表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

王族への嘘が通用しない世界で、悪役令嬢にされかけました。

作者: 藤宮 縁

只々勘違いした残念王子と平民令嬢が、公爵令嬢に言い負かされます。

最終的にはチートな精霊が・・・。


勢いのみで楽しんでお読みください。


ちょっぴり、残念王子のその後を追加しました。

それは、小さいころの約束。


「お願いね。貴方には苦労を掛けてばかりだけれど、あの子を守ってあげて」

「はい。私にとっても大事な妹です。何があっても、あの子が困ったときには駆けつけて助けます」

「ありがとう。ごめんなさいね」


母は、そう妹のことだけを心配して息を引き取った。

私の存在意義はそこにあるのだと、釘を刺して・・・。


-------------------


学園に入ってから1年、ハワード王太子の婚約者であるビジョン公爵令嬢は、王太子と最近仲の良い、特待生として入ってきた平民であるマリアという女性に、陰で陰湿ないじめを行っているらしいと噂になっていた。


ビジョン公爵令嬢は、成績も女性ながらにして王太子を抑えて常に首席、剣術も女性の中でトップの成績で、恐らくは男子生徒と剣を交えても敵なしだろうと噂されているほどで、妃教育も学園入学前に終わっており、今は王妃様について公務のサポートをしていると噂されている女性だ。

そんな女性が、果たして嫉妬から平民をいじめるだろうか?と多くの生徒は疑問視していたが、いつの世も、強者を妬む人々のせいで、どんどん噂は誇張され、広まっていくのだった。


--------------------


少し入り組んだ中庭の東屋でお茶をしていると。

薄い紫のウェーブがかった髪に、薄い桃色の瞳、小柄ながら男性に好まれそうなメリハリある体を、我が国の王太子の腕に巻きつけているかのように歩いている姿を目撃してしまった。

いつもであれば、近づきがたい印象を与える青みがかった美しい銀髪に、冷たい印象を与えるアイスブルーの瞳も、この時ばかりは、甘い砂糖菓子のように見える。


「今日も王太子はマリア嬢とべたべたべたべた、婚約者がいる身でありながら、どういう気持ちなんでしょうかね」

「本当に信じられない神経してますわね」

「まぁ、ミランダ、神経というものがおありになるわけがないでしょう?」

「それもそうですわね」


周りの女性陣が口々に、王太子に対して不満を口にし出したが、正直あまり興味はなかった。

このまま自滅してくださるのであれば、いっそ好都合だなとすら思っていた。


「ねぇ、そう思いますでしょ?レイア様も」

「ごめんなさい、綺麗な花に意識をもっていかれていて、少しぼーっとしてしまっていたみたい、何のお話かしら?」

「マリア嬢にはいい加減、乙女の恥じらいというか、作法を誰かが教えてあげるべきではないかしら?とお話ししておりました」

「別に、今のままでいいのではなくて?彼女は非常に可愛らしいですし、平民のご出身であれば、学園を出てから、どういった道に進むかもわかりませんし、それこそ、本人が今後のために覚えたいというのであれば別ですが。少なくとも、学園にいる間は困らないかと思いますわよ?学園内では、皆平等ですから」


心底、興味がなかったので、無表情のまま告げると、周囲の女性達は固まってしまった。

どうやら私は、無表情だと、ものすごく怖いらしい。


「ですけど、ケイト、貴方が教えて差し上げたいのであれば、お声がけしてあげればよろしいのじゃない?」


今度は圧をかけないように柔らかく、にっこりと笑顔を作ることに成功した。


「そ、そうですわね。おっしゃるとおり、彼女の自由ですわね」


どうやら、人に教える気はないようだ。それとも、私に何かさせたかったのかしら?

まぁ、いいわ。


「では、皆さま、私はアーノルド先生に呼ばれているので、そちらに寄ってから次の教室に行きますわね?」

「「わかりました」」


あら、いいお返事ね。

にっこり笑ってそのまま中庭を後にする、また王太子達が目に入ってきたが、今度はマリア嬢が王子に対して、膝枕をしているところだった。

念のため、と思い、その光景を目に焼き付けておいた。

いつか、私もああいうことをしたいと思う時が来るのかしら?


