冒険録61 悪友はヒロインの強い味方だ!
こうしてヤスの乱入により、俺と夕はまさかの同じ樽に入ることになってしまった。これ以上事態が悪化する前に、ヤスを風呂から追い出したいものだ。
そうとなれば、こっそりヤスの樽の温度を上げておくか――ん~、【加熱!】……よし、樽が僅かに光った。念じるだけでも、ちゃんと発動してくれたぞ。
「――しっかしよ、僕らもすんげぇ世界にきちゃったもんだねぇ」
「だなぁ。特にそっちは、色々大変だったんだよな?」
「それ! 聞いてくれよぉ大地~」
――そうして湯に浸かりながら、ヤスの異世界苦労話を聞いたり、先ほど俺が死にかけた話をしたりしていたのだが……しばらくして俺と夕の話に移ってしまった。ちなみにルナは、遊び疲れたらしく、隣でプカプカ浮きながら気持ち良さげに寝ている。
「――いやぁ~あんときの大地先生のお言葉には参ったよなぁ! 後ろで聞いてた僕まで恥ずかしくて死にそうになったっての!」
「だぁもう、頼むからその話は忘れてくれ!」
「へっへっへ。そいつは難しい相談だなぁ!」
以前に夕がひどく取り乱してしまい、俺が超絶クサイ台詞を叫んで落ち着かせた事があったのだが……後ろにヤスが居たんだよなぁ……あれにはほんと参ったもんだ。
「(あうぅぅ~)」
「ちょ――」
後ろの夕が思い出し悶えをした拍子に、背中同士が一瞬触れてしまい、電撃が走ったかと思った。
「――っと熱くなってきたなぁ~」
「言われてみたら……」
ヤスが訝しげに首を傾げたので、適当に誤魔化しておく。ヤスも俺も別の意味で熱いからな!
「――んでさ、ぶっちゃけ夕ちゃんとはどうなんよ?」
「いや、どうと言われても」
「んー、さっきはママって聞いてビビったけどさ……その、そういうことはまだ……なんだよな?」
「あたりまえだ!!! テメェ、夕がいくつだと思ってんだよ!?」
「え、いやだって、夕ちゃんほんとは年上なんだろ? 大人のお姉さんなら、好きな人とは普通――どわぁスマンって!」
睨んでやると、ヤスは両手を合わせて口を噤む。――ったく本人が居るってのに、んなアレな話はやめてくれ! 後ろから羞恥と怒りの波動が、プルプルとお湯を伝わってくるからさ!?
「まぁお前にしろ夕ちゃんにしろ初心も初心だし、そういうのは時間かかりそうだけど……でもやっぱステップアップも……ほら、ちゅ~くらいは普段それなりにしてんだろ?」
「……いや、まったく?」
初めて会った時の事故と……あとは夢で……くっ。
「は? マジ? それ全然進んでなくね!? お前ら何やってんの!!!」
「ほっとけや! ……そもそもだ、夕とは付き合ってる訳でもないんだぞ?」
もしやヤスの中では、すでに付き合っていることになっているのでは……そう思ったところで、ヤスは珍しく真剣な顔をして答えた。
「んや、もちろん分かってるって。あと細かい事情はあんまし分かってないけどさ、あの怖い子――ゆづちゃん? のことで今はそういう仲になれない……だったよな?」
「……うむ」
ヤスはヤスなりに、このややこしい状況を理解してくれてはいるようだ。アホそうに見えて――いや実際アホだが、ハズしてはいけない事は直感で捉えているところがあるからな。
それでヤスの言う通り、夕から向けられる想いに現状は応えることができないのは、俺の気持ちが不確かなこともあるが、そもそもゆづの問題が解決しない限りは夕と共に生きられないからだ。確固たる決意を抱いて未来から来た夕は、全てを承知の上で俺を慕ってくれており、「お返事は急がないよ」とは言ってくれているが……やはり申し訳なく思う。
「分かってんなら――」
「いや、そうなんだけど…………正直な話な? 彼氏彼女だとかそうじゃないとか、そんなごく普通の肩書なんてどうでも良くなるレベル……運命の赤い糸――ってかもはや綱? でガッチガチに結ばれてる仲だと、ぼかぁ思ってんだよ」
「お、おう……?」
何とも大げさな物言いだとは思うが……こうして夕との絆を認められると、とても嬉しくも感じる。てかこいつ、よくこんな事こっぱずかしげもなく言うよな? 俺のクサイ台詞をからかえた口か?
