冒険録81 大人なヒロインは凄く積極的だぞ!
そうしてついに俺は、どうしようもないほど夕に惚れていると、明確に自覚することとなった。まさか夕はそれを気付かせるために「お返事の参考に」と言った訳では当然ないだろうが、結果的に大変参考になってお返事に大きく近付いたのだから、これも夕の想いの強さが成せる技なのかもしれないな。
それで俺がハッキリと気持ちを自覚して、夕との関係が一歩前進したのは良いが、やはり現状ではこの想いを伝える訳にはいかない。……と言うのも、夕は今ですらドンドコ攻めて強烈な誘惑を仕掛けてきているのに、ここに恋人同士という肩書と大義名分まで与えた日には、もはや無敵状態のやりたい放題になる訳だ。もちろんそれは、俺にとっても大変嬉しいことではあるんだが……俺の理性が吹き飛ぶ自信しかない訳で……ゆづの件が何も解決していない現状では、色々な意味でマズイのだ。
そうは言っても、ずっと返事を待たせている夕に申し訳ないので、他に何かしてあげられないものか。そう思って夕の方を向けば……目がバッチリ合い、ニコッと微笑みを返されてしまった。
「――っ!」
「……どしたの?」
慌てて目を反らした俺を見て、夕は不思議そうに小首をコテンと傾げているのだが……ええい、どしたのじゃねぇよ、ちきしょぉ! 笑顔も仕草も声も、何もかもが可愛すぎるんだよ! 俺が無意識に抑え続けてた反動なのか!? カワイイのツケなのか!? ――ってこんなアホみたいな事考えてしまうとは、俺も末期だな……――あそうだ、目を瞑って幼女夕を思い浮かべておけば少しは…………いや、全然ダメだし。そりゃ姿なんか関係ねぇもんな……やっぱアホになってるわ。
「ん~? お顔、真っ赤だよぉ?」
くっ、見た目で分かるほどの状態なのか。ツライ。
「――あっ! も・し・か・し・てぇ…………大人な私の魅力に~やられちゃったのかなぁ? にゅっふっふぅ~♪」
目を瞑って口元をωにし、嬉しそうにからかってくる夕さん。
「そそ、そんなこと――」
それで俺は慌てて誤魔化そうとしたが……
「いや……うん。すっごく可愛くて、最高に綺麗だからな」
途中で思い直して、素直に答えることにした。まだ想いを伝えてあげることはできないので、せめてこのくらいはさせてもらおうと思ったのだ。こんなこと、普段は照れて絶対言えないしな?
「――なななな、なぁっ!? うなぁぁ!? ……っうわととと、落ち、ちゃ――あたっ」
すると夕は瞬時に顔を沸騰させ、大慌てで仰け反った拍子に、ベッドからコロリンと落ちてしまった。――ふっふっふ、調子に乗ってからかってくる夕さんに、一矢報いてやったぜ。まぁ……俺もクッソ恥ずかしいし、痛み分けなんだけどな!
それで夕は下でうーうーと悶えていたが、ややあってベッドの端から目の上だけをチョコンと出して、こちらの様子を覗ってきた。それはまるで穴から顔を出すプレーリードッグのようで……くっそぉ、なんてアザト可愛い仕草……それも狙ってやってないのが、余計にタチ悪い。
「……ほ、ほんとに?」
「ああ」
「っうぅぅ! う、うれしすぎるよぉ……にへへ~」
夕はニュッと上半身を突き出すと、顔をでろんと崩して喜んでいる。
その様子を見て確かな手応えを感じた俺は、
「えーと……これで、いかがでしょう?」
再びベッドに上がって来た夕に、感想を聞いてみる。
「もぉぉぉぉ、さいっこうの、ご褒美だったわ!」
「そ、そか」
ふぅ、良かった良かった。これで夕は満足してくれたようだし、今日のところは落ち着いて眠れそうだ。
「じゃ、あとは寝――」
「でぇ~もぉ~? こんっな嬉しいこと言われちゃったら、私も頑張るしかないよね!」
「な、にぃ……」
逆に夕さんのやる気をブーストさせてしまっただとぉ!? どうしてそうなる!?
