冒険録33 この門番……凄く強そうだぞ!
「ふいぃ~、エリート魔法のせいでヒドイ目にあったぜぇ……」
ヤスが地面から起き上がると、服の土を払いつつ文句を呟く。魔法がというよりもヤスの使い方に問題があった訳で、完全に自業自得なんだがな。
「まぁ無事のようだし、さっさと行こうか。ほい、【縮歩!】」
「あざっす!」
エリート魔法(笑)はすでに効果が切れていたので、ヤスの足に魔法をかけてやる。
「それと……【防護!】」
まだ力が少し余っていたはずなので、もし転んでも怪我をしないよう、夕の身体全体に防御魔法をかけてあげた。
「え……ありがと。――ふぁ~、こういう優しいとこ、ほんとカッコよくてキュンってきちゃうよぉ……うふふ、パパ大好き♪」
「っ!」
嬉しそうに微笑む夕を見て気恥ずかしくなり、俺は照れ隠しとばかりにグリンと前を向いて歩きだした。
するとすぐに夕とルナも続いたのだが、ヤスは先ほどの大転倒が割と堪えたのか、少し後ろで恐る恐る足を出している。少々大げさに見えるが、すぐ調子に乗ってやらかすヤスには、このくらいが丁度良いかもしれない。どうせすぐ忘れるだろうし?
「うわわ~、すっごぉい! 勝手にスイスイ進んじゃうよぉ~!」
「不思議な感覚だよなぁ」
歩く程度の力しか込めていないのだが、身体が全力疾走ほどの速度で滑ように前へ進んでいく。例えるなら、電動自転車を漕いだ時や、動く歩道を歩いた時の感覚に近い。
次第に慣れて徐々に速度を上げていけば、応じて周囲の景色が高速で流れ、見る見るうちに正面の塔が近付いてくる。その身ひとつで自動車並の速度を生み出し、押し返す風を切って疾走するのは実に爽快というものだ。……ただ、絶対に転ばないようにしなくては。
また、街に近付くにつれて周りの草原は畑へと変わってきている。近郊の農村部などから食料を輸送してもいるとは思うが、王都でも壁の外で農耕を行っているようだ。そこでちょうど農作業を終えた様子で畑から道へ出てくる人が居たので、会釈しつつ前を走り抜ければ、とんでもないモノを見たとばかりに驚かれてしまった。
「うふふっ。いまの人、目が真ん丸になってたね?」
「びっくりしてたのー!」
「ああ。流石の異世界でも、この速度で走る人間はいないんだろうな」
「……いやぁ、大地らの格好のせいもあるんじゃね?」
「「たしかに!」」
俺はTシャツにジャケットにチノパン、夕はブラウスに制服のスカートにタイツという装いであり、ヤスの中世風の服装が標準だとすれば異様も異様だ。そんなヤツらが爆走してくれば、ドン引きもするだろう。
「――よぉし、到着だよっ!」
そうして軽く雑談しているうちに、塔の目の前までたどり着いていた。体感二、三分ほどで走破しており、お陰でまだ太陽は地平線の少し上に残っている。
「どうだい王都ギャラックは? 日本みたいに高層ビルはないけど、これはこれで立派なもんだろ?」
「んむ……大したもんだなぁ」
目の前にそびえ立つ二十m高さはあろうかという石塔に加え、遥か彼方まで伸びる五mを超える石壁、これは圧巻の一言に尽きる。その壁の前には五m幅ほどの堀が掘られているが、城門からは道幅サイズの木製の跳ね橋が架けられており、橋の先端両端から太い綱が城門上部へと伸びている。敵が攻めて来た際には、これで橋を引き上げて籠城するのだろう。
「ほえぇ~、ほあぁ~! 想像してたより何倍も凄いわ。まさにお城ねっ! ――あっ、ねぇねぇパパ! 橋の下見てよ! すっごい綺麗!」
「ほお~」
その橋の二mほど下にはゆったりと水が流れているが、ちょうど沈む夕日が揺らめく水面に映り込んでおり、まさに風流の極みだ。その異国情緒満載の光景を目にすれば、思わず感嘆のため息も漏れるというもの。
それで二人でぽかんと口を開けて眺めていたところ……通りかかった女性からクスクスと笑われてしまった。……ぐぅっ、これは完全にオノボリさんだと思われたな! くっそ恥ずかしい!
「――さ、行こうぜ」
ヤスがそう言って橋を渡り始めたので、俺達も後ろに続くと……橋の先に繋がる城門の内部に、門番が一人立っているのが見えてきた。その精悍な顔つきの門番は鉄の兜と鎧を身に着け、右手には長い槍を持っており、いかにも強そうな雰囲気を醸し出している。
そこで夕が立ち止まってクイクイと袖を引いてきたので、少し屈んであげると顔を寄せて耳打ちしてきた。
「(ねぇパパ、ルナちゃん隠しといた方がいいんじゃ?)」
「(あ、だよな。ルナ、悪いけどポケットに入っててくれるか?)」
「(えー!)」
「(ルナちゃん、こわーい門番さんに捕まったら、ママやパパと離れ離れになっちゃうんだよ?)」
「(そんなのやだー! るなかくれるのー!)」
夕の説得が成功し、ルナは俺の胸ポケットに飛び込んで大人しくなった。
そうしている間にもヤスは先へ歩いており、
「うぃっす、ホリン。お疲れさん」
「ん、ヤッスか。お疲れお疲れ。仕事終わりに呑むから、いつもの席空けといてくれ」
「りょ~」
その門番をホリンと呼んで親しげに話すと、ひとり門を抜けて行く。この様子からすると、ヤスが働く酒場の常連客なのだろう。あと、不思議なことにも日本語が通じるようで、それは凄く安心した。
続いて俺が軽く会釈しながら前を通ろうとしたところで、
「札を」
門番ホリンが俺の前に槍を倒して引き止めてきた。
「……ええと、札?」
「ん? 住民札以外に何がある。前のヤッスはともかく、生憎とあんたの顔は知らんのでな」
「住民、札?」
「……まさか住民札を知らんのか? 一体どこの田舎者だ? ――ってよく見ればお前、随分と怪しい格好だな!?」
門番は険しい顔つきで素早く数歩引き、槍を構えて鋭い穂先をこちらへ向ける。その深く腰を落とした構えには一分の隙も無く、こちらが下手に動けば即座に突き殺されかねない。
「あ、えっと、俺は決して怪しい者では……」
「どこから来たか言えっ!!!」
ちょちょ、非常にマズイ流れでは? 適当に言って誤魔化すにしても、この世界の地名なんて一つも知らんぞ! どうする!?
【80/170 (+8)】
ヤスに理屈など通じません!




