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【豪華挿絵】月と金星とステラマジカ ~ヒミツの愛情魔法~  作者: 餅餅餅
第6章 月と金星と豪快店主
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冒険録47 酒場にイカヅチが降り注いだ!

 俺たちは食べかけのバコス焼き(ピザ)を片手に、(かね)の鳴った入り口へと目を向ける。するとそこには日に焼けた青年が二人立っており、空き席を探しているのか店内をキョロキョロ見回していた。格好からすると農作業を終えてそのまま訪れたようであり、首に()けた手拭(てぬぐ)いやヨレヨレの衣服や(くつ)にはところどころ土が付いている。


「おーいおい、農民が入ってきたぞ。入る店間違えたかぁ?」

「うっわ、きったねぇ格好で来やがって。飯が不味(まず)くなるよなぁー」


 そこで背後から発せられた声に後ろの席へ振り返れば、身なりの良い男達が不快感を(あらわ)にしていた。それを聞いた入り口に立つ青年二人は、(たが)いの服装を見てとても気まずそうにしている。確かに服装マナーはあるかもしれないが……あまりに品の無い言いようで、一体どちらがマナー違反(いはん)やら。まともなのは服装だけだったか。


「……馬鹿なヤツらだ」


 そこでホリンがヤレヤレと首を振って(つぶや)くと、


「夕ちゃん、軽く耳(ふさ)いどいた方がいいよ」


 ヤスがそう続けて自身の耳に手を当てた。一向に(ののし)りを止めない男達を(にら)んでいた夕は、不思議そうな顔に変えつつヤスに習う。


「ハハッ、小汚(こぎたな)い農民はどうせすぐに(つま)み出されるんじゃね?」

「だなっ、区画路の奥へポイっとな? おーい大将さ――」

「だまれぃ小童(こわっぱ)共が!!! 服ぐれぇでガタガタ()かすんじゃねぇ!!!」

「「「っ!?」」」


 そこでバコスの雷鳴の(ごと)一喝(いっかつ)(とどろ)くとともに、その巨腕(きょわん)がカウンターを(したた)かに打つ。


「このバコスの酒場は万人(ばんにん)に開かれた(いこ)いの場っ! 誰が来ようがテメェらごときが文句たれる筋合いはねぇ! そもそもこの店の食材はこいつらが丹精(たんせい)()めて作ったもんだ、テメェらこそ感謝しながら食えってんでぃ! もしチィとでも残してみやがれ、そのロクでもねぇ舌引き千切んぞ!!!」

「「「ヒィッ」」」


 店内と鼓膜(こまく)をビリビリ(ふる)わす小気味良い啖呵(たんか)に、身なりの良い男達が口を(つぐ)んで縮こまった。すると息を()んで見守っていた他の客達が誰からともなく拍手(はくしゅ)し始め、(となり)の夕も耳から手を(もど)しつつ「しゅごぃ……」と感嘆(かんたん)の声を()らす。接客業を営む店主とは思えない豪快(ごうかい)さと迫力(はくりょく)であり、ホリンが絶対に怒らせるなと言って恐れていたのも分かるというものだ。これがバコスさんの「怒る」だとすると、普段のヤスへのバカでかい怒声(どせい)もバコスさん基準では「めっ!」程度のつもりなのかもしれない……俺らからすれば「(メッ)!!!」てなもんだけどな。

 そこでバコスさんは男達を再度睨みつけてフンと鼻を鳴らすと、入り口でぽかんとする青年達に近付いて行き、


「……あー、気ぃ悪くせんでくれナ?」


 豊かな口ひげをさすりながらそう言った。


「とんでもねぇだ! 大将がおでら農民のためにこうまで言ってぐれて、感激だぁ~」

「ハン、たりめぇのこと言ったまでだ。……ま、(うそ)にならんよう、またうめぇ野菜頼むゼ?」

「「わかっただ!」」


 (いか)つい顔から放たれる小粋(こいき)なウインクに、二人が尊敬の眼差(まなざ)しを向けて頷く。その一部始終を見届けたホリンは、ヒュゥと口笛を()くのだった。



   ◇◇◇



 追加のバコス焼きが来る頃には、後ろの身なりの良い男達も居なくなっていた。ヤスが片付けている皿は綺麗(きれい)サッパリ空になっており……バコスサンダーの直撃がよほど効いたと見える。

 それで周りの席も空いたということで、先ほどの件で気になったことを聞いてみることにする。


「なぁホリン、ちょっと聞き辛いんだけどさ……農民の人達ってのは、いつもああいう(あつか)いを受けてるのか?」

「ん……最近は農地改革も進んで余裕(よゆう)ができた農民も多いが、一昔前は王都に住むだけでやっとという貧乏人(びんぼうにん)ばかりでな? あと、利便性(りべんせい)もあってだが、安全性が低い代わりに地価が安い外側の区画に住んでる。それでさっきのヤツらみたいな無駄(むだ)選民(せんみん)意識の強い小金持ち連中からは、こうして(さげす)みの目を向けられることも度々(たびたび)あるな」

