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【豪華挿絵】月と金星とステラマジカ ~ヒミツの愛情魔法~  作者: 餅餅餅
第7章 月と金星と家族風呂
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冒険録64 ヒロインを褒めるのはもっと難しいぞ!

 俺は夕の衣類一式をまとめて脱水(だっすい)した後、先に風呂場を出て夕の着替(きが)えを出口で待っていた。実はすでにそこそこの時間が経過しており、やはり女の子の身支度(みじたく)は時間がかかるのだろう。ちなみにルナは、先ほど「じゅーすのみたいのー!」と(さけ)んで厨房(ちゅうぼう)へと飛んで行った。

 ランタンを風呂場に置いてきたので、(かべ)の『カンデラスクロール』で部屋の明かりを(とも)したところで……


「ん、倉庫が明るい? ――あぁ大地か。えらい長いこと入ってたな? よっ、あつ湯プロ!」


 ちょうど左手の厨房から出てきたヤスと遭遇(そうぐう)し、長風呂を茶化(ちゃか)された。


「いや、ついでに洗濯(せんたく)もな? にしてもヤッス風呂の洗浄(せんじょう)力すっげぇな」

「だろぉ~?」


 そこで小さな足音と共に、衝立(ついたて)の向こうから制服姿の夕がランタン片手に現れ……

 

「ごめんね、おまたせぇ――あ」

「「あ」」


 三人の視線が交差した。


「え、まさか、夕ちゃんと……? おいおい大地、すげぇじゃんか!? 見直したぞ!」

「チガウチガウ! 夕が入ってる間、俺が見張ってたんだよ!」

「そそそ、そうです!」

「あ、あーそっか。いやぁびっくりした。うーん、早速実行したのかと思ったのに……ったく見直して損したぜぇ」

「ハハハ」


 まさに実行されたんだけどな? あと損したは流石(さすが)(ひど)くね?


「んで夕ちゃんも、お風呂楽しめた?」

「はいっ! ほんっと~にもう最高でした!!!」

「おおう!? んまぁそこまで喜んでくれたなら、僕も作った甲斐(かい)があったってもんよぉ~」


 ヤスは満足気にそう言って、倉庫の従業員用階段へ向かったのだが……なぜか引き返して来ると、俺の(かた)(うで)を回して耳打ちしてきた。


「(おい大地、ちゃんと()めてあげろよ?)」

「(ん? ……ああ、分かってるっての。てか余計なお世話だ!)」

「(ハハハ、大地のことだしスルーすんじゃねと思ってな? それなら安心したぜっと!)」


 ヤスは最後に俺の背をパンと(たた)いてニヤリと笑うと、今度こそ階段を上って去っていった。


「(じぃ~)」


 振り返れば、夕が少しジト目でこちらを見ていた。


「ほんっと仲いいよねぇ」

「そうかぁ?」

「そうよ! もぉ、なんだか()けちゃうわぁ~」


 夕は少しだけ(くちびる)(とが)らせ、プイッと後ろを向いてしまった。まさか野郎(やろう)との仲で()ねられるとは……夕ってば、意外とヤキモチ焼きなのかな? そうだとしたら、(うれ)しくもあり、困ったことでもありだなぁ。

 それでヤスが去り際に言っていたのは、夕の髪型(かみがた)のことだ。目の前で背を向ける夕を見れば、普段のツーサイドテールではなく、つむじ辺りで大きなお団子を作る髪型にしている。恐らくは湿(しめ)った長髪が服に付かないようにするためで、またこの髪型に結うのに少し時間がかかっていたのだろう。

 その髪型の感想だが……正直メチャクチャ可愛いし、同時に綺麗(きれい)だとも思う。というのも、普段は隠れた白いうなじと蒼黒(そうこく)の髪のコントラストが美しく、しっとり瑞々(みずみず)しい肌に湯上がりで上気した(ほお)、さらに時折(ときおり)見せる大人びた所作(しょさ)も相まって、十歳児(じゅっさいじ)とは思えない(あで)やかな魅力(みりょく)(あふ)れているのだ。先ほどまでこの夕と同じ湯船に()かっていたのかと思うと、再度心臓が()ね上がってしまう。……うーん、それでどう感想を伝えようか。


「と、ところで夕」

「えっ、なぁに?」


 声をかければ夕はギュンと振り返り、小首を(かし)げてこちらを見上げてくる。そこまで重度の拗ねではなかったようで、もういつも通り――どころか少しワクワクしてない? どゆこと?

