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【豪華挿絵】月と金星とステラマジカ ~ヒミツの愛情魔法~  作者: 餅餅餅
第5章 月と金星と文無一行
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冒険録39 ヒロインはモテモテだぞ!

 魔晶石(ましょうせき)代金の後払(あとばら)いを打診(だしん)してきた商人は、まさかの死の誓約(せいやく)による支払い保証案を提示し、俺達はその死をも辞さない覚悟(かくご)に確かな商人(しょうにん)(だましい)を感じ取った。


「……ほいで、受けてくれまっか?」

「もちろんです。だよな、夕?」

「うん」

「よしきた! ほな誓約やな!」


 商人は満面の笑みで柏手(かしわで)を打つと、背嚢(はいのう)から羽根ペンとインク(びん)を取り出してテーブルへと置く。


「そいで自分らの名前が要るんやけど、まだ聞いてへん――ってこっちもやな、すんまへん。わいは行商人のクリウスや、あんじょうよろしゅう」


 クリウスさんはそう言って右手を出してきたので、(みな)で順に握手(あくしゅ)して名乗る。


「大地です。どうぞよろしく」

夕星(ゆうづ)です。よろしくお願いしますね」

「えーと……ヤッスだ。よろしくっ!」


 ヤスは記憶(きおく)(もど)ってもヤッスで通すらしい。周りが混乱するので、こちらもそう呼んでやるか。


「ほな早速書かせてもらうでぇ」


 クリウスさんが羽ペンを取ってインクを付け、羊皮紙に誓約文を書き込んでいく。


「『(われ)クリウスは本誓約日より三日後日没(にちぼつ)までに魔晶石代金残額ユニバ金貨十五枚をダイチまたはユウヅに支払う』っと……これでええか?」

「「はい」」


 クリウスさんは大きく(うなず)くと、(ふところ)から取り出したナイフの革鞘(かわざや)を外し、緊張(きんちょう)した面持(おもも)ちで指を刃に近付けていく。


「待――」「待ってください!」


 そこで俺が止めようとしたが、夕が代わりに制止すると、


「巻物での誓約は結構です。そんな重いもの要りませんよ」


 そう言いながらブラッディスクロールをサッと取り上げて丸めた。


「え……せやかて、わいが逃げたらどないすんねん?」

「クリウスさんは絶対にそんなことしません。それは先ほどのクリウスさんの真剣な言葉、眼、態度、そして実際にこうして誓約文を書いたことで確信しました。なので、商人としての(ほこ)りを賭けた口約束で充分ですよ。……だよね、お兄ちゃん?」

「んだな」


 さすがは夕だ、俺の言いたいことを全部言ってくれた。


「……ハハハ、なんちゅう甘ちゃん連中や。もうほんっまに大甘やなぁっ! もしこの巻物(まきもん)のくだりも全部ホラやったらとか思わへんの? ユウヅはん程の――」

「あら、(うそ)だったんです?」

「嘘やあらへん! ――いや、そないな事言うてんやのうてな……」

「うふふ。ならいいじゃないですか」

「む……」


 夕の全てを承知の上での微笑(ほほえ)みに、クリウスさんは目を見開いて言葉を詰まらせる。幼女に言いくるめられるいい年した青年……なんだ、いつもの俺か。


「……なんやねん、どえろう(かしこ)いさけぇガッチガチの堅物(かたぶつ)なんやろ(おも)とったら、ほんまはものごっつう人情味(にんじょうみ)あるええ()やんけぇ。こんなん()れてまうわ――っとまぁ五年は早いっちゅう話やがな? せや、予約してええか?」

「おい!」


 記憶が戻る前のヤスと言い、この世界の連中は気になる子がいたら(そく)プロポーズする習わしでもあるのか? ……ま、まぁ、夕が魅力(みりょく)的なのは認めるが?


「ふふっ、クリウスさんってばお上手ですね。でもあたしには心に決めた人が居ますから。それこそ、このホラではない巻物に(ちか)っても良いほどのね?」


 夕は手元の巻物をフリフリしながら、俺をチラチラ見てくる。……夕さん? 絶対使っちゃダメですよ?


「――あーこらあかんわ。まさに眼中無しっちゅうやっちゃな! そら中身だけやのうて将来別嬪(べっぴん)さん確定や、当然先約ぐらい()る――いや、んん?」


 クリウスさんは少し首を(かし)げると、俺の方を一瞬だけ見てきた。――な、なんだよ?


「まっ、なんしか(うらや)ましゅうてかなへんなぁ!」

「うふふ、クリウスさんは気骨のある商人さんですから、いずれ成功を収めてより良い出会いがありますよ。大志を抱く商人さんらしく、先を見据(みす)えてドッシリ構えるのも良いでしょう?」

「……ははは、この男あしらいの手慣れようよなぁ…………ユウヅはん、ほんまは大人で若返りの魔法とか使(つこ)とるんやないの?」

「えっ!? ……あははは、そんな訳ないでしょぉ?」


 科学なので魔法ではないが、効果は同じだ。商人の嗅覚(きゅうかく)とでもいうのか、クリウスさんは(かん)滅茶苦茶(めちゃくちゃ)(するど)い。あと夕は、きっと未来でモテモテだったに(ちが)いなく、それを全部切り捨て続けていたとなれば……そりゃフリ慣れてもいるよな。何だか複雑な気持ちだ。