「ふむ……」


 現代では農家だからと言って蔑まれることなどないし、むしろ最先端(さいせんたん)技術を用いた大規模経営で莫大(ばくだい)な富を築く農家もあるくらいだ。だが、ここの文化・技術レベルでは、必然的に生活水準が低くなってしまうようだ。


「……共に同じ王都に住む人間だというのにな。実に(おろ)かな連中だ」


 ホリンはジョッキをぐいと(あお)って空にすると、フロアのヤスに追加の合図を送る。


「ホリンさんはその……貴族、なんですよね? 騎士(きし)爵位(しゃくい)の?」


 今は門番ホリンなので、聞かれてはマズイ可能性もあると思ったのか、夕は小声でそう(たず)ねる。


「一代限りだがな? ――んでユウヅは、そんなオレがなぜ農民の(かた)を持つのか気になってる訳だな?」

「っあ、ええと……はい。不躾(ぶしつけ)な質問でごめんなさい」

「ハハハ、謝ることじゃねぇよ。ユウヅはほんと真面目(まじめ)な子だなぁ」


 夕はプライベートに踏み込みすぎたと焦ったようだが、ホリンは全く気にしていない様子。


「んでオレは、貴族にしては(めずら)しく徳の高い人間――てな訳でもなくてな? 生まれが農民で、同じような目に()ってきたから気持ちが分かるってだけだ」

「「……」」


 想定外のヘビーな回答に、なんとコメントして良いか分からず、夕と顔を見合わせる。


「おっとすまん、こんな話されても――」

「えっ、お前農民出身だったん? マジかぁ、大出世じゃん! おいおい、どうやったんだぁ? お・し・え・ろ・よー!」


 そこでお代わりを持ってきたヤスが会話に混ざると、空気が一瞬で軽くなった。これもある種の才能かもしれない。


「ったくお前は……んまぁ、簡単に言うと、槍術(そうじゅつ)大会で優勝したら王様が騎士にしてくれた。それで生意気な農民出身騎士に()っかかってくるヤツも大勢いたんで、全部腕っぷしで(だま)らせてたら……気付けば水槍(すいそう)騎士団の団長になってた。ま、実力主義の組織だからな?」


 コネに(たよ)らず実力のみで一農民からのし上がった(たた)き上げ団長様……なるほど、ホリンがこうして気安く接してくれる理由が分かった気がする。


「ふーん。んじゃ団長らの中では誰が一番強いんだ? つまり国最強のヤツ!」

「それは分からんな。五人とも武器が違って相性があるし、それに戦う環境(かんきょう)次第(しだい)でいくらでも変わるだろ?」

「……どゆこと?」

「考えてもみろ、いかなる状況(じょうきょう)でも最強の武器や戦術があるなら、全員それにしたらいいだけだ。どれも一長一短があるからこそ、戦況に応じて互いに補える」

「おお、そりゃそっか。要はジャンケンみたいな関係な?」

「そうそう、五種類ある石拳(じゃんけん)。武器だけじゃなく、団が属する五行(ごぎょう)――(もく)()()(ごん)(すい)にも相性がある」


 水槍騎士団長のホリンが水の(とう)担当となると、他の社畜(団長)もその五行に対応した塔で()ながら警備しているのだろうな。


「例えばオレの場合、相性の良い火剣(かけん)騎士団長殿(どの)相手なら大体勝てると思う」


 (けん)(やり)に勝つには三倍の実力が必要、福田師範(しはん)は剣術三倍段と言っていたな。ただしそれは広い場所で間合いが取れたらの話であり、(せま)い場所ではそもそも槍で戦えない……ホリンが言うように状況次第か。


「だが……特にあの女――こほん、土魔(どま)騎士団長殿とは死ぬほど相性が悪い。しかも昔から何かにつけてオレに突っかかってくるんだ……不利な相手を嬉々(きき)としていじめるなんて、(ひど)い性格だろ? もしあんなのと結婚(けっこん)できる男がいるもんなら、心から尊敬するぜ」

「うふふ。そうですねぇ~」


 その苦々しい顔をするホリンを見て、何故(なぜ)か夕はその蒼黒(そうこく)(ひとみ)をキラキラ(かがや)かせている。何やら良く分からないが、夕が楽しそうで何よりだな。




【206/206 (+0)】


第6章半ばまでお読みいただきまして、誠にありがとうございます。


バコスの親父さんカッコイイ! 酒乱幼女が見たいぞ! などと思われましたら、ぜひとも【★評価とブックマーク】をお願いいたします。

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