アーノルド先生の準備室を開けると、そこには髪をお下げに結って、サイズの合っていない制服を着た、顔がわからないほど厚い眼鏡をした少女が立っていた。


「お姉さま」

そう言って、嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。


「ふふ、淑女が走ってはいけませんよ?」

「いいのです!以前お会いできたのなんて、一か月前くらいではありませんか、しかもあの可笑しな王子に邪魔されて、全然一緒にいられず・・・」

「あのお方は少し残念な方なので、かわいそうに思えど、同じところまで堕ちてしまう必要はありませんよ」

「そんなことで時間を費やすのも惜しいのです、お姉さま、聞いてください」


うちの可愛らしい妹は、こうしてたまに会って、いままで起こったことを私に逐一知らせてくれる。その時間は何ものにも代えがたい、大切な時間だ。


「でね!その時、リオが教えてくれたんだけどね?」


ガラッ


アーノルド先生が入ってきた。実は王弟であるアーノルド先生は、普段は身分を隠して学園で働いている。常に探り合い、化かし合いの政治よりも、性に合っていたらしい。

婚約をギラギラ狙っている女性からも逃げられて万々歳とおっしゃっていた。

美しい黒髪を伸ばし、前髪でほぼ眼が見えなくなっているが、本当は美しい紺色の瞳に、整った王家らしい顔立ちで、一時期は歩くたびに女性に囲まれて大変だったらしい。


「お前ら、まだいたのか」

「失礼いたしました。少し会話が弾みすぎてしまったようです」

「妃教育で大変なんだろう?まぁ、たまの姉妹水入らずくらい、この部屋を使ってかまわないといったのは俺だから、かまわん。にしても、次の授業は時間大丈夫なのか?」

「!!歩いてぎりぎりですわ!それでは、お姉さま、また今度、お誘いしますね」

「廊下は走ってはだめよ?」

「はーい」


そう言って優雅に早歩きしていく可愛い妹を見送って、アーノルド様に向き合う。


「殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅう?」

「疑問形でいらん挨拶をするな、お前もいかないと遅刻じゃないのか」

「私はまだ間に合います、ご存じでしょう?」

「まぁな、で、どうした」

「そろそろ、貴方様の甥っ子が目障りなのですけども、婚約解消を申し出てはだめでしょうか?」

「・・・俺に言うなよ」

「王妃様には言っても承諾を得られないような気がしますので」

「まぁ、義姉上はレイア嬢を気に入っているし、今、ビジョン公爵家以外に都合のいい家もないからなぁ」

「しょうがないですわね。そろそろ、ご自身で破滅してくださりそうな気もしますし、しばらくはまた様子を見させていただきます。ですが、先ほどの件もありますし、アーノルド先生?私との賭けの件、くれぐれもお忘れなく」

「わかった、わかった。さっさと授業にいけ」


「ふふ、では、また」


そう言って、礼をしたかと思うと、次の瞬間には部屋にはアーノルドのみ佇んでいた。


「仕方ない、念には念を入れておくか」

そう言うと、アーノルドは椅子に座り、手紙を書き始めたのだった。



【同時刻の中庭】


「ねぇ、ハワード様。次の授業、お休みして、マリアと過ごしませんか?」

「しかし、次の授業は高等魔法の授業だろう。出た方がいいのではないか、特にマリア嬢は希少な光魔法の使い手なわけだし」

「ハワード様は優秀なので、授業に出る必要なんてないじゃないですか。私は・・・少し疲れてしまって・・・」


そう言って、マリア嬢の美しい瞳から、一筋の涙が流れる。


「何があったんだ!?マリア」

「いえ、ビジョン公爵家のレイア様が、私には才能がないから、授業なんて受けなくていいと、しかも、授業で複数人で組む時も、レイア様が怖くて、誰も私と組んではくれず。わかってはいるんですけど、幼いころから教育を受けてこられた方々と私じゃぁ、レベルが違いすぎて、足を引っ張ること。しかも、水魔法で頭から水をかぶせられ、私の婚約者に近づかないで頂戴と言われました・・・。正しいのでしょうが、私にはもう、ハワード様と一緒にいないなんて出来ません」


今度はマリア嬢の美しい瞳から、ほろほろと涙が零れていく。


「そんなことがあったなんて!!すまない、私が後回しにしてきたせいで、陰でいじめるだけでは飽き足らず、ついに授業中にまで、そんなことをしていたとは・・・。今日は私と一緒に過ごそう、何、授業でわからないことなどは私が教えてあげるよ。今後はそんなことがあったら、我慢せずに真っ先に先生方に報告して、すぐに私にも言うんだよ?」


「ハワード様!」

「すぐに君の立場を強固なものにしてあげるから、少しだけ、待っていてね?」


共通の敵を前に抱き合う二人は、今は幸福に満たされていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


色々な思惑が蠢く中、一週間後の進級祝いパーティーが始まった。


毎年開催される進級祝いパーティーは、進級試験の直後に父兄も集めて行われる。

進級試験の結果を待つまでの催しだ。


基本は全員が上がれることになっており、点数の足りない生徒もよっぽど問題がない限りは補講を受けて進級ができるため、会場は試験からの解放感で和気あいあいとした雰囲気に包まれていた。


私もそんな解放感から、妹を探していたその時だった。

急に壇上の方が騒がしくなってきたのでそちらを見ると、壇上で先生方と王太子殿下がもめているようだった。しかも傍らには、マリア嬢も一緒にいるようだ。

不穏な気配を感じて立ち止まると、王子もこちらを見つけたようだった。


「レイア!そこを動くな!」

「?」

「今、この時を以て、お前との婚約破棄を宣言する!」

「??」


なぜ私の方を見ているのかしら、とはいっても、殿下の剣幕に恐れをなして、皆さま私を遠巻きに見ていらっしゃるから、私で間違いないようね?