「んー? なんやあっやしい反応やのぉ?」

「ええと、妹はちょっとおマセなんですよ。俺もいつもからかわれて、ほんと困ったもんで……ははは」


 これは割と本音も(ふく)んでいて、もう少し俺に手心を加えて欲しいものだ。


「――ハッ、そういうことにしといたるわ。ほいで…………ひぃふぅみぃの……ほい、手付金の金貨十枚! 路銀(ろぎん)(のぞ)いた有り金ほぼ全部や、こんで堪忍(かんにん)してな!」


 クリウスさんが小箱から出した金貨六枚をテーブル(わき)の四枚と重ねると、直接手渡してきた。(あわ)てて受け取れば、たった十枚の硬貨なのに(てのひら)へずっしりと重みがかかる。――ああ、純金ってこんなにも重いのか……それに百万円相当もの大金なのもあって少し緊張してしまうな。これを普段持ち歩くのは不安なもので、この世界に銀行は……多分ないんだろうなぁ。


「ほな、わいは行くでぇ。善は急げ、時は金なりちゅうてなっ!」


 クリウスさんはそう話しながらも、テキパキと道具類を仕舞(しま)い、あっという間に旅支度(たびじたく)を整える。こういうところも商人らしいと言えるかもしれない。


「はい。お気をつけて! 取引頑張ってくださいね!」

「まっかせときぃ! 目ん玉飛び出るぐらいごっつぅ大儲(おおもう)けして、利子付けて(はろ)たるさかい、期待して待っとりぃなぁ!」

「「「ちょ――」」」


 盛大なフラグを立てやがった!


「……なんや?」

「いや、別に」


 どうやら異世界にはそういう文化はないらしい。


「お兄――いや、ダイチはん」

「ん?」


 手招(てまね)きされたので近寄ると……


「(()()()()をあんま待たしたらバチあたるでぇ? ま、わいがあてたるんやけどな!)」

「!」


 そう耳打ちしてきた。どうやら兄妹でないことなど色々とバレていそうだ……なんて厄介(やっかい)な生き物なんだ、商人ってヤツは!

 そしてクリウスさんは近くの(くい)(つな)がれた馬へ(またが)ると、


「ほなな~」


 (しず)みゆく夕日に向かって颯爽(さっそう)と走り去って行った。

 そうして皆で軽く手を振って見送ったところで、


「……最初は(だま)されたけど、不思議と好感の持てる人だったな」


 俺から()れた(つぶや)きに、ヤスと夕もウンウンと頷く。

 

「まぁ、やたら()れ馴れしいのが少し面倒だけどな?」

「あはは。関西弁のせいもあるかもね?」

「それよ、あのコッテコテの関西弁……今どきあそこまでのは漫才(まんざい)でも聞かんぞ?」

「せやねぇ」

「ぷぷっ、夕ちゃんまで関西弁になってるじゃん?」

「おととぉ……こらクリウスはんのがうつってもぉたなぁ~? なんてね、えへへ」


 おおお、関西弁の夕もなかなか新鮮で……イイ。


「ルナちゃんまでうつってたりして――っあ!」

「おっと忘れてた」


 ホリンさんから隠したルナのことを思い出し、慌てて胸ポケットに手を入れて取り出すと……


「むにゃむにゃ……ままぁぱぱぁだいしゅき……」


 スヤスヤと眠り姫になっておられた。最初に懐中(かいちゅう)時計の中で寝ていたことも考えると、(せま)い所が落ち着くタイプの子なのかもしれない。


「あらら。パパのポケットの中、寝袋(ねぶくろ)みたいに暖かくて気持ち良かったのかしらね? ちょっと羨ましいわぁ」

「苦しそうにはしてないし、街に入って落ち着くまでここに居てもらうか」


 俺はそっとルナをポケットに戻す。不死身なのでうっかり(つぶ)してしまう心配はないが、起こしてはしまうだろうから気を付けておこう。


「――さ、これで大手を振って街に入れるわね!」

「異世界で初めての街かぁ、楽しみだな」

「あっそうだ、今日はとりあえず僕んち来たら? んでその大金でパーッと飲み食いしようぜ! な、なっ!?」


 良い案ではあるが、このグイグイ来るヤスは……ああそういうこと。


「……そしたらマスターからのお前の株もあがるってか?」

「たはは、バレたか。……でも信用できる店のがいいだろ? その点うちはお墨付きの店さ!」

「……誰の?」

「僕のっ!」

「だよな!」

「あはは。もぉ~ほんと調子いいんですからぁ、ふふっ」


 そうして俺たち(もと)文無(もんな)しファミリーは、まだ見ぬ異世界の街に思いを()せて、城門へと足取り軽く歩いて行くのであった。



~ 第五章 月と金星と文無一行 完 ~   



【185/185 (本章での増加量+30)】


第5章までお読みいただきまして、誠にありがとうございます。


この幼女お姉さん無敵かっ!? クリウスみたいなヤツ結構好きだぜ! などと思われましたら、ぜひとも【★評価とブックマーク】をお願いいたします。


第6章は、酒場での宴会や刺客との決死のバトルが見どころでございます。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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