「例えばさぁ、夕ちゃんが他の人を好きになるとか、僕にゃぁどうやっても想像つかんし?」
「ん……むう」
実を言うと夕は、十二歳の夕を施設から引き取り育ててくれた未来の俺に恋していた――いや、今もまだ少し引きずっているらしいが、それも広義では同じ俺なので他の人ではない。
「ってのもさぁ、大地を死ぬほど好きなのはもちろんなんだけど……前に喫茶店でじっくり話した時に思ったのは……なんつーか、それ以外にも何かあるなって、気がしてて? よくわかんないけど、絶対に譲れない意思、みたいなやつ?」
「ほぉぉ」
このヤスの直感も正しく……大切にしてくれた未来の俺に今生の別れを告げたり、ゆづが俺に救われる未来を奪ったりと数々の犠牲を払っているため、俺以外を選ぶなんてそもそも筋が通らないし申し訳が立たない――律儀で義理人情に厚い夕はそう言っていた。またそれ故に、もちろん返事はすぐに欲しいけど急かさないとも。
この夕特有の心境を知らずして感じ取ったヤスは正直大したもので、後ろの夕も「靖之さん、ほんとよく見てるわぁ……」としきりに感心している。
「……なるほどな、それで肩書や体裁なんて気にすんなと言いたい訳だ?」
「ああ、そういうことか!」
「だから何で当の本人が理解してないんだよ!?」
「たはは」
「(っぷくく)」
いつも通りの最後は締まらないヤスに、後ろの夕が必死に笑いを堪えている。
「――てなわけで! ぶっちゃけ二人が何しても、文句言えるようなヤツなんて誰もいやしないし、むしろ何もしてないことに僕が文句言ってやるぞっ!?」
「はぁ、またそれかよ……」
以前にもヤスは、こうして意味不明の憤りをぶつけてきたことがある。全くもって余計なお世話だ。しかも後ろの夕まで、「もっと言ってあげてください、あたしももっと頑張りますから!」と小声で意気込んでるし……夕の攻めがさらに激しくなったらどうしてくれるんだ!?
「……あっ、そうだ!」
そこでヤスが何か閃いたらしく、樽からせり出すようにしてこちらへ指を向ける。
「さっき助けてもらったこともあるし、お礼に夕ちゃんをお風呂誘ってみたらどうよ? すっげー恥ずかしがるとは思うけど絶対喜ぶって! ほら、家の狭い風呂だと流石に過激すぎてアウトかもだけど、ここなら別々に湯船入れるし……あと魔法でアレなとこは隠してみるとか! おおお、我ながら名案じゃねっ!?」
「ソウダナァ」
すでにその状況になってんだけどな? てかこいつ本当は全部見えてんじゃね?
「え……大地のことだし、『んなこっ恥ずかしいことできるかい!』って怒るかと思ったんだけど……」
「ソウダナァ」
事後じゃなければな?
「まぁいいや。そん時は声かけてくれたら、他の客とかから絶対邪魔が入らないように、スタッフの僕が見張っといてやんよ!」
「ソウダナァ」
そのお前が目下一番邪魔なんだけどな?
「…………はぁ、ふぅ……てかさぁ……お湯、熱くねぇ?」
「ソウダナァ」
そりゃ熱心に熱してるからな。
「そっちはもっと熱いのに、まだまだいけるって顔だな……いやぁ、やっぱあつ湯プロは違うなぁ~」
「ソウダナァ」
そのプロはどうやって稼いでるんだ……絶対押すなとか?
「んでも冷ます機能はないし……――っだぁもうムリ限界! 僕先あがるよ!」
「ドウゾドウゾ」
ヨシキタ! 俺も別の意味で限界だったし助かったぜ。
ヤスが手早く身体を拭いて出て行ったところで、背後の夕と共にホッと小さく息を漏らす。無事に夕を隠しきれて何よりである。
「ふわぁ、びっくりしたぁ……靖之さんの直感力、ヤバイわね!? 本当は魔法か何かで見えてたんじゃないのぉ!?」
「それな」
夕と背を向け合ったまま、ヤスの無茶苦茶っぷりに呆れつつも感心する。
「あと、あたしらの事こんなに理解してくれてて……嬉しいし心強いんだけど……うがぁぁ~、すんごくムズムズしちゃうよぉ!」
「ははは……」
最初の頃はアホで鬱陶しいヤツとしか思わなかったものだが、最近は危ないところを助けてくれたり、こうしてヤスなりに色々と心配してくれたりしており、純粋にイイヤツだなと思うのだった。……鬱陶しいヤツには違いないけどな!
【342/342 (+16)】
さすがのヤスも、まさかすでに自分の提案通りに事が進んでいるとは思いもしなかったでしょうね。




