冒険録41 団長様は仕事熱心すぎるぞ!
ただの門番だと思っていたホリンさんは、まさかの騎士団長だった。この国の騎士団という組織がどのようなものか正確には分からないが、他の門番の畏まった態度からしても、騎士団長が物凄く偉い人なのは確実だ。これは気安く話すべきではないだろうな。
「ちょ、ホリン――サマ。本当に騎士団長なのか――でございますデスか?」
ヤスの辞書にも敬意という文字があるようで、突然怪しい敬語を使い始めた。
「プハハハ! ヤッス、無理すんなっての。まったくお前らしくもない」
ヤスの珍妙な言葉遣いがツボだったのか、ホリン様は膝を叩いて笑い始めた。
「いや、そうは言って――おっしゃららられてもでございまして?」
「ククッ……そもそもオレらは友達同士――さっきお前が言った通りで、それは騎士団長だから友達になった訳ではないだろう? だから、今のオレはお前にとってただの門番ホリンだし、これまで通り気遣いなんか一切無用だ」
「ん……そりゃまぁ、ホリンがそう言うなら……別にいいぞ? 僕もその方が楽だし?」
ホリン様は堅苦しいのが嫌いな性分のようで、これまで通りに戻ったヤスへ嬉しそうに頷く。
「で、あんたら名前は? 発行手続きにも要るから教えてくれ」
「だっ、大地と申します」
「夕星と、申します」
二人で緊張しながら名乗り、頭を下げる。
「ん、ダイチにユウヅな。あんたらもヤッスの友人ならオレとも友人みたいなもんだ、ホリンと呼んで気軽に話してくれ」
「えーと……分かった。そうさせてもらう」
「……すみません、あたしはホリンさんでお願いします」
ホリンは二十代前半ほどに見えるので、歳が近い俺はまだ抵抗がないが、夕はヤスですらさん付けにしている程なので厳しそうだ。
「ハハハ、ユウヅは真面目な子だなぁ。そんな歳で――と言ってもヤッスよりよほど賢いくらいだ、精神も相応に成熟してるって訳か」
「あはは……」
夕は視線を泳がせて頬を掻いている。クリウスさんの時も怪しまれたし、もう少し子供のフリをしておいた方が良いのでは。
「――そんでそのお偉い騎士団長様が、何で門番なんかしてるんだ? 趣味か?」
気遣い無用と言われたヤスは、早速と何の遠慮も無しに疑問を投げかける。こういうところは純粋に凄いと思う。
「ああ、この水の塔はオレの家でもあるからな」
「え、そうなん?」
「おう。オレだけじゃなく騎士団長の五人は、結界の起点になる『水・木・火・土・金』の五塔にそれぞれ住んでるんだ。最も危険な夜間に、最も重要な箇所を、最も強いとされる五人が寝ながら護れるって寸法だ。どうよ、凄くお得だろ?」
「たし、かに……?」
実に合理的な防衛手段ではあるのだが……それでは団長達の気が休まる時がない――ってああ、「最近夜に出張る事が多い」と言っていたのは、そういう事だったのか。
「もちろん昼は王宮勤めで団員の訓練や会議に出席したりしてるが、夕方に帰った後はこうして水の大門の門番をやってる。ほら、城門のついでに自分の家も護れるんだ、お得だろ?」
「え……」
つまりこの人……日中は王宮で騎士団長を勤め、帰ってからは自宅警備がてら城門を護り、深夜は寝ながら王都への敵襲に備えている? 正気?
「いやいや働き過ぎだから! おめーは社畜か!」
「そうですよ! せめて門番のお仕事は正規の方にお任せして、団長という重責を担っておられるホリンさんは、少しでも休まれた方がよろしいかと!」
ヤスと夕のツッコミはもっともであり、日本なら労基法一発アウトな勤務体系だ。先ほど本人は好きでやっていると言っていたので、強制労働させられている訳ではないんだが……仕事熱心にもほどがあるだろう。そりゃ目に隈もできるというもので、うっかり過労死しないか心配だ。
「あー、心配してくれるのは嬉しいが、これも訳アリでな? 普通は城門に三人は必要だが、オレなら一人で充分だ。そんでオレが門番やってる間に、日々の面倒な机仕事を代わりに消化してもらってる――ってのも、オレは机に齧りついて書き物ってのがどうにも苦手でなぁ、ハッハッハ! ――ってな訳で、これも適材適所……お得だろ?」
「そういうことでしたら……」
どれもお得ずくめ――合理的な判断ということで、理系女子な夕は納得したようだ。この二人は気が合うかもしれないな。
それでこの無駄の無い差配からすると、とても頭の回る賢い人には見えるが、意外にも内勤は苦手……単純に肉体労働の方が好きな体育会系気質の人なのだろう。そりゃ国内最強の騎士団長様――体育会系のトップだもんな。
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秘書くらい付けてあげて欲しいですねぇ。




