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【豪華挿絵】月と金星とステラマジカ ~ヒミツの愛情魔法~  作者: 餅餅餅
第8章 月と金星と夜間補講
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冒険録74 夢オチはとても便利だぞ!

 打つ手がないと思われた厳しい状況(じょうきょう)()、俺が(ひらめ)いたのは……ゆづが一番良く知る人間である「ゆづ()本人」に化ける作戦だった。

 自分自身が目の前に現れたら(おどろ)きはするだろうけど、上手く誘導(ゆうどう)すれば夢だと思ってもらえるかもしれない。つまり、夢オチ作戦で上手く誤魔化(ごまか)そうというわけだ。その肝心(かんじん)の変身については、体格まで変えるのはイメージがつかないものの、夕の顔と声だけならできそう……という訳で、さっそく夕の顔を思い()かべてみる。

 ぷっくり(つや)やかな(くちびる)、ちんまり可愛らしい小鼻、パッチリ大きい目に長いまつ毛、小ぶりで丸っこい耳にかかる美しい蒼黒(そうこく)(かみ)……よーしよし、隅々(すみずみ)までバッチリだ。続いて声……年相応の高めな可愛らしい声ながらも、大人の落ち着きも秘めた不思議な魅力(みりょく)のある声……ウム、完璧(かんぺき)なイメージだ。よっしゃぁ、いくぞ! 【写相(ミミック・フェイス)!】、【写声(ミミック・ヴォイス)!】。

 心の中で詠唱(えいしょう)すると、顔の表面や(のど)の内側がぐねぐね動き、合わせて髪も()び始めた。痛くはないが、ムズムズしてちょっと気持ち悪い。

 やがて動きが止まったところで、胸ポケットのルナに耳打ちでお願いをしてから(はな)し、俺はゆづの正面に()き足で近付く。首より下は俺のままなので、豊かな髪で(かた)と胸を(おお)(かく)し、(ひざ)を付いてゆづの高さに合わせると……【点火(イグニ)】と心で(とな)えて、部屋のランプに火を(とも)した。


「あっ、ついた。よかったぁ――ってええええ!? ゆっ、ゆづが、いる? どどどど、どぉなってるの!?」


 やはり驚かれてはしまった。だが、こうして本人が自分と見間違えるほどには、上手く変身できたようだ。


「あー、こほん」


 うぉすげぇ、俺の口から夕の声が出るぞ――って感動してる場合じゃない。ここからが勝負だ!


「ゆづ、良く聞いてね。ここは、夢の世界なの」

「ゆ、め?」

「そうよ」


 む、むぅ……夕の口調を真似(まね)るのは(みょう)に照れくさい。だが、しっかり演じて夢だと信じてもらわないとだ。


「ねね、上をみて? 妖精さんがいるでしょ?」

「やははー!」

「わぁ~、かっわいい」


 耳打ちでお願いした通り、ルナが俺たちの真上でクルクル(おど)ってくれており、さらにはルナの魔法なのか周りが虹色(にじいろ)の光でキラキラ(かがや)いている。よしよし、デキル子だ。


「ほらほら、ゆづが二人いたり、妖精さんがいたりなんて、普通(ふつう)じゃないよね?」

「そっ、そっかぁ。こんな不思議なこと、夢に決まってるよね。あ~びっくりしたぁ~」


 ゆづはそう言って胸を()で下ろすと、強張っていた表情を少し(ゆる)めてくれた。……よぉし、順調に誘導(ゆうどう)できてるぞ。


「うん。でも実はね……あんまり長いこといると、この夢の世界から出られなくなっちゃうかもしれないわ」

「えええっ、そうなの? たいへん、早く起きなきゃ……」


 ゆづは(あわ)てて自身の(ほお)をむにぃと引張るが、「いだぁい」と言って痛みに顔をしかめるのみ。


「ふふ、ここは特別な夢だから、()めるにはそこのベッドで()ないといけないの」

「んえ……? 寝たら夢がおわる、の? うふふっ、へんなのぉ」


 自分(?)の言うことだからか、不思議そうにしつつも納得してくれた様子。一度だけ俺と会ったときには、嫌悪感(けんおかん)と敵意むき出しの(おそ)ろしい子だったが……やっぱり本当は素直な良い子なのだろう。根っこは同じ夕なんだから、当然だが。