「私でしょうか」

「そうだ!ビジョン公爵令嬢。しかもお前はこともあろうに、平民だという理由でここにいるマリア嬢に水をかけたり、教科書を燃やしたり、教科書を泥に投げ込んだり、授業を受ける資格がないと言い放ち、授業を受けられないようにしたというではないか!」

「はぁ?」


周りがざわざわとざわめき立つ。

とりあえず、父上が今日遅れてくるので、こんな馬鹿げた催しを見ることがなくてよかったわ。と現実逃避をしていた。

それにしても、教科書に何か恨みでもある設定なのかしら。


「何か謝罪や弁明をしたらどうなんだ!まぁ、お前の嘘など聞く気はないがな!」


つまり、事実は聞く気はないけど、謝罪しろということかしら。

面白いことをおっしゃる方ね。


「レイア様、私は平民なので、教科書代も両親が頑張って働いてくれた貴重なものです。ハワード様と私が仲いいことを妬む気持ちはわかりますが、謝罪してください!私はそれで、貴方を許します」


とりあえず、よくわからないけれども、この私に喧嘩を売っているのは間違いないようね。


「買いますわ」

「「え」」

「え、じゃないですわ、その喧嘩、買って差し上げます。つまり、ビジョン公爵家との婚約をなかったことにしたい。そういうことですわね?」


「おい!」

いつの間にやら、横に来ていたアーノルド殿下に止められましたが、知ったことではないです。彼らは私の逆鱗に触れました。


「レイア!お前はこの期に及んで、謝ることもできないのか。私はこのマリア嬢を次期妃に考えている、お前のやったことは」

「まず、殿下に名前呼びを許した覚えはないので、おやめ下さい。即刻」


「ヴ・・・」


「次に、なぜ私が殿下とマリア様の仲を嫉妬して、授業の邪魔をしなければならないのでしょうか?まったく身に覚えもございませんが。ちなみに、何の授業ですか?」

「実習の授業の時は全般です、木の陰に呼び出されて頭から水魔法で水をかぶせられたり、教科書を燃やされたり、先生方からは見えないようにされました・・・」


「なるほど、理由は?」

「もちろん、婚約者である自分を差し置いて、ハワード様と仲が良いからと、先ほども言ったとおりです」

「・・・殿下もその理由で?」

「見てはいないが、そうなのだろう?心の狭い女だ」

「本当に、嘘偽りなく、私が、私の婚約者と仲良くしないで欲しいと言ったのですね?」

「そうです、白を切るなんて、酷いです」

「貴方が見たのは、この亜麻色の髪に、グリーンの瞳で間違いないんですね?」

「さっきからなんなんですか、あたしと同じクラスでそんな見た目なのはあなたしかいないじゃないですか」


「・・・はぁ・・・」

「レイア、頼む、気持ちはわかるが、穏便に・・・」

「どこまでも頭のからっぽな人たちですね、そして、話には聞いてましたが、ハワード殿下!」

「は、はい!」

「どれだけ、頭の中がお花畑で空っぽなのでしょうか?」

「お前、なにを!」


頭痛のする頭を押さえたあと、完璧なカーテシーの形をとる。


「とりあえず、殿下。お初にお目にかかります。ビジョン公爵が長女、リリス・レイア・ビジョンと申します。以後お見知りおきをしてもらわなくて結構です」

「私は貴方様の婚約者ではありません。貴方の婚約者は妹です」


「「え゛」」


「えええええええええええええ!!!」


「確かに、私たちは双子ですので似ています、が、婚約者を間違えるなど、どれだけ日ごろからうちの妹を邪険に扱ってきたのかが窺い知れようというものです」

「そんなバカな、確かにこの4年くらい、まともに顔を合わせていないが・・・。確か、そんなような見た目だったし、学園には妹など居なかったではないか」

「妹は、普通に公務のある時以外は通ってきていました、試験もすべて首席です。ちなみに、噂になっている剣術の方は私なので、どうやら混同されてはいるようですが」


その瞬間、会場のドアが開いて、緩いウェーブが美しい金色の髪をハーフアップにして、光で色を変える瑠璃色の瞳が美しく、白地に薄い緑色の刺繍が美しいドレスを着た妹が、父のエスコートで入場してきた。


普段は目立たないように、王太子の婚約者として、何か間違いがないように。

美しい金髪をお下げにして、身体のラインがわからないぶかぶかな制服を着させられ、目立たないよう認識阻害の術式が組まれた眼鏡を王家から義務付けられていた妹は、この日だけはと王妃様から許可を取り付け、隠すことなく、輝かんばかりの美しさだった。


入ってきた瞬間から、まさかの王子を筆頭に、アーノルド先生以外の全員が見とれてしまっている。

ただ、ことの一部始終を公爵家の影から聞いていたであろう二人は、優雅に見えて、見るからに切れる一歩手前だったので、その視線に気づいてもいない。


「お姉さま!」

私を見つけるなり、それでも美しい所作で駆け寄ってくれる可愛い妹。

そして、殿下に対して、どうやって苦しめて殺そうかとニヤニヤしている父上。


・・・父上、殺してはダメですよ・・・。

まったく。一気に場が華やかになってしまった。


「あら、ミレイア、貴方は本当に美しいわね。やはり、普段あんな恰好をしているのはもったいないわ」

「お姉さまの方が綺麗です」

「ふふ、ありがとう」


「ど、どういうことだ!?学園で、そんな美しい人を見たことないぞ。いや、顔はほぼ同じに見えるが」

「ハワード殿下、これはどういうことでしょうか。なぜ姉が謂れもない中傷を受けているのですか」

「その前に質問に答えろ、最後に4年前に会った時、お前は確かに、亜麻色の髪だっただろ」

「あれは、姉とお揃いにしたくて、光魔法の練習も兼ねて、色を変えていたのです、学園では目立たないようにという王妃様からのお話もありましたし、せっかく綺麗なものをと、お姉さまに怒られてやめましたが。でも、10歳の時に、初めてご挨拶に伺った時は普通に金色でしたが?そもそも、この4年間、公務のサポートでお城にお伺いする際に、ハワード殿下に避けられているかのように、お会いしたことがありません。王妃様の公務にも一切、一緒に付いていらっしゃいませんでしたし。王妃様のお茶会すら、一瞬顔を出して、挨拶もなしに帰られていましたね」

