冒険録65 ヒロインは意外と策士だぞ!
俺と夕が二階の部屋へ戻ろうと倉庫を抜け、ランタン片手に酒場への扉を潜ったところで、左手の厨房の方向から小さな声が近付いてきた。
「ただいままー!」
「おかえり? ルナちゃんどこ行ってたの?」
「じゅーすおいしかったのー!」
飛んできたルナは夕ママの肩に座ると、お腹をさすって報告する。ヤスとの遭遇騒ぎですっかり忘れていたが、ルナは風呂上がりの一杯を飲みに厨房へ行っていたのだった。
「あら、ちゃんとバコスさんにお礼言ったの?」
「うんっ!」
「よしよし、偉いわねぇ」
「ふやぁ〜」
夕はルナの頭を指先でナデナデしてあげており、躾もバッチリのママさんである。
そうして三人でL字階段を上っているところで、先を進む夕がクルリと振り返った。この二段差の位置関係では、四十㎝以上の身長差がある夕と真っ直ぐ視線が合うことになり、とても新鮮な感覚だ。
「パパ。色々あったけど、楽しいお風呂だったね」
「ま、まぁな?」
総じて楽しかったことは確かだが、その色々があまりに刺激的過ぎた。
そこで夕は再び歩き出すかと思いきや、何やらモジモジしながらこちらをジッと見つめると、
「あ、あのぉ、それだったら……また一緒に入ってくれる、かな?」
少し緊張した声でそう尋ねてきた。
「な! そ、それは……」
「…………むぅ、イヤ、だった? そ、そっかぁ……」
見る見る夕がしょんぼりしていき、とても心が痛む。
「いや! そうでもなくなくない、ような気もしたりしなかったり……?」
「もう、どっちなのよぉ〜。ハッキリしなさーい!」
決して嫌ではないけど、終始ドキドキしっぱなしというのは、俺の心労的にアレと言いますか……本来癒やしの場であるはずのお風呂には、もう少し落ち着いて入りたいものでして……その複雑な心境、ご理解いただけませんかね? ――と伝える訳にもいかずだ。困ったぞ。
「ぱぱもいっしょなのー!」
「ほらほらぁ、ルナちゃんもこう言ってるよ~? 妖精さんのお願いは叶えてあげないとダメなんだよ~?」
「だよー!」
俺の葛藤をよそに、ハイテンション娘二人がこちらにズズイと顔を寄せてきた。勢いに押された俺が一段下がると夕も合わせて一段降り、もう一段下がれば同様に一段降りて、「だよー!」と迫ってくる。――え、待って、逃げられないんだけど? あと目線が同じだと夕の攻めも割増で効くなぁ。
それで確かに、ルナの願いを叶えるのは俺たちの大きな目的の一つでもあり、加えて夕がそこまで喜んでくれるなら吝かではない。俺がそう思ってしまっている時点で、端から拒否は無理というものか……。
「……ぜ、善処することを検討しておく!」
だが正直に言うのはアレがアレなので、政治家のように濁してみる。
「ぷふっ、そんなお堅い言葉で照れ隠ししちゃってぇ。んもぉ、だいちくんってば、ほんと照れ屋さんなんだからぁ。か~わいい♪」
すると再び大人モードとなった夕さんは、正面から俺の頬をツンツンしてからかってきた。ただ、そう言いながらも顔を照れで赤くしていては世話ないというもので、この夕さんならワンチャン勝て……ないね、ウン。特に今は段差で身長差も埋まってATK高め――ハッ! そのための位置取り!? 夕さんの策士!
「――さぁて! 無事にお風呂の予約も取り付けたし、あとはお部屋に戻って一緒のお布団で素敵な一夜を過ごすよぉ~」
「ちょぉ、言い方ぁ!」
「にしし」
このニヤニヤ顔は、絶対に分かって言っている。夕さんめ、純朴男子をからかうのがそんなに楽しいか! あと予約はまだ取れてないから!
「かわのじー!」
「うんうん、もちろんルナちゃんも一緒だよ! 川の字楽しみ――」
「「ね~♪」」
二人はまさに母娘のごとく息ぴったりに首を傾けると、キャッキャと盛り上がりながら足取り軽く階段を上って行く。残された俺はヤレヤレと首を振りながらも、その幸せそうな後ろ姿にとても温かい何かを感じ、フッと頬を綻ばせるのであった。
~ 第7章 月と金星と家族風呂 完 ~
【410/410 (本章での増加量+155)】
第7章までお読みいただきまして、誠にありがとうございます。
二人の混浴にドキドキしちまったぜ! 大人夕さんに手玉に取られたい! などと思われた方、ぜひとも【★評価とブックマーク】をお願いいたします。
第8章は、ついにあの子が登場してしまいます。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




