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兄の暴走


 まあ、欲しいものができるまで貯めておいても困らないか、と思い直した。


「今日は良い取り引きをありがとう。……特に季水は迷惑をかけると思うが、今後とも息子2人をよろしく頼む」


「いえ! 光栄でございます。今後ともよろしくお願い致します!」


 ……そう言えば、僕生まれてこの方お母様とお兄様に会ったことないんだけど、どんな人なんだろうかと考えた時。

 大砲のような音がギルド中に響き渡る。

 対応室にいるため、どんな状況かわからず怖くなりお父様の腕を掴む。

 それにしても、どうしてギルド内の人が慌てている様子がないんだろう??


「……本当に申し訳ない」


「いえ、玲亜様には修理費を払って頂いていますのでそんなお顔をなさらないでくださいませ」


 そんな会話にますます訳がわからなくなる。どうしてお父様が謝って、しかも修理費まで払っているの?

 戸惑っていると、さっきよりも至近距離本日2回目の大砲のような音が鳴り響く。しかも、こちらに向かってドアが飛んでくる。……やばい、ぶつかる!!


「結界!!」


 お父様がそう叫んだ瞬間、見えない壁にドアが

ぶつかり、床にそのまま倒れた。

 た、助かった……。僕は腰から力が抜け、ソファに座り込む。すると、


「玲亜と零がここにいると聞いた!!」


 お父様の子どもの頃と言われてもおかしくないくらいに瓜二つの、少年が立っていた。……もしかして、もしかすると……。


「季水、ドアは破壊せずに入りなさいと何回言えばわかるんだ……!!」


 敵襲かと思えば、まさかの兄だった!!

それに、まさかの父親の名前を呼び捨て! 玲亜って言ったよ!


 それよりも。


「ここにいると聞いた、じゃねーですよ!! 猪突猛進しか出来ないなんて、イノシシと変わらないじゃないですか!!ドアの存在意義を考えてください!!

それに、ふざけんなですよ! あなたが壊したドアを直すのは職員さんなんですよ!! わかってますか?! あなたが物を壊すたびに職員さんの仕事が増えることを理解していますか?!

今すぐ、壊してきたドアを直してきてください! 良いですね!!

それに、次あの破壊行動したら……、地に埋めてやりますからね!?」


 怖さから怒りに変わった瞬間だった。

 後に語られる、その時の僕の顔はまるでアサシンかのような顔をしていたと。

 僕は、お兄様が壊したドアを直し終わるまで怒りが収まらず、直している間仁王立ちで見張っていたと後々聞かされたのだった。



「季水くんは考えなしなんです! 今度ドアを破壊したらお兄様って呼びますからね!」


 しっかりドアを直しているか職員さんが確認しているのを見ながら、注意する。

 なぜ名前で、君付けかと言うとお兄様と呼ばないで欲しいと懇願されたからだ。


「それは勘弁してくれよ〜、お兄様って呼ばれるとなんか背中がムズムズして鳥肌が立つんだよ……」


 困った顔をしながら、僕より強いはずの季水くんはオロオロしていた。


 季水くんが次に継ぐのに、このままではいけない。見た目は真面目な癖に、中身は猪突猛進、厄介なタイプの脳筋だ。これで、猛省すれば良いんだ。

 だから、このままの態度を貫く。


「だったら、ドアを無闇に壊さないでくださいよ! あれですか、学園に通っても教室入るためたびにドアを壊すつもりですか!

ドアを壊し続ければ、退学になることだってあります! いくら、有栖家が自由主義だとしても、社会的常識を守れなければ、人として話になりません!!

良いですか、しっかりと壊した分だけ直してもらいますからね?!」


 僕だって鬼じゃない。わざとではなく、壊してしまったら、自分で直すと約束するなら怒るのをやめる。


「わかったよ!! 俺が悪かったから、ちゃんと直すからな? そんな怖い顔するな、な?」


 一瞬だけこちらに向けた時、すごく困ったような顔をして、僕の怒りをなだめようとしていたから、悪い人ではないんだと思う。


「零に怒られて、悪いことをしたとは思ってる。ちゃんと修理するから、許してくれよ……」


「ちゃんと真面目に直したら、許してあげますからちゃんと修理してくださいね?」

 

 季水くんの懇願にそう答えれば、周りの冒険者達は手を叩いて爆笑していた。

 どうやら、季水くんはドア破壊魔以外はしっかりしていて、周りより年下でありながらまとめ役もこなすくらいの実力を持っていているらしい。普段は注意する側のようで弟に怒られてたじたじになっている姿が面白かったようだった。

 職員さんは笑うことなく、僕と同じ意見なようでウンウンと何度頷いていた。



「そもそも! 季水くんはお父様を継ぐのに、ほとんど家にいなくて大丈夫なの?! 僕、ほとんど初対面なんだけど。ちゃんと勉強してるの? これから、学園も入るんだよ? 冒険するのもいいけど最低限の勉強をしなさい!」


 気になったことを口にすると、頭をがっくりと下げて言う。


「……学園に行くには知識とマナーが足りないと玲亜には言われてます……」


 その言葉を聞いた瞬間、自分でも信じられないくらいのスピードで季水くんの腕を掴んだ。


「もう! 冒険するなら、学園に必要なことの最低限を終わらせてからにしなさい!! 依頼受けてないなら、しばらくは冒険はお休み!! 一緒に家に帰るよ!」


 僕は遠慮なしに引っ張りながら、ゆうの呼ぶ声に反応せず冒険ギルドの外に向かう。兄は一応、実力者みたいなので、何かあってもなんとかしてくれると思ったからだ。

 そんな姿を見て、僕達が外に出た後、ますます冒険者達が大笑いしている声が外からも聞こえたのだった。



 馬車の中。

 逃げ出すかと思っていたら、意外にも季水くんは大人しく僕の横に座っていた。

 その姿に、お父様は微笑ましそうに笑っている。


「意外だな。お前、私だと言いくるめて冒険に出かけると言うのに、零だと言い訳一つも出さずに言うことを聞くんだな」


 その言葉に不貞腐れたような声で、


「あまり会っていない弟に嫌われたくないからな。それに、零は顔が月夜にそっくりだから強く出れないんだよ。タチが悪いことに、雰囲気は玲亜に似てるから、尚更」


 そう答えた。

 そうだったんだね。実力者って言われてるのに、僕の小言を逃げずに受け入れているのが不思議だったんだよね〜。


「前みたいに、授業から逃げ出して冒険に行ったら零に叱ってもらうか」


 もう! 季水くんってばそんなことしてたの? 現行犯じゃないから、今更叱ることは出来ないけど、一応怪訝そうな視線は向けておく。


「……零に怒られるのはこれっきりにしたいから真面目に受ける……」


 その言葉に、珍しくお父様が声をあげて笑う。そんなに、こんな態度を取るのが珍しいんだね。

 まあ、僕は容赦しないけど!


「それを聞いたら心配になったから、季水くんと一緒に授業を受けて、真面目に受けてるか見張るからね?」


「……はい」


 今まではお父様と2人で生活してたから、季水が戻って来てからの生活が少し楽しみだったりする。

 ま! 言わないけどね!

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