ。あれはおっさんをからかってるだけだ」
とディルクの返事はにべもない。ちなみにディルクは31歳でミザリーは19歳だ。
「別にそこまで気になりませんけどねえ…」
それよりなんであの子もこんな強面がいいんだか…
ディルクは地位も高く男前だし、話もわかる上司ではあるが、あまり女性に好かれやすいとは言い難い外見をしている。
短く切り揃えた赤味の強い茶髪はツンツンと堅そうだし、意思の強そうな眉と髪の毛と同じ色の三白眼は野性味が強く、一見してとっつきにくい印象だ。体格も良く、日々の訓練の賜物かその長身に見合うだけの筋肉をまとっている。
しかも本人が直々に指揮をとるその訓練の厳しさもあって、毎年新人からは「赤鬼」と呼ばれている。
「おい、思ってること顔に出てるぞ」
思案顔の副官を見てデイルクの眉間の皺がさらに深くなるが、
「何も?さー今日もバリバリ働きましょー!」
常に飄々としたこの副官は颯爽と執務室を後にしたのだった。