 それで切り出したは良いが……女の子を()めるって、慣れない俺にはすっげぇ緊張(きんちょう)するんだが! でもヤスにああ言った手前もあるし、当然スルーする訳にもいかん。男を見せろ大地!


「え、えと……あれだ……その髪型も似合ってて、すごく……かっ、可愛いぞ!」


 ふいぃ、なんとか言えたぞ。面と向かっては恥ずかしすぎて無理なので、横の壁を見つつなのはご容赦(ようしゃ)


「え………………えええぇ!?」


 勇気を振り(しぼ)って褒めたのに、何故か全力で(おどろ)かれてしまった。――くっ、もしやここは「可愛い」より「綺麗」の方が適切だった……のか? 心はレディだもんな。


「えと、ごめん、叫んじゃって! パパから『可愛い』って言われるなんて、もうほんと嬉しすぎて、動悸(どうき)バクバクのだいぱにっくに? なっちゃって?」


 夕は顔を真っ赤にさせて、両手をわちゃわちゃ振り回している。……よかった、褒め方に難があった訳ではないらしい。


「はうぅ、こんなのクラクラころんってなっちゃいそうだよぉ」

「またなのか!?」

「んやや、例え! そのくらい嬉しかったってことっ!」


 そこで夕はトトッと目の前に来て、髪を見せつけるようにクルリと回ると、


「ありがと、パパ♪」


 俺を見上げて満面の笑みを向けてきた。


「っ! ……まったく、こんな一言くらいで大げさな」


 色々と褒め言葉を考えたものの、緊張して全然上手く言えなかったのだ。カレン(魔王様)への賛辞(さんじ)はスイスイ出てきたのになぁ。


「はあぁぁ~」


 すると夕は大きな溜息(ためいき)()き、しょうがないわねぇと言わんばかりに首を振ると、こう続けた。


「あのね? 照れ屋なパパが、こうして頑張って褒めてくれたこと自体が、あたしはいっちばん嬉しいのっ!」

「お、おお?」

「んとね……実は()ってる時からちょっと期待してたんだぁ」


 ――ああ! ヤスとの仲がどうのは方便で、そっちで拗ねてたのかよぉ……――くっ、女心はムズカシイ!


「でもパパだし、頑張っても『似合ってるぞ』くらいかなぁ~、それでもすっごく嬉しいなぁ~……と思ってたところからのぉ、ビックリ大サービス! こんなのあたしには余裕(よゆう)でオーバーキルなのっ! きゅんっきゅんなのです!」

「わわ、わかったから!」


 小っ恥ずかしいことを次々と(まく)し立て、ドヤ顔でふんすと鼻を鳴らす夕だったが……それがフッと(やわ)らかな微笑(ほほえ)みに変わった。

 俺が不思議に思ったところで、夕はスッと背伸(せの)びをして片手を真上へと()ばすと、


「うふふ。まだまだにぶちんね、だ・い・ち・くん?」


 大人びた声でそう(ささや)いて、俺の鼻頭を指でチョンと(つつ)いてきた。


「んな!? ――ぐ、むぅ……精進(しょうじん)します」


 普段の夕にもからかわれっぱなしだが、こうして気分がノると現れる大人モード夕さんともなれば、まるで弟(あつか)いの俺は手も足も出ない。是非(ぜひ)もないね。


「ん~? そこは頑張らなくていいのになぁ~」

「えーと……そのココロは?」

「んふふっ、これならまだまだ安心ねぇ。にっしっし♪」

「???」


 夕は口元に(こぶし)を当ててそう言うと、楽しげな鼻歌混じりに歩き出す。俺は目の前でゆらゆら()れるお団子を見つめながら、ゆっくりと首を(かし)げるのであった。



【394/394 (+16)】


大地君にしては、頑張った方でしょうかねぇ?

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