冒険録12 主人公が円周率を唱えた!
俺達は冒険開始早々に骸骨妖怪と遭遇してしまったが、各々が全力を尽くした結果、こうして誰も怪我をすることもなく合流を果たすことができた。遭遇時にしても俺の帰還時にしても、この聡明で勇気ある幼女お姉さんの天野夕星が相方でなかったなら、これほど上手く事は運ばなかっただろうと思う。
それで今は、小休止とばかりに三人で切り株へと腰掛けて、この森を出る方法について話し合っているところだ。
「あの骸骨に加えて他の魔物なんかも徘徊してるだろうし、どう安全に抜けたもんか」
「ほんとそれよねぇ……」
「ただ、こんな魔物が居る森の中でグースカ寝てた俺達が襲われなかったことからすると、予想通りここは特別な場所なんだとは思うし、それだけは救いだ。……かと言ってここで野宿する訳にもいかんけどさ?」
「うん。キャンプは好きだけど、着の身着のままはイヤだよぉ。それに確実に安全地帯とは限らないし、やっぱり襲われる前に脱出――あ、そだった」
夕は何かを思い出したのか、立ち上がって切り株の対面へと回ると、俺から回収した帽子を上に置く。ちなみにその帽子の中には、例の禁断の衣が封印されているぞ。
「緊急事態になる前に着ときたいから、パパはちょっとだけ向こう向いててね?」
「おう」
背後へ回していた上半身を戻したところで、目の前の空中に陣取ったルナが「みはってるのー!」と言って蒼玉と金の目を光らせる。……あのー、ルナさん? 覗いたりなんてしないから、そんな不名誉な心配しないで欲しいかな? まさか、さっきの「えっち」発言を鵜呑みにしてないよね?
そうして誠に遺憾に思っていたところで、後ろの夕が着替え始めたのだが……
「!?」
こっ、これはマズイぞぉ……! タイツが素足と擦れる音、一旦脱いだブラウスを切り株に落とす音、キャミソールとブラウスに身体を通す音……どれもこれも妙に艶めかしく聞こえてしまう。というのも、普段の小さな夕が視界に無いせいで、本来の大人の女性としての夕を想像してしまって……いやいや、いかんいかん! と、とりあえず円周率でも数えて落ち着こう! 三点、一、四、一、五、九……ああ、一瞬で覚えてるとこまで数え終わっちまった! ――ってか耳塞いだら良いだけじゃね……?
「お待たせっ!」
「うおぅ!」
脳内でヴァーチャル大人夕と格闘していたところで、着替え終わったリアル子供夕からポンと背中を叩かれ、驚きながら向き直る。
「……どしたの?」
「いや、数学の美しさを再確認するのに熱中していたところだ」
「ぷふっ、なにそれぇ~。変なパパ♪」
夕は俺が動揺している理由に気付いていないようで、クスクスと笑っているだけだ。もし考えていた内容がバレたら、大喜びでからかわれる未来しかないので助かったというもの。
「さてそれじゃ――」
――プルルルル
「「え?」」
話を戻そうとしたところで、夕のポケットから電話の音が鳴り響いた。
この異世界に来た時に、どちらも携帯電話を持っていないことは確認しているので……これは一体どういうことだろうか?
夕も不思議に思ったようで、怪訝な顔を見合わせて首を傾げると、恐る恐るポケットへと手を差し入れてその発信源を取り出す。
すると……なんとそれは懐中時計だった。
【?の力:38/38 (+3)】
想い人のお着替えシーン、音だけでもドキドキしますよね。