「そういうわけでぇ、ご褒美のおかわり~貰っちゃおっかなぁ? うふふ♪」
夕は楽しげにそう言って、四つん這いでこちらへジリジリと侵攻を再開する。これではスタートに逆戻り――どころか、強くてニューゲームではないか。
「いやいや、食べ過ぎは良くないと思うぞ? ほら、いつも夕が言ってるだろ……」
よし、ここは夕お得意のヘンテコ諺を使って説得だ。
「二兎追う者は?」
「一網打尽!」
「返り討ちじゃないのかよぉ!?」
まさかの変則パターンで返されるとは……くそぉ、頭の回転が早すぎる。
「ん~? 返り討ちにできるのかしらぁ? にしし♪」
「……ぐぅ」
できませんね! 仰る通りです!
「さぁて! 二兎目を捕まえちゃうぞぉ~」
そう言って夕が動き始めると、すでにズレかけていたショールが、膝に引っ張られて落ちていき……またネグリジェ一枚になってしまった!
「ちょちょぉ、待って! すとぉっぷ!」
「ん~?」
お願いだから、その格好で這い寄らないで! すでに夕の魅力で完全に参ってるってのに……そこへさらに、二つのヒルが織りなすヴァレイ的なアレが激しく主張をされますとね……――ってかさ、普段の幼い姿の夕と接している時間が長すぎて、そういう目で見てしまうことに罪悪感がヤベーんだよ!
「とりあえず! 上着! 着て! ください!」
俺が歯を食いしばって理性を保ち、ケンゼン領域を視界に入れないよう頑張るものの、
「……え? もぉ~、そんな顔しなくていいのに。今は大地君よりお姉さんなんだよぉ? それも大きくなったんじゃなくて、こっちが本当の私なの!」
それを目ざとく察した夕さんが、その罪悪感はただの勘違いだと言ってくる。
「だから……だっ、大地君が、見たかったら、好きなだけ見て……いいんだよ? わ、私、がんばるからっ!」
そう言って膝立ちになり、これ見よがしに胸を反らす夕さん。これは見てはいけないと目を逸らす俺。
「勘弁してください……」
「むむぅ、こればっかりは積み重なった印象の問題だし、慣れるしかないっかぁ……あ!」
そこで夕さんは、ニヤリと悪い笑みを見せる。
「じゃぁ少しでも早くこの身体に慣れるように……練習、しよっか?」
「んなっ!?」
なんの、練習、だよおおぉ!? 分かるけど解っちゃダメなヤツ!
――夕ちゃんほんとは年上なんだろ? 大人のお姉さんなら、好きな人とは普通
だぁぁ、ヤスは黙ってろ! しゃしゃり出てこんでいい!
……よし、まずは落ち着け大地。そもそも夕相手に防戦ってのが戦術として間違ってるんだ。夕だってこういうことには慣れてないはずで、強がってるだけに決まってるし、攻めれば必ずボロが出る。
「……そ、そんなこと言って、お前も別に慣れてなんか、ないんだろ?」
「っ!? そ、そう、だけどぉ……あたしだってぇ、大地のためにいっぱい勉強して……ごにょごにょ」
よーし、夕がテレモジしだして、想定通り攻撃の手が止んだぞ! 何かごにょごにょ言ってる内容は聞かなかったことに!
「うんうん、そうだろうそうだろう。じゃぁ、今日のところは大人しく寝――」
「むぅぅ……こうなったらぁ……」
そこで夕は膝立ちでフッと気合を入れて、自分に手をかざすと、
「【がんばれわたし! つよきになぁ~れぇ~!】」
まさかの万能魔法を詠唱。
「おんまっ! 魔法でドーピングしやがったな!?」
レッドカード、退場! ――いや、俺がベッドから退場させてもらってもいいですか!?
