冒険録09 この骸骨……タフ過ぎるぞ!
振り降ろされた骨が、眼前まで迫る。即座に左へ半回転した瞬間、振り降ろされた骨が元居た地面を抉った。
背筋が凍る思いでさらに半回転しつつ上体を起こし、左足を踏ん張りにすると、
「セイッ!」
右半身に重心が移動した骸骨の右膝関節を、思い切り棒で打ち払う。転倒、あわよくば骨を外せればと思ったが……まるで極太の丸太を叩いたかのように微動だにせず、逆にこちらの手がしびれる始末。――くっそぉ、ただの骨に見えて、どんだけ重くて硬いんだコイツ!? もしや、全身を覆う正体不明の黒い靄が衝撃を弾いている? それと、打ち付けた時に棒が微妙に青く光ったような……気のせいか?
やはり戦って勝てるような相手ではないと判断し、即座に跳ね起きて再び駆け出した。
「……ぜぇ……はぁ……くっ…………――ん?」
転倒や焦りでペースが乱れていることもあり、次第に息が上がって足の動きも鈍くなってきたのだが……一向に追いつかれないところをみると、向こうの動きも同様に遅くなっているようだ。もしかすると、先ほどの足への打撃が少しは効いていたのかもしれない。ただ、生物の範疇から外れた骸骨には疲れるという概念がなさそうなので、このままではいずれ追いつかれてしまうだろう。
何か打開策がないものかと考えつつ走り続けていると、前方に光の壁――つまり森の切れ目が見えてきた。その先がどのような場所かは分からないが……このままではジリ貧なので、賭けてみるしかない。
意を決して飛び込んだ瞬間、押し寄せる光の奔流に目が眩む。目を細めて必死に見回せば……そこは川辺だと分かった。転ばないよう小走りに進みつつ、徐々に目を慣らしていくと……幅四mほどの小川に沿って砂利の地面が続き、大小様々な岩が転がっているのが見えた。
そこで背後からカシャカシャと音がし、走りながら振り向くと……森から出た骸骨は一瞬よろめいた上に、先ほどよりもさらに動きが鈍っている気がする。……もしかすると、コイツは光に弱いのか? 滲み出てきた黒い靄は、いかにも闇の者ですと言った雰囲気だったし。
理由は分からないものの、骸骨が弱っているなら今が攻撃を加えるチャンスかもしれない。ただ、闇雲に攻撃しても、硬すぎて木の棒程度では到底歯が立たない……どうするか。こんな川辺に都合よく金属の武器なんて落ちている訳……――ん? あるじゃないか、硬いものが! そして俺には、それを最大限に利用する術がある!
走りながら辺りを見渡し、適した場所を探すと……運良くすぐに見つかった。
後ろから迫る骸骨に焦りつつも、その場所――恐らく水流で出来た百五十㎝ほどの段差の上に駆け寄った。すぐさま段差に背を向けて立つと、木の棒を左腕に沿わせて逆手で持ち、右足を半歩引いて正面の骸骨を待ち受ける。
――ここが勝負どころ、ミスって殴打を喰らえばお終いだ。それにすでに曲がりかけている棒で受けられるか……どうか一発は耐えてくれ! ……あれ? また棒が青く光って――いやいや、今は骸骨に集中しろ大地!
目の前に迫った骸骨は、血色の眼光をこちらに向け、走る勢いを乗せて無慈悲に骨を打ち下ろす。俺がその白い凶器を上段に構えた棒で受けた瞬間、木材の軋む音と共に前腕へ激しい衝撃が伝わる――がそこで左足を引きながら腕を回し下げ、衝撃を受け流しつつ折れかけの棒を手放し、その空いた手で突き出された骸骨の右腕を掴んで引く。さらに流れるように右手を骸骨の右脇に差し入れ、身体を前に倒して背負い上げ、肩を軸に縦回転させると、
「うおりやぁぁぁ!!!」
咆哮と共に渾身の力で段差下へと投げ下ろした。俺の膂力に骸骨の推進力を乗せた一本背負いが決まり、骸骨が硬い岩に激しく叩きつけられる音が川辺に響く。
上体を起こして段差の下を確認すると……骸骨は大小四つほどに分かれて散らばっていた。
「……は、ははは……やったぞぉぉぉ!!!」
生まれて初めての命を賭けた闘いに勝利し、両手を振り上げて喜びを噛みしめる。
「よーし、これなら流石の骸骨妖怪も…………――っておいおいおい、ウソだろぉ!?」
なんと……骸骨の内部から染み出した靄が、バラバラになった骨のパーツをウネウネ引き寄せ始めたのだ。
「きんっっもっ!」
こいつは不死身かよ――ってそりゃ一回は死んでるもんな! ほんとエコなヤツだなチキショウメ!
「ウン、逃げよう!」
どうやら再生には少し時間がかかるようなので、この隙にさっさと逃げさせてもらうことにする。先に戻った夕達が凄く心配だし、きっと向こうにも心配をかけていることだろうからな。
【21/21 (+5)】
命からがらと言ったところですが、無事に撃退できましたね。