「そ・・・それは・・・」


4年くらい前、妹は優秀すぎて妃教育を終えて公務のサポートを始めたが、優秀な婚約者が気に入らない王子は、徹底的にうちの可愛い妹を避け始めたのだ。それにしても、名前までうろ覚えとは思わなかったが。


「ミレイア、一旦、私が売られた喧嘩なので、少しそばで見ていてね?」

「わかりました、お姉さま!」

「さて、話を戻しましょうか。まず、理由、なんでしたっけ?私の婚約者?ちなみに私はまだ婚約しておりません。公爵家を継ぐ立場なので、決めかねております。そんなことを言うわけがありません」

「い、妹に命令されてやったか、妹のためにやったに決まってます」

「なるほど?妹の名を騙って、妹のために貴方様を殿下から引き離そうとした。と。先ほどよりは、説得力のある理由ですわね?」


そもそも、妹のためにコバエを払うなら、自分の名前で正々堂々と行いますが。


「では、魔法で頭から水をかけられたり、教科書を焼かれたのでしたでしょうか」

「そうです。何もないところから急に水が現れたので間違いありません!」

「その時は、私は複数人だったのでしょうか?一人だったのでしょうか?」

「おひとりでした」

「では、また困ったことがあります」


私は、マリア嬢に対して、にっこりと優雅に笑う。


「な、なんですか」

「私、水魔法も、火魔法も、まったく適性がないらしく、出せるとしても水魔法は水滴一滴程度、火魔法に至っては、手のひらが暖かくなる程度なのです。とてもじゃないですが、マリア嬢がおっしゃっているようないじめは、不可能ですわ」

「う、嘘よ。先生方が高等魔法の時間に、すごいって褒めてたのを見たわ!」

「勘違いされて頂いては困るのですが、水魔法と火魔法のような魔法への適正はないというだけで、闇魔法は適性がございますので、影から影へ移動したりなど、授業にも遅れず、色々と便利ですのよ?」

「じゃ、じゃあ、やっぱり本人が、貴方のふりして、授業中入れ替わってたんでしょ!?」

「まぁ、頑張りますわね。私への中傷では、飽き足らないの。そう。フフフ」


笑いながら黒い靄が私の周りから出てくるのを抑えきれない。

このまま、闇に食わせてしまいましょうか・・・。


「横から失礼いたしますが、私も、通常魔法の適性は、お姉さまと変わりませんわ。ビジョン公爵家はそういった特殊な家系なのです。なので、特殊な力が強い場合、王家に輿入れすることが多いのですけれども」


私に聞こえるようにだけ、最後、「本当に迷惑」とつぶやいていた。


「え、そんな。だって、魔法が使える場合、水と火は大抵使えるって。どういうこと」


目に見えてマリア嬢がうろたえ始めました。


「うるさい!お前らのことだ、どうせ見えないところにほかの人間を配置しておいて、魔法を使わせていたのだろ!後々、証言などを取られないように。まったく、どこまでも面の皮の厚い!」

「なるほど?賢いですわね。あまりメリットを感じませんが。流石にやってないことの証明ですので、悪魔の証明ですわね。先ほどから、マリア嬢の証言に矛盾が多いことも気にはなりますが」


さて、このままグダグダと話を聞くのにも飽きてきた。


「このままでは時間がかかってしまいますので、立会者を立てましょう?」

「じゃあ、私だな。この場の優先順位的には」


とアホ王太子が前に出てきた。判定が難しい話し合いの場合、立会者を立てて審議がなされる。

被害者も加害者も立会者には嘘が吐けなくなるのだ。

誰が立会者になるかというと、陛下、王妃、王太子など、王位に近い順に優先度が上がる。

今日この場だと。


「いや、俺だ」


そう言って、アーノルド先生が壇上に出てきた。


「叔父上!」


周囲がざわざわし始める。アーノルド先生が王弟だと知らない人たちが驚いているのだろう。


「陛下より、陛下不在のこの一週間の揉め事については、俺に裁量権を委任する旨、ここに委任状がある」


まぁ、アーノルド先生も外堀を埋めてくださっていたのですね。


「な、なぜ・・・」

「ハワード、お前、最近授業には参加しない、公務にも一切顔を出さないわ。そのくせ、公費を視察の名目でかなり引き出しているらしいな。何をしているのだか」

「お、叔父上には関係ないでしょう。私は、公務としての前触れのある視察ではなく、普段通りの生活をしているところを視察したかったのです」

「それが本当に本当なら、ご立派だがな。どちらにせよ、今回の件、お前は張本人だ。第三者の俺が立会人をやる。異論はないな?」

「・・・はい」


そうしてハワード殿下はこちらを向いて、憎悪の表情を向けながら、血迷った発言をした。

「立会で、お前たちの悪行が露見したならば、公爵家もただでは済まさんからな!私はマリア嬢と結婚を考えている。未来の妃に嫉妬からひどいことをしたとわかれば、反逆罪に問うてやる!」


