スキルの先生との出会い
あれから3日間、午前中は季水と共に授業。午後は調合、読書またはギルドに買取をしてもらう日々を過ごした。
8日目。僕はいつも通り、朝食を摂るために食堂へ向かうと、年配の男性が座っていた。……お父様のお客様だろうか?
「零のスキルの先生だよ、季水に頼んで相性良さそうな人を呼んでもらったんだ」
「騎士族が納める土地で、ギルドマスターの補佐をやっておる朱基と言う。あまりギルドマスターの側から離れることはしたくないんだが、事情が事情だからのぅ。休日を2日もらう条件で引き受けたんじゃ、……その様子だと聞いてなかったようじゃの」
季水くん……、君も過保護なのか……! こんな偉い立場にいる人を、僕のためにここにとどまらせるなんて!
「猪突猛進の兄が申し訳ありません、お急がしたい立場にあるにも関わらず来ていただいてありがとうございます。よろしくお願いいたします」
引き受けてもらったのに関わらず、申し訳ないからとお断りする方が失礼だ。季水くんが猪突猛進に決めたことで、巻き込んだことに対して謝った方が今回は良いと思った。
……僕としても、生産やテイマー能力に偏ったステータスをどうにかしないと、この地の外へ出た時に生きていけないことは分かりきっているからね。
「ほぉ? なるほど、これはあの季水がなぜか太刀打ちできない弟と評価するだけあるのぅ。やりすぎたことに対して叱られてタジタジな季水の姿が容易に浮かぶわ。これまで唯一敵わないって言ってたのが月夜だと言っていたが、顔が月夜に似ていて雰囲気が玲亜様に似てるとなると月夜より敵わないって思ってそうじゃのぅ。これは面白いことになったわい」
なぜか、一言発しただけで喜ばれてしまって、僕は不思議でたまらず首をひねる。
「私自身、あんなにタジタジしている季水を見たのは初めてですね。猪突猛進でありながらも、我が息子ながら賢さもあり、言い返せるだけの度胸もありますから、この先ここまで敵わないのも零くらいでしょう。
まあ、立ち話もなんですから、朝食をとりながらこの先の話をしましょう」
「ああ、そうじゃな。この子も朝食を摂りにここに来たのじゃろうからこれ以上待たせるのも可哀想じゃ。……有り難く、ご相伴預かろうかの」
どうやら、僕が不思議がっているうちに大人2人で話がまとまったようだった。
「まず、ステータスをここに書いてもらえるかの? 聞いてる感じ、速読・鑑定《魔物・植物》・調合あたりは芽生えてるのは確定じゃろうな。先天性と血縁スキルを書いてもらえれば大丈夫じゃ」
……さすが、年の功ってやつだ。僕みたいにステータスが見えなくても、話を聞くだけでおおよその予想ができてしまうのは、すごい。
……ステータスを書けば良いのね?
この人は、ギルドマスターの補佐をやっているような人だ。人のステータスを知っても情報漏洩するような人ではないだろうから、安心して書ける。
書いたものを朱基さんに渡せば、眉間に皺を寄せながら、紙をしばらく眺める。
次に僕のことを観察した後、こう言う。
「見事に生産やテイマー能力に特化したステータスじゃな、調合や栽培に力を入れているのは良いことじゃ、このまま続けると良い。あとは植物関連の生産スキルを伸ばすと良いじゃろう。……緑水の位の特性上、進めたくはないが、料理も学ぶのも良いかもしれんな。あとは裁縫かのぅ」
……うちの特性ってなんだ? 記憶が戻る前の記憶を探っていくと、お父様が料理をしてダークマターを製作している記憶が出てきた。でも、僕は問題なく作れていたので、たまに料理をするのも悪くないかもしれない。
裁縫は、得意な方なので積極的にレベルを伸ばしていきたいと思ってる。
「朱基さんから見ても、やはり生産に特化してますか……」
「そうじゃな、生産面はかなり伸び代があると思うぞ。
攻撃に関してじゃが……。緑水の位の方々は華奢な体格をしている家系ではある、元々戦闘が向かないんじゃよ。しかも、零は群を抜いて華奢だ。剣術を学ばせることも考えていたが、これは遠距離の武器を持たせた方が良さそうじゃ」