「んにゃ? 大きくなるのに全部使ってスッカラカンだし、これはただの自己暗示のはずだよぉ?」
「……少し、手が光ったような?」
「あら、そうだったかしらぁ? 男の子は細かいこと気にしたらだ〜めっ」
すっかり余裕を取り戻した夕さんは、大人っぽい澄まし顔で俺の鼻をチョンと指で突き、不正をはぐらかしてくる。
む、むぅ……くっそ手強い。絶対イリーガルバフ盛ってるって。
「さ、どうしよっか? ――なんて聞くのはヤボよねぇ。うふふっ♪」
「ちょ、一旦落ち着こうか!」
「すっごく落ち着いてるよぉ?」
酔っ払いの酔ってない発言くらい信用できんのだが。
「ほ、ほら。ルナも見てるし?」
今回はルナに見せられない事をしようとしていると、直感で分かるぞ!
「ルナちゃんなら、とっくに寝てるわよ?」
「なん、だと……」
横を見れば、枕の上で幸せそうにスースー寝息を立てている。――くっ、道理で静かだった訳だ。
「……さっきも言ったけど、ゆづの身体なんだぞ?」
「む……」
よし、これはまだ有効だ。最終防衛ラインとも言えるが。
「――までなら」
「え?」
ボソッと呟いた夕に聞き返せば、勢い良くこう叫んできた。
「キ、キスまでなら、ゆづだって許してくれるわっ! 気付いてなければノーカン! セーフよ!」
「いやぁ……それだと、寝てる女の子にキスしてもセーフってことになるぞ?」
いくら何でも、その理屈では通さんぞ!
「知らない子だったら、絶対ダメに決まってるでしょ。でもゆづは、広義で私でもあるからいいの。仮に私が十年前にこっそり大地にキスされてたと知っても、ぜんっぜんオッケー、どころか大喜びよ!」
「ぐ……」
こう自信満々に言い切られると、そういうもんなのかなと思ってしまった。ほぼ本人に良いと言われれば、外野は文句も言えない……マズイ、防衛ラインが崩される!
「ねぇ、大地……」
そこで夕は急に悲しげな顔をすると、意外過ぎる事を尋ねてきた。
「やっぱり私となんて…………イヤ?」
「そんな訳あるか!!! ――あっ、いやその、何と言うか……」
ぐぅ、うっかり熱の入った本音が飛び出てしまった。いやだって、そんなん、したいに決まってるだろうが……。
「うふふ、良かったぁ。だったら、ゆづのこととか、まだお返事できてないし~とか、深く考えなくていいんだよ? これは私へのご褒美って考えて、ね?」
当然ながら俺にも最高のご褒美な訳で、いけないと思う理性に反して、口からはNOと出てこない。
「ふふっ♪」
沈黙は肯定と受け取られたようで、夕は嬉しそうに微笑むと、ゆっくりと俺の肩に両手を回してしなだれ掛かり、甘い香りと共に俺を包み込んでくる。そうして夕の柔らかな身体に密着されると、間違いなく大人の女性になっていると実感してしまい……ああ、ダメだ、こんなの抗えるわけがないって。
さらに目の前の夕は、頬を染めながら潤んだ蒼黒の瞳でこちらを見つめると、
「大地、好きよ」
その熱い想いをド直球で伝えてきた。それは何度聞いても絶対慣れることなどなく、いつも容赦なく俺の心臓を撃ち抜く。加えて夕の熱い吐息が口元にかかり、動悸が際限なく上がっていく。
そして夕は、瞳をゆっくりと閉じながら、その艶やかな唇を寄せてくる。
俺は今にも破裂しそうな心臓を押さえ、目を瞑って運命の時を待つ。
ああ、ついに俺は夕と……。
そうして一瞬が永遠のように感じられた時……
ちゅっ❤
唇が夕に触れ、甘い電撃が身体中を走り抜けた。
【360/610 (+60)】
ついにやったぞ!
皆様もガッツポーズしていただけましたら、何よりでございます。