・・・現時点で、婚約もしていないのに、反逆罪に問えるわけがないだろう。この馬鹿王子。

アーノルド先生もため息とともに、頭を抱えてしまった。


「では、誠実の判定者よ。我の求めに馳せ参じよ」


アーノルド先生がそう宣言すると、銀色に光る、騎士のような精霊が出現した。


『お前が立会人か』

「そうだ」

『では、この輪の中に入れ。そして、審議内容を思い浮かべていろ』


そう言って、床に3つの輪が出現した。立会人が入る真ん中の白い輪のほかに、赤い輪と青い輪がある。


『原告は青い輪、被告は赤い輪に入れ』


言われた通り、私と妹は赤い輪に入った。

マリア嬢は原告が何のことかわからないらしく、パニックになっている。


「え?え?ナニコレ」

「マリア様、そこの青い輪に入ればいいのです」

「こ、これなんですか」

「あら、平民の方にはそういえばなじみがないですわね。これは王家の方々だけが召喚できる、誠実の判定者よ?訴えた側と、訴えられた側を公平に判定してくださいますの。ちなみに、嘘は吐けないので、気を付けた方がいいわ」

「え?嘘が吐けない?吐くとどうなるんですか?」

「そこまではちょっと、わからないわね。何せ、見るのは初めてのことですし」


パニックになっているマリア嬢を宥めながら、ハワード殿下も青い輪の中に入った。


『では、始めよう。被告側よ、原告側の訴えを事実だと認めるか?』


「「事実無根です、私たちはマリア嬢をいじめたことなどございません」」


その瞬間、精霊は白く光を放ち、輪の色が交換された。私たちの輪が青く光り、マリア嬢側の輪が赤く光る。

ハワード殿下はパニックになって、どういうことだ。とマリア嬢を責め立てている。


『嘘偽りない。では、原告よ。いじめられたことは事実か』


「・・・」


『答えよ』


「いじめられた事実はありますが、犯人が誰かわかりません」


その瞬間、精霊は黒く光を放ち、私たちの輪は広がり、その分、赤い輪が狭くなった。


『いじめの事実などない』


「それは、どこまでがいじめかという定義の話でしょうか」


『我が呼び出されたのは、お前が魔法で水をかけられたり、書物を燃やされたという事柄に関してである。そこまで言うのであれば、映し出そう』


そう判定者が告げると、私たちの間に大きな水鏡のようなものが現れた。

よくよく見ると、授業中の森の中のようだ。

マリア嬢が一人で誰からも見えなさそうな茂みに入っていく。


「「「あ」」」


そして、マリア嬢は、自ら水をかぶった。

映像が切り替わり、教科書を焼いたり、教科書を泥沼に放り込んだりと、次々にマリア嬢のやったことが露呈する。


段々、痛々しくなってきた。


しまいには、お下げの女生徒に対して、マリア嬢が水をかけたり、教科書を寄越せと強奪したりしている。

というかこの女生徒って・・・。

隣を見ると、さっと目を逸らされた。


・・・。後で聞き出すことに決めた。


『この事実から導き出されるのは、お前が虐められていた事実はなく。お前が虐めていた事実があるということだ。何か、申し開きがあるか?』


「こ、こんなの、う・・・」

間一髪のところで馬鹿王子がマリア嬢の口をふさいだ。それくらいの理性はまだ残っていたらしい。

判定者に対して、嘘つき、偽物、事実改ざんのような言葉を投げかけると、世にも恐ろしい裁きが下されるらしい。


ちょっと見たかったような気もする。


「他に何か、判定したい事柄はあるか?」


「「ありません」」

私とミレイアが答えた。


「・・・ありません」

馬鹿王子が死にそうな声で答えた。


「では、今回の判定結果については、原告からの訴えを棄却する」


「誠実の判定者よ。我の求めに馳せ参じたこと、感謝する」


『もう少し、まともな時に呼んでほしいものだな』


そう言って、判定者は消えていった。


シーンと静まり返った会場で、死にそうな表情の男女。

まるで、本当にいじめでもしている気分になってくる。


「さて、マリアよ。ハワードに嘘を吐き、全員の進級の楽しい場を奪った罪は重い。陛下がお戻りになられるまで、投獄とする」


「そ、そんな。アーノルド先生!!」


「あぁ、忘れていたな、しかも国家反逆罪か?では、アルカディア牢獄への投獄が妥当か?」


マリアの表情からは、完全に血の気が引いていた。

アルカディア牢獄とは、絶対不可侵の魔法で守られており、脱獄率は0%、しかも、環境はかなり劣悪だそうだ。とにかく寒く、常に魔力が限界まで吸い取られ、ぎりぎりまで囚人の気力を削ぐ設計になっているらしい。


「叔父上!国家反逆罪など!重すぎるではないですか」

「お前が言ったんだろ、未来の妃に対しての暴力なんて、反逆罪だって」

「別にマリアは・・・」

「本当に、何か魔法にでもかかってるかのように馬鹿だなお前は。してたんだよ。映像の中でな。そこのミレイア嬢に、水をかぶせたり、服を軽く燃やしたり、教科書を奪ったりな」

