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「それで、君は何から逃げてたの? やっぱり警察?」

「うん。あるDVDを取引で入手した帰りに警察に見つかっちゃってさ。何とか撒いたは良いもののいつまた見つかるか分からなくて、そこら中の戸を叩いて匿ってくれる人を探してたんだ」

「……その年で警察に追われる日々を過ごすなんて可哀想。君、何歳?」

「12歳! これでも僕が所属するエモイスト集団の中では最年長なんだぜ? リーダーもやってる」

「いいね。ところでそのDVDって?」


 私がそう問うと彼は一枚のDVDケースを取り出した。その表紙には、英検4級リスニング教材という題名が大きい特殊なフォントで書かれており、中にあるディスクにもそれが印刷されていた。


「英、検? エモイストって勉強にも感動を見いだしてるわけ? 末期ね……」

「違うよ! これはカモフラージュ。万が一物品が押収された際に、そのDVDが娯楽映像を収録した物だと一発でバレないようにする保険かな」

「なるほど。ちなみにこの中には何が入ってるの?」

「え、気になる!? 普通の人は怖がって興味を持たないのに。じゃあ、商品チェックがてら実際に見てみようか。ビデオデッキある?」

「無いよ。テレビレコーダーならあるけど」


 レコーダーを指さすと、彼はそれを手に取って調査し始めた。


「な、何やってるの?」

「型番を調べてるんだ。この製品数十ある型番の内、とある型番の製作工場はエモイストが運営していてね。その型番のレコーダーにエモイストしか知らない特殊な操作をすることで……」


 彼はレコーダーの裏側に手を伸ばし、そこにあるボタンを長押しした。すると、本来開かないはずの場所からディスクトレイがバッと飛び出してきた。


「当たりだ! お姉さん運が良いね。トレイにも異常は無さそうだし、ちゃんと再生できるはず」


 出てきたトレイにディスクを載せ、彼は再度ボタンを叩いてトレイを仕舞う。すると、数秒間ノイズが映ったのちDVDの再生メニューが表示された。


 気になるそのDVDの中身だが、メニューに表示されたタイトルから察するにこれは恐らく動物ドキュメンタリー映画だろう。


「約束を守ってくれる相手で良かった。感動系映画のコレクション少ないから、譲って貰えて有り難い限りだ」

「制作年は2026年……感情罪が適応される1年前か。よく間に合ったな」

「邦画史上最後の動物ドキュメンタリー映画だって。レビューサイトの評価も高いし名作確定だ! お姉さん、泣きすぎないよう気をつけるんだぜ?」

「そんなバカな。物心ついてから泣いたことの無い私が、ちょっとやそっとで泣くわけ――」

「これ以上フラグが重なる前に再生するよ。割とマジに号泣されたら困るし……」


 ◇  ◇  ◇


 泣いた。めちゃめちゃ泣いた。口から壺が離れない。離したら声が外に漏れ、お隣さんに号泣してると気づかれちゃうから。


「……その壺、そのためにあったんだ」


 そう言う彼もボロ泣きしている。声こそ上げていないが、彼の目は涙の流しすぎで真っ赤に充血している。


「ああ、よかった。これは名作だ、みんなにも見せてあげないと」


 彼はすっと立ち上がり、外に出ようとした。


「待って! もう行くの?」

「うん、長く居てもお姉さんの迷惑になるし」

「迷惑だなんてそんな! もっとなんかないの!? 感動系じゃ無くても良い! 私はもう心を揺さぶられる快感を知ってしまったんだ、もう元には戻れない!」


 私は玄関のドアノブに手を掛ける彼の袖にすがりつき、必死に引き留めようとする。それを見た彼は、ひそかに口角を上げた。


「悪いね、今はこれ一枚しか持ってない。でも僕らのアジトに来れば、映画だけでなくバラエティ番組やアニメも沢山あるよ。明日、気が向いたらここに来て欲しい」


 彼は一枚のメモ用紙を私に手渡してきた。そこには手書きの地図と合い言葉が記されており、字は汚かったが地図も合い言葉もすぐに解する事が出来た。


「ようこそエモイストの世界へ。それじゃ、待ってるよ」


 そう言い残し、彼はドアノブを押して外に出ていった。一人その場に取り残された私は、さっき見た映画のワンシーンを思い出し……すすり泣き始めるのだった。

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