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【豪華挿絵】月と金星とステラマジカ ~ヒミツの愛情魔法~  作者: 餅餅餅
第5章 月と金星と文無一行
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冒険録38 ヒロインが商人の道に勧誘された!

「はぁ~降参やでぇ……」


 夕が見事に適正価格を言い当てたことで、商人は素直に負けを認めることとなった。


「そいで(じょう)ちゃんは、これの相場をほんまに知らへんかったんやな?」

「ええ、あくまで推測ですよ」

「いやぁ、ほんま大したもんでんなぁ…………せや、ええこと思いついたわ! わいと組んで商いしまへんか? 絶対損させまへんでぇ!?」


 商人は机に身を乗り出して、キラキラした目で夕に詰め寄る。二コマ漫画かというほどの、華麗(かれい)なる手の平返しだ。


「あはは……(もう)け話を台無しにしたあたしを勧誘(かんゆう)するなんて、本当に商魂(しょうこん)(たくま)しい方ですね? でもお兄ちゃん達と冒険(ぼうけん)したいので、遠慮(えんりょ)しときますわ」

「さよかぁ……ほんまもったいないのぉ……才能を活かさへんのはバチあたるでぇ……」


 商人は本気も本気で勧誘していたようで、実に残念そうな顔をしている。実利を追い求める商人らしく、幼い見た目など気にせずに実力を買うのだろう。確かに夕の頭脳をフルに活かして商売をすれば、大繁盛(だいはんじょう)間違いなしだな。


「……それで、本当の階級は?」

「文句無しのA級でんな」

「でしょうね。おいくらです?」

「……金貨二十枚でどうでっしゃろ?」


 換算(かんざん)すると二百万円……希少価値分とやらも上乗せされて、とんでもない額になってきた。


「また足元見てたら承知しませんよ?」

「ハハハ、冗談(じょうだん)キッツイわぁ。こない目が利く嬢ちゃんに、もうそないな冒険ようしまへんてぇ。これでも商人、取引の落とし所ぐらい(わきま)えてまんがな」

「はぁ、よく言いますわねぇ……。んま、それでいいかしらね、お兄ちゃん?」

「お、おう。もちろん」


 夕が居なければ金貨四枚で買い(たた)かれていた品だ、文句などあろうはずもない。


「じゃ、これで取引成立――」

「あーいや、それがのぉ?」

「……まだ何かあるんです?」


 そこで商人が申し訳なさそうな顔をすると、


「しょうもない話でえろうすんまへんやけど…………そないな大金わいにはあらしまへん!」


 非常に残念なお知らせを告げた。


「ちょっとぉ! それじゃ買い取れないってことですか!?」

「おいおい、これは困ったことになったなぁ……こうなったら一晩(ひとばん)野宿して、明日ヤスに売ってきてもらうしかないな……」


 まさか高すぎて買い取ってもらえない事態になるとは……買い叩かれるよりはマシだが、これはこれで大問題だ。


「いやいや、待ってぇな! お嬢ちゃんの言うた通り、ほんっっまに逃すには()し過ぎる取引なんやて! お兄はんらも、すぐ売れなごっつぅ困るんやろ!? ……ほんでな、ひとつ相談やねん」

「……と言いますと?」


 お互いにメリットがある話なら、是非(ぜひ)乗りたいところだ。相当の曲者(くせもの)なので、また(だま)されないように注意はしないとだが。……あと、()れ馴れしくなるの早くね? 向こうが年上だから別にいいんだけどさ?


「今わいがポンと支払えるんは金貨十枚が関の山……せやけど、これをごっつ(たこ)()うてくれる国へ売りに行った後なら、もちろん残りを支払(しはら)えるっちゅうことや。明後日(あさって)(おそ)くとも三日後には(わた)せるが……どや?」

「……持ち逃げしない保証は?」

「そらごもっともやな。そいで、わいの保証人になったる言う奇特(きとく)(もん)()らへんが……物ならあるで」


 そこで商人は(となり)にカバンを置くと、中から十㎝ほどの巻物を取り出してテーブルへ広げた。厚みのある(やわ)らかそうな紙であり、これが羊皮紙(ようひし)という物だろうか。それと、紙全体が赤いのが気になる。


「『ブラッディスクロール』ちゅうてな? 誓約(せいやく)文を直筆(じきひつ)して血ぃ垂らすと、守らな死んでまうゴッツおっとろしい巻物(まきもん)や。その誓約が()ったがしまいで、燃やそうが魔法かけようが、それこそ死ぬまで取り消せへん」

「こんわっ!」「ひぇ」「ヤッバ……」


 流石(さすが)は異世界、とんでもないブツが存在してやがる。


「えっと、まさか……これに期日までにお金を返すって書くってことです?」

「せや」

「待て待て、そこまでして取り立てようなんて思いませんから!」

「そうですよ! どうか考え直してください!」


 不測の事態で返しに来られなくなった場合、商人は死んでしまうわけで……万が一そんな事にでもなったら、(のこ)された家族に何て言ったらいいんだ。


「……ええんや。商人ちゅうんはな、信用が全てやねん。交わした契約(けいやく)を守られへんようなボンクラは、どのみち死んだ方がましや」

「「「……」」」


 商人の目付きは真剣そのものであり、その気迫(きはく)に一同息を()む。先ほどのように商談中の騙し合いはする――取引という戦場で相場に無知な者が悪いとするが、一度(ひとたび)契約が成立したならば絶対に守るということだろう。そこからは商人であることへの(ほこ)りが感じられ……その生き様は純粋(じゅんすい)に格好良いと思ってしまう。


「それとや、この無茶を受けてくれるっちゅうなら、金貨五枚上乗せしたるわ。わいが返せへん場合の補償(ほしょう)分も合わしてな?」

「え、それでは儲け分がなくなりません?」

「まぁ、取引相手次第なとこもあるが……路銀(ろぎん)ちょい浮きってとこやな?」

「いやいやいや、そんなのそちらに取引する意味ないでしょうに……」


 死ぬリスクまで背負って()()たる儲けとなれば、割に合わないにもほどがある。


「ははは、もちろん意味はあるで? これでも商人の(はし)くれやさけぇ、儲けも無しに取引するわけあらへんがな。……(かしこ)い嬢ちゃんなら分かるやろ?」


 どうやら商人は、目論見(もくろみ)を見事見破った夕をとても高く評価しているようだ。ウム、ヨロシイ。


「賢くなんてないですけど……そうですねぇ、例えば売名(ばいめい)目的とか?」

「さすがやな! で、まだわいもしがない一行商人でなぁ、なんしか取引先に名を売りたいねんな? せやから例え利鞘(りざや)なんぞロクにのうなっても、こない上物(じょうもの)(おろ)せたっちゅう実績だけで(あたい)千金になるんやて」

「なるほどなぁ……」


 誓約の話と同じで、信用を積み重ねることが将来的な成功につながるという訳か。商売というのは実に奥が深いな。




【145/177 (+1)】


この商人、意外と根は真っ直ぐなのかもしれませんねぇ。

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