「え?」


そう言って、馬鹿王子はアホ面でミレイアを見る。

ミレイアは、用意されていた眼鏡を掛け、髪をお下げに見えるよう手に持った。


「な、なんで!!!」

「なぜ彼女が私に目を付けたのかはわかりかねます。おそらくは常に一人でいて、目立たない私なら、事が露見しないと思ったのでしょう。王妃様より、婚約者以外には好意を抱かれないようにと、学園はこの恰好で通うことが義務付けられておりました。まぁ、こんな風にばれてしまっては、もはや意味がありませんが」


「ハワード殿下、申し訳ありません、早く私のほうから、婚約解消を申し出るべきでした。いえ、正確には二度ほど、王妃様には打診したのですが、取り合ってもらえず・・・」

「王妃様は貴方のことが大好きだから仕方ないわ、自分を責めないで」

「すまない、ミレイア嬢、俺もリリス嬢から聞いたときはまさかと思ってな。広まっている噂も、整合性が合わないものだったから、いつもの生徒の娯楽だろうくらいに軽く考えてしまっていた・・・」

「本当ですわ、反省なさってください。賭けは私の勝ちですわね」


そう、私はアーノルド先生に、在学中にあの馬鹿王子がミレイアを害するのではないかと相談したが、流石に身内をそこまで馬鹿だとは思いたくないらしく、一蹴された。


その際に、賭けをしたのだ、もし在学中にあの馬鹿王子がミレイアを害そうとしたら味方になって欲しいと。もし、在学中にそんなことが起こらなかったら、可能な限りなんでも一つ願いを叶えると。ちなみに、あの二人が学園内でいちゃついているところを見つけるたびに、アーノルド先生と感覚共有をして、情報を流していた。この前の中庭の膝枕事件もその一つだ。


「あの膝枕でな・・・さすがにやばいかなと思って、あのイメージを念写で陛下に手紙と一緒に送ったんだよ、万が一の際の裁量権をくれってね。陛下より、義姉上が切れて公務をほっぽり出しそうなくらいに怖かったよ・・・マジ」

「そ・・・そうでしょうね。でも、ありがとうございます。約束を守って下さり」

「まあ、それはなくても俺は教師だからな。生徒を守るのも、生徒のいざこざを解決するのも当然だろ」


邪魔な前髪を書き上げて、端正な顔でニカッと笑いながら言うのは些か、ずるいですけどね。


「本当に彼女をアルカディア牢獄に収容するおつもりですか?」

「いやいや、冗談だよ。あそこは陛下じゃないとそもそも投獄も出所もできない仕組みになってるんだよ」

「相変わらず、謎の多い場所ですのね」


特級の犯罪者のみ収容される牢獄。いつか研究してみたいですわ。闇の香りがプンプンします。


「ところで、ミレイア?私、貴方があんな目に遭っていることを、まったく知らなかったんだけども?どういうことかしら」

「え・・・いや、だって、いっつもお姉さまは私のために大変な目に遭ってるのに、あんなどうでもいいことで煩わせたくなかったの。言ったらお姉さま、マリア様に対してありとあらゆる手段を講じるでしょう?」

「当たり前です!私の可愛い妹が・・・あんな目に遭っていたなんて・・・・。影を増やそうかしら」

「双子なのに、過保護すぎるよ」

「だって、お母さまから、貴方を頼むとお願いされたんですもの」

「双子なのに、おかしいでしょ。なんで私だけにそんなに過保護なのですか」

「そりゃー5代ぶりに出た、光の継承者だもんなぁ。過保護にもなるだろ」


アーノルド殿下が急に割って入ってきた。


「そうですわ、私のようなうちの家門には珍しくもない闇属性よりは、貴方が守られるべきです。しかも、賢くて、可愛くて、誘拐されかねないですし。何より、マリア嬢よりも貴方は光への適性が高い上に魔力も尋常ではないですからね」

「お姉さまって・・・普段は賢いのに、なんで私のことになるとこうなるのかしら・・・」

「諦めろ。あれは治らん不治の病だ・・・。わざわざお前を守るために、お前と間違われるよう、ミドルネームでわざと呼ばせたり、成績上位に入らないように画策したり、そのくせ、強いとアピールするために、剣術はわざと目立ってみたり。やりたい放題だからな」

「先生?聞こえておりますわよ?それはそうと、あの王子の抜け殻、どうするんですの?」


そこには、ハワード殿下の抜け殻と言っても過言でもないくらい、真っ白になった殿下が倒れかけていた。


「あのままで宜しいのでは?」

「いえいえ、まだパーティーは中盤なのですから、邪魔でしてよ?」

「あーそうだな。ちょっと、寝かせてくる。お前らは楽しんでてくれ」


「みなさん、申し訳ありませんでした。あり得ない余興はありましたが、まだまだパーティーは中盤ですので、引き続きご歓談ください」


司会進行役のイージス先生が人当たりのよい笑顔でそう告げると。

最初はざわざわしていたものの、徐々に元の楽しそうな雰囲気に戻っていった。


「にしても、まさかこんなタイミングを選ぶとは思いませんでしたわ」

「そうですか?ハワード殿下は、結構派手好きな方なので、そうかなとは思っておりました」

「貴方・・・わかっていて放置したんですの?」

「さすがに、こちらが妃教育で死にそうになっている間、比べられるのがいやだと嫌われ。やっと妃教育が終わったと思ったら、今度はほかの女性と浮名を流し始め。公務にも顔を出さない、茶会にもいらっしゃらない、学園のイベントもマリア様と過ごす始末で・・・。あまり興味が持てなくなってしまったのは仕方ないことじゃありません?」