異世界に来たからには、剣を扱うことを少し夢見てた。だから、向かないと言われて少しショックだったけど、今も昔も華奢な体格だったから正直なところ「そうだろうな」と思った。
「遠距離の武器は、魔法武器が良いじゃろうな。弓は扱いが難しいからのぅ、銃か投げナイフがれいちゃんには良さそうじゃ。
遠距離を突破された時のために、小柄を生かして素早さに特化した武器も扱えると良いじゃろう。そうなると短剣が良いな。……ここまで聞いて希望はあるかの?」
……正直なところ、前世でも戦ったことないから、朱基さんが言ったことに特に反論はないんだよね……。
「それで大丈夫です」
「従魔に戦ってもらうことも考えたんじゃが、本人がここまで生産特化のステータスだと、惹きつけるのも生産特化の子じゃろうしな。従魔と1匹契約してることになっているが、その子はどこにおる?」
……従魔に影響するくらい、そんなに僕って生産特化のステータスしているんだ……。
まあ、スイも恵みの雨の力と、転生の力を持っているけど攻撃スキルを持っているとは思えないしなぁ。そしたら、あんなに傷つかなくて済んだかもしれないんだから。
だから、攻撃スキルを持つ従魔と出会える保証はないって言葉に、納得できた。
「スイは、力を貯めるために卵? の状態に戻っているみたいなんです……。力を戻すためには、4属性の精霊石が必要なんです……。そのために僕は自分の身を守れるくらい強くならないといけないんです」
この言葉を聞いて、朱基さんは何か言いたげな顔をした。……僕は前世のことを話すつもりはないので、見なかったことにする。
「ちなみに力は?」
「恵みの雨、だそうです」
転生の力のことは、誰にも話すべきじゃない。一回使っただけでたくさんの力を使ったのだ、利用されたらたまったもんじゃない。
「……なぜ力を知っているのか、解決方法をどこで知ったのか、れいちゃんは誰にも話すつもりがないんじゃな?」
その質問に、僕は答えなかった。
「……そうか、わかった。鍛錬の開始は、今日からじゃ。いち早く、従魔の回復をしてあげたいのだろう? 午後から鍛錬を始めようか」
「はい!」
僕が黙ったことを咎めなかった。この人は良い人だ、信用しても大丈夫そうだと安心できた。僕で時間を使わせてしまうのは、申し訳ないから早く自分の身を守れるようになろうと思った。
そして、午後。
「まずは柔軟してから、体力づくりに1時間ランニングじゃ。10分休憩終わったら、あの人形の人形に向かって、儂の指示した場所に当ててもらう。それを銃・投げナイフの両方1時間ずつ行う。4歳で過激な鍛錬すると、体に支障がでるかもしれんからの、それでお終いじゃ」
「わかりました」
まず、柔軟。30分くらいかけて、ヨガみたいな柔軟をやって、1時間走った。
これですでに息切れしてる。これで、2時間も的当てみたいなことできるのかな、僕。
銃も、投げナイフも朱基さんが指示するところに投げてもまあ当たらない、当たらない。投げナイフに至っては、的すら到達しないときもある。
終わった後には、僕は疲れて腕も体も動けず、地面に倒れ込んでいた。
「……よう頑張ったの。これは魔物の弱点について書かれた本じゃ。これを暗記しておきなさい。れいちゃんは戦闘向きじゃない、だから知識と正確さを極めるしかないのじゃよ。明日も、同じメニューを行う。ゆっくり休みなさい」
僕のお腹に本を置いて、屋敷へ帰っていった。
本を読むのは苦痛じゃないけど、明日も同じメニューをするのかと思うと憂鬱で憂鬱でしょうがなかった。
……スイのためだ、頑張ろう!
自分を鼓舞して、部屋へと戻るのだった。その途中、廊下でお父様と偶然、すれ違ったとき呼び止められた。
「前回、ギルドに行った時に言い忘れていたんだが、季水が私の依頼に気づいて受けてくれて、納付してくれたそうだ。あとで聖石を持っていかせるから、受け取ってくれ」
言いたいことを言えて満足したのか、僕の頭を撫でて、どっか行ってしまった。
……良かった。これで多少は起きるまでの時間を縮めることができる! それが嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。