ギルド
ゴミ箱から、下着と靴下を除く衣類を取り出して、机に広げた。綺麗なものと、本当に捨てるべきもの、綺麗なところのみを切り取れそうなものに仕分けていく。
いずれも、においがするので洗濯してから繕っていく。
まだ、僕は生活スキルが使えないので、手作業による洗濯をするしかない。
職員さんに洗濯場所に案内してもらい、洗濯をすることにした。
僕がアイテムボックスから取り出したのは、あわあわの実と清潔草。すり鉢ですることで泡になるあわあわの実と、清潔にする清潔草を組み合わせることで綺麗になるのではないかと思いついたのだ。
一緒に取り出したすり鉢と擦り棒で、泡を作り出し、タライにいれて洗っていく。何回か洗っては流してを繰り返した後、清潔草を入れておいた水につけておくと……。
においがきつかった衣服が、清潔感のある感じに仕上がったのだ! 嬉しい!
「次は、穴が空いているところを繕っていこうかな!」
僕はそう呟いて、綺麗なところだけを残した布を当てて、空いた穴を素早く塞ぐ。前世で、子どもたちが着ていた服に穴が空いた時、僕が手直ししてたから、得意なんだぁ。
「「「早い……!」」」
ふふん、数をこなしてますからね! 丁寧に、早くがモットーです!
褒められたことに気分が上がりながら、沢山の衣服を綺麗に繕っていったのであった。
それから、1時間半後。
僕は全ての衣類を繕い終わった。てんこ盛りに衣服が捨てられていたし、結構な時間がかかってしまった。
「……その衣服どうされるのですか?」
そう、案内してくれた職員さんは聞いてきた。……どうするか。衣服がまだ使えるのに捨てられていたのが我慢できなくて、繕ってただけだから、どうするか考えてなかったな……。
「いつもどうしてるの?」
「いつもは、孤児院に無償で渡しているのです。繕うのも、綺麗にするのも自分で行うのが条件でです」
あー、なるほど。ある意味それを知っている冒険者たちは、あえて綺麗な状態で捨ててた人もいたのかもしれないな。
……それにしてもだ、衣服は資源だ。寄付する理由でも、使えるものを捨てるのは良くないと思う。
「じゃあ、有栖家からの寄付で綺麗な状態に直したってことで渡しといて」
行き先は決まってたのに、手を加えてしまったのは僕だ。孤児院の子達に、いつもならくるものが来ないってことは避けたい。
「……ありがとうございます」
元々、僕のじゃないしね。もったいない精神がうずうずして、繕っていたわけだし、その先どうしようかなんて考えてやっていたわけではないしさ。
「……ここにもスラムとかあるの?」
僕が政治的なことについて興味を持って、先生に聞いたら、季水くんの立場的に、兄弟仲良くてもその座を狙っているように見えるからなかなか聞けなかった。……それに、お父様に聞くのも失礼なような気がして。
「この街にはスラムはありません。
有栖家は代々倹約家の方が多く、代々に渡る貯蓄がございます。そのため、生活が苦しくなった時、職業の斡旋とそれまでの生活資金の無利子の貸し出しを行なっており、スラムを形成するくらいの貧困層はございません。
孤児院があるのは他の領土で、子どもたちの生活環境が悪い時保護するためや不慮の事故により両親を失った子のために存在しております」
ふーん。
「僕の回復ポーションとか薬草、孤児院の子達には安く売ってあげてよ。安くした分、僕の次の料金から天引きしていいからさ」
衣服代も安く済ませたいってことはなんらかの理由で、回復ポーション代とか薬草代も安く済ませたいはずだ。
別に、僕は練習した回復ポーションの在庫や増えすぎた薬草を減らしたいだけで、お小遣い稼ぎをしたいわけじゃないから、少しでも環境を良くするお手伝いがしたい。
「……ありがとうございます、ありがとうございます!」
職員さんは涙ながらに、頭を下げてお礼を言っていた。
鍛錬の時間まで、差し迫っているため、さっさと回復ポーションと薬草を売って、さっき職員さんと交わした会話を契約書におこしてもらい、次からはそのような対応してもらえるようにしてもらった。
「朝食、れいちゃんが作ってくれたサンドウィッチとやらを頂いたよ。とても上手にできておった、美味しかったぞ。……れいちゃんは料理下手な緑水の血筋を継がなくてよかったのぅ」
ランニングをした後、休憩していたところに朱基さんにそう言われた。
……ああ、あのダークマター制作は有栖家ほとんどに当てはまる特徴なんだ……。
まあ、僕は前世のテイマーの力と従魔を引き継いでいるし、多分料理や裁縫もそうなんだろうなとは思ってた。
「僕、なんか調理器具の方が扱いやすくて、調合も調理器具で作ってるからですかね?」
「調理器具で調合しておるのか?! 100年以上生きておるが、そんな人間初めて見たぞ?!」
まあ、普通調合の道具で作るよね。
と言うか、朱基さんって100年以上生きてるんだ……。見た目、40代のダンディーなおじさまにしか見えないから、なんで儂って言っているのか不思議だったけど、納得。
「まあ、有栖家がすることだからのぅ。深くまで突っ込んでも沼にはまるだからの、やめておくかのぅ」
そう自己完結をしたところを見守った後、鍛錬を再開するとの一言があり、休憩が終わった。
「心臓」
「肩」
「右腹」
間髪いれずに、指示してくるのでなかなか対応するのが難しい。……スパルタだぁ。
特に、投げナイフ。力がないのか、的まで飛ばないことが多い。初日よりは的に当たるようにはなったけど。
筋トレをした方がいいのかも知れないが、朱基さんにまだ幼い身体に負荷をかけるのは良くないと言われ、していない。
「ふむ、銃の方が向いてそうじゃのぅ。投げナイフの鍛錬の時間を明日から30分にし、刃物を避ける鍛錬を30分にする」
……やっぱり、向いてなかったかぁ。
投げナイフの鍛錬から、怪我をしないための鍛錬にシフトチェンジしたようだった。
「今日はここまでにしよう。幼い身体に無茶な鍛錬はできないからのぅ」
その声を合図に、僕は芝生の上に寝転んだ。
……動けない。やっぱり僕には戦うのは向かないや。
前世にも、人外たちが作ったダンジョンがあったし、冒険者という職もあったけど、僕にはお世話係が自分には合っていた。
でも、今回ばかりは向いてないからと言って、諦めるわけにはいかない。スイの回復がかかっているんだから!
……ステータス。
名前ーー有栖零
年齢ーー4歳
スキルーテイム(先天性) 従魔(1/8)
ーーーー探索(先天性)
ーーーー育ての手(血縁)
ーーーー成長(血縁)
ーーーー速読(後天性)
ーーーー鑑定《魔物》(後天性)
ーーーー鑑定《植物》(後天性)
ーーーー調合(後天性)
ーーーー裁縫(後天性)
ーーーー魔法銃(後天性)
ーーーー投擲(後天性)
加護ーー『緑に愛されし者』
ーーーー『水に愛されし者』
ーーーー『天に導かれし者』
ーーーー『生物の声を聴く者』
ーーーー『恵みの天使に愛された者』
おぉ、結構スキルが身につい……あっ!
新しい加護が増えてる。
「スイ……!」
明らかにスイからの加護で。
眠っている状態でも、加護をかけてくれた愛情深さに、少し泣いた。