「人の心ばかりは、留め置けませんわね。貴方、好きな人ができたんですの?」


「え・・・なんでお分かりになったんですか?」

「だって、マリア嬢のいじめを甘んじて受けていたのもそれが理由でしょう?婚約解消の足がかりになりますし。で、どなたですの?隣国のリオ王太子?それとも、第三王子のスティーブ殿下?」

「・・・隣国のリオ王太子です。もう、なんでもかんでもお見通しで、つまりませんわ!」

「ふふ、昼も楽しそうに話していたものね」


幸せそうに照れるミレイアも非常に可愛らしい。


「お姉さまの方はどうなんですか?」

「どうって?」

「アーノルド殿下のことがお好きなのでしょう?」

「な、なにを!!そんな・・・いつからばれてたの・・・」

「そうですね、密会の場所をアーノルド殿下の準備室にした2回目くらいでしょうか」

「・・・自覚より早いわ」

「ふふ、お姉さまが私を見てくれているように、私もお姉さまを見てますから」

「でも、アーノルド殿下は女性がお好きではないし、結婚する気もないらしいから、ないわね。さっさと在学中に、婿を見つけなきゃ!まぁ、弟達が成人するまでは、バリバリ自分で頑張るわ」

「お姉さまはそれでいいの?」

「いいの!それより、貴方も大変よ?隣国に嫁ぐなんて、王家からも、お父様からもお許し出ないわよ?」

「そうなのよね。どうしようかしら」


そう話していると、急にドアが魔力でドーンと開け放たれた。

しかも、そこから入ってきたのは、両陛下と話題のリオ王太子だった。


「ミレイア様!」

「リオ様!」


急いでリオ王太子がミレイアに近づいて来て、ミレイアの手をとる。


「貴方にプロポーズしに来ました」

「え??」


ちらっと両陛下を見るミレイア、王妃は青筋が立ちそうだが、陛下はニコニコしている。


「隣国に貴方はやらんと全員から言われてしまったので、弟に王太子の座は譲って、こちらの国に引っ越すことにしました」

「そんな、民たちは・・・」

「うちはもともと、全員王太子教育を受けていますし、誰がなってもよいと言われていたんです。弟はずっと王になりたいと言っていたので、ちょうどいいんです」


なんて、トンでも展開。


「なので、私も貴方と同じ学園に通って、あと3年学びます。そこで、貴方を迎えられるだけの地位を確立しますので、そうしたら、私と、結婚していただけませんか」

「うれしい・・・」


「「婚約はある程度地位が確立してから」ですわよ」


あら、父上と声がかぶってしまいました。


「これは、ビジョン公爵令嬢、貴方のお噂はかねがね、今後はよろしくお願いいたします。勿論、ある程度の資産が確立してから、婚約を許して頂きにまいりますと、ビジョン公爵にもお約束しました。しばらくは、学友として、よろしくお願いいたします」


いざとなったら、うちの公爵家を継いでもらってもいいかもしれないなと、幸せそうな二人を見ながら思った。

まぁ、彼ならば、宣言通りにミレイアを迎えにくる手筈を整えるだろうけど。


そっと父上の横について、

「いつから打診されていたんですの?」

「1年ほど前くらいからだ、その時はまだミレイアはそんな気がなさそうだったので、まず娘の気持ちが優先だと返した。あのボンボン王子よりは気骨がありそうだったしな。だが、絶対に隣国には嫁には出さん!と釘を刺した。そしたら、2週間ほど前に、少しはミレイアから色よい返事がもらえそうだから、そちらの国に帰化したい。王太子の座は降りるつもりだと連絡が来た」

「なるほど」

「まぁ、婚約は、ミレイア自身に決めさせよう。時期もな」

「あら、甘いことで」

「あんなボンボン王子のために、一番楽しい時期を潰させてしまった償いだ。あの時、もっと抵抗しておけば良かったと、未だに思っているよ。しかも、公務付き添いはこれからも光魔法の使い手として、王妃に付き添わなければならんらしい」