 そこで俺は顔以外を見られないように、すかさずゆづの背と膝に手を当ててお姫様(ひめさま)()っこをすると、ベッドの上へと運んで寝かせる。


「うわわわぁっ! 夢のゆづは力持ちなのねぇ」


 身体は男子高生だしな。それにゆづが軽すぎるのだ。


「えっと、ここでふつーに寝るだけで……いいの?」

「ええそうよ」


 俺が膝立(ひざだ)ちで(くつ)()がせ、布団を()けてあげると、ゆづは静かに目を閉じた。

 これでゆづの精神状態が落ち着いてくれたところで、夕が交代しようとすれば(ねむ)くなるはずだ。加えて今なら精神に作用する魔法への抵抗(ていこう)(うす)いだろうから、俺もこっそり援護(えんご)しておくか……【誘眠スリープ・コンダクション!】。

 すると魔法が効いたのか、夕の交代の作用なのか、すぐにゆづが寝息(ねいき)を立て始めた。


「………………ふうぅぅ、何とか乗り切ったか」


 ギリギリの綱渡(つなわた)りの連続ではあったが、こうして緊急(きんきゅう)対処できた自分を()めてあげたいものだ。

 そうしてゆづの愛らしい寝顔をじっと(なが)めていると……


「……んっ、戻ったよ。ごめんね、パパ」


 夕が目をゆっくりと開けながら、申し訳なさそうな声でそう言った。ちなみに夕は、ゆづが起きている間も感覚を共有しているため、今の一部始終を全て把握(はあく)している。


「まぁ、上手くいったし気にすんな——ってのも、さっき風呂で一緒に対策を考えてたし、パニックにならずに済んだかも?」

「うん。何でも準備は大切よね」


 そこで夕が隣に立つ俺に顔を向けるなり……


「――っぷふふ、あははは」


 突然(とつぜん)()き出してベッドをパタパタ(たた)き始めた。


「ごごっ、ごめん。あたしの顔と声なのに、口調と身体はパパなんだもん――ぷふっ、おかしくってぇ~」

「ぱぱなのにままなのー! いひひひひ、へんてこなのー!」


 降りてきたルナまで笑い出し、顔をツンツン(つつ)いてくる。それで自分の胸元を見ると、綺麗(きれい)な蒼黒の長髪が腰まで降りてきているが、その髪をずらせば筋肉の付いた男性の胸や(うで)が現れる――まるで女装しているようで実にシュールだ。


「ははは……これでよくゆづを(だま)せたもんだよなぁ」

「ふふっ。だって、顔だけはビックリするくらいソックリだもん?」


 夕がそう言って身体をベッドから起こすと、両手でチョイチョイと手招きする。俺が顔を近付けてあげると、まじまじと見つめてきた。


「んや~ほんと(すご)いわぁ、まるで鏡を見てるみたい。こんなにも精確にあたしの顔と声を再現できるってことは……――っ! えと、な、なんだか照れちゃうわね?」

「あ、いや……ま、まぁな」


 夕が顔を赤くしてモジモジし始めたので、俺も()られてしまう。(はた)から見れば、同じ顔の二人が照れ合っているという、実に可笑(おか)しな光景に映ることだろう……とは言っても見ているのはルナ()だけだ、気にしない気にしない。そう思ったところで……


『――くくく、()もありなん。七時間も()まるというものだ』

「「っ!?」」


 テーブルに置かれた時計から魔王様の声。

 なんてこった、スクリーンは消えても通話は切れていなかったのか!? ええい、またカレンに()ずかしいところを聞かれてしまったぞ!



【384/457(+8)】


夢オチ作戦、かなり強引な手でしたが、何とかなりましたね。

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