「そうですわね。まぁ、終わりよければいいのではないかしら」


そうこうしているうちに、ダンスの時間が始まって、両陛下をはじめとしてみんながダンスを始めたので、私は飲み物をとってバルコニーに出ることにした。

涼しい風を感じながら、美しい庭を見ていると、少し、寂しい気分になった。


「何してるんだ?」

「アーノルド先生!?もう戻られたのですか?」

「あぁ、陛下たちが来たのと同じく、騎士たちも来てな、馬車で王子を連れ帰ってくれたよ。あいつも今は俺といたくないだろ」

「そうですわね」

「それにしても、王弟殿下だとばれたのに、よく女生徒たちに群がられませんでしたわね」

「まぁ、顔出ししたわけでもないしなぁ。認識阻害のローブも脱いでないから大丈夫なんだろ、きっと」

「来年からはどうなるかはわかりませんけどね。ふふ」


「そういえば、賭けはお前の勝ちだろう?お願い事は決めたのか?」

「え?いえ、私のお願い事は、手助けだけでしたので、十分叶えて頂きましたわ」


「そうか。じゃあ、嫁に来ないか?」


急に水魔法まで使って、前髪を掻き上げて、大人の色気を漂わせながら、紺色の瞳に射貫かれる。


「・・・・・・・・・・・・・」


だらだらと手に持っていた飲み物が無くなっていく。


「ちょ、お前、どうした」

「ひどい、嫌がらせですわ、冗談にしても度が過ぎてます」


泣きそうになるのを堪えながら、庭を見るふりをして殿下から目を背けた。

その瞬間、背中に暖かいぬくもりを感じる。


「冗談で、生徒にこんなこと言えるわけないだろ」


背中から感じる鼓動は、いつも私が殿下と話しているときのように速い。


「お前も俺と同じ気持ちだと思ってるのは、俺の自意識過剰か?」


・・・っ。


そんな聞き方はずるい。


「だって、私はお嫁には行けません」

「あーそうだな、ずるい言い方だった。俺を婿に貰ってくれないか」

「・・・だって、政治は嫌だって」

「まぁ、好きではないけどな、好きな女と一緒になるためなら、多少、我慢するくらいの気概はあるぞ」


我慢しようと思った。この人を好きになっちゃダメだって、想いを伝えちゃダメだって。

なのに、ことごとく言い訳を受け止めてくれる。

こんなの・・・。


「ずるいですわ!人がせっかく、あきらめようとしていたのに」

「悪いな、俺も我慢しようと思ったんだけどな。妹馬鹿なお前も、闇属性魔法を卑下せず、使いこなしているお前も、騎士顔負けの剣の腕前も、何より、俺にだけ見せる、歳相応の照れた顔にやられた。十も年下の女の子に懸想している自分が気持ち悪いわ。まじ」

「貴族の結婚としては、普通の年の差ではないですか」

「いや、まぁ、そうなんだけどな。なんとなく、抵抗が・・・」

「では、早く大人になって差し上げますね?」

「いやいや、リリスさん、まずは大人になって、返事を聞かせてくれや」


「大好きです。婿に貰って差し上げますわ!」


そう言って、アーノルド先生に抱きついた。


「なんとなく、気分的に、婚約はお前が卒業してからでいいか?」

「はい、そもそもお父様からの承諾得るのに、時間かかると思いますわ、頑張ってくださいね?先生?」

「うあーーーー。ちょっとだけ、後悔。いや、頑張るよ。お前にはそれだけの価値があるからな」


そう言って先生は、卒業したら覚悟しとけよ?って笑いながら。

私の髪にキスを落とすのだった。


------------------------------


ちなみに、最後のオチを用意してくださっていたかのように、

パーティーの最後の進級者発表で、

過去初めての落第者が出ました。


マリア嬢は、殆ど回答欄が埋まっておらず、補講でどうこうなるレベルではなかったとのこと。

何のことはない、授業にまったく、ついていけないので、教科書に八つ当たりしていた時に、これは虐められているということにしようと思いついたと・・・、浅慮ですこと。


しかも最近マリア嬢とサボりまくっていたせいで、ハワード王子までも補講対象とのことで、

ハワード王子は今後3年間、首席を維持できたらそのまま王太子の座に、

首席になれない、もしくは、一度でも負ければ、

その時点で一番優秀な王子を立太子させると両陛下に告げられ、今更必死で学ばれているらしいですわ。

既に我が公爵家と同等のカールビア公爵家の令嬢と婚約関係にある第二王子のミハイル殿下か、

公務にも積極的に参加されている、まだ婚約者のいらっしゃらない第三王子のスティーブ殿下か。

(噂では、スティーブ殿下は隣国の王女殿下と懇意になさっているとか。)

貴族も騎士も、平民ですらも、こっそりと今後の行く末を賭けの対象にしているとのことで、ハワード様は一番大穴らしいですわよ。


勿論、ミレイアも私も、あの王子に首席を譲るつもりは全くないので、王太子の座を守りたいのであれば、今まで蔑ろにしていた公務も、新しい婚約者探しも頑張って頂きたいものですわね。


勿論、自分の世界に酔って、ミレイアを失ったハワード殿下には、

輝かしい未来など、望むべくもないですけれどね。


お前が阻止するんだろって?

それはご想像にお任せいたしますわ。


ちなみに、マリア嬢は、当の本人であるミレイアがとりなした為、卒業後10年間、光魔法を無償で国のために利用することを条件に事なきを得ることになりました。

但し、卒業できればの話ですけど・・・。

アーノルド先生が、子供に教える方がまだましかもしれない。

と、げっそりされていらっしゃいました。


とはいえ、貴重な光魔法の使い手ですので、放置するわけにもいきません。

うちの天使なミレイアは、なぜか彼女に放課後教える役を買って出ましたの。

あまりに優しすぎるので、たまに変装して私がスパルタで教えているのは、ここだけのお話。

貴重なお時間にお読みいただきありがとうございました。

断罪もののざまあが好きなのですが、今回はそこまで不幸になる人間はいないようにしました。


平和が一番ですね。


誤字脱字気を付けていますが・・・。ぽろぽろ、本当に申し訳ございません。

気づいたら、こいつ、仕方ねぇなぁと思ってそっとご指摘くださる優しい方々に支えられております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