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兄の愛情の重さを舐めていた1


「あ、季水くん。この結界壊せる?」


 零はにっこりと笑った。作り物みたいな綺麗な笑顔で。

 この笑顔をする前は、悪いことばかりを考えていたんだろうと兄は思う。ただ、それを指摘してはいけない、そうすることで傷つけてしまうから。


「あーはっはっは! 兄に任せとけ!」


 一発目は、静電気のように弾き飛ばされてしまった。

 薬指から小指の外側が赤くなる。ふむ。


 二発目は失敗しない。生命力を込めて、粉々に結界を壊した。


「破壊魔の季水くんでさえ、手間取ったんだからいい結界だね」


 嬉しそうに笑った。

 弟が嬉しいなら、兄はもっと嬉しいのだ。

 初めて会った時、零には心の闇があると感じていた。少しでもそれを思い出させないようにするため、零の頼みは何でも聞いてきた。それでも、零の心の闇は満たされない。


「これなら、聖獣様たちの結界にも使えるかなぁ」


 零が気にするのは、他人ばかり。自分の心の闇は後回しにされている。だが、それを指摘するのは、零を傷つけることになる。

 自分のできることは、零の願いを叶えてやるだけだ。


「ああ、俺以上にパワープレイをする奴は滅多にいない。生命力を使わないと壊せないなら、壊せるとしたら月夜くらいだぞ」


 零を産んでから、数日で任務に戻った月夜。

 冒険者としては尊敬できるが、家族としては尊敬できない。まあ、零は母親に会いたいどころか、女性を避けている節があるから、月夜に会ったことがないことに対して不満はないようだ。むしろ、会わない方がいいと思っている節がある。

 零は優秀だが、女性を避けているところを見ると、結婚を望んでないようだから長男である俺が当主になるべきなんだろう。


「だよね。普通は弱点や相性を考えて、余力を残して戦うもの。季水くんみたいに体力バカじゃないとこの戦い方はもないよね」


 遠回しに手加減をおぼえろ、といわれているんだが、毒を吐いても眼に入れても痛くないくらい可愛いから、おもわずにやけてしまう。


「今日はどうしたの? いつもなら鍛練している時間じゃん。そろそろ家庭教師が来る時間だし、おさぼりは許さないからね」


 今日も手厳しいが、領主としてやっていけるのか心配してでのこと。弟からの説教なら、何時間でも笑顔で聞ける。まあ、それを言うとまた怒られるんだが。


「冒険業に一時的に戻る、それを言いに来たんだ」


「季水くんが戻らないと、ダメなことなの?」


 ハイライトのない目を向けられる。


「戻るべきだと勘が言ってる」


 零の闇深さに目を逸らしたくなるが、逸らしてはいけない。行く必要があると証明しなくちゃいけないからだ。


「……良いんじゃない? 今の知識でも学園では通用するし、扉は壊さなくなったから気分転換しに行ってきなよ」


 にっこりと笑った。愛想笑いもかわいい弟だが、素の笑顔はさらにかわいい。まあ、零の愛想笑いがそうではないかを見極められるのは年の功か、父親か、野生の感くらいだと思う。簡単にいえば、勘が冴えてないと見極められないくらいに綺麗に隠す。

 貴族には向いているが、貴族らしくない有栖には必要ないスキルだからな。生きづらくさせるスキルは捨てて欲しいが、ハイライトが消える何かと関係しているんだろうからそれは言ってはいけないのだと勘が言ってる。


「……おべんと、作ってほしくて探してた」


 なんだ、僕の許しなくても冒険に行くつもりだったんじゃん、と楽しそうに笑う弟。良かった、どっか消えてしまいそうな雰囲気はどこかに消えた。


「なにがいいの? 季水くん。今日はね、朱基さんが僕の戦う方向性の変更から、スケジュールを組み替える日みたいで暇なの。お弁当、作ってあげるよ」


 特別だよ? と微笑む。

 そして自然と俺の手を握る、かわいい弟。

 暇つぶしを提供できたようで、ご機嫌だ。ハイライトのない目をされるより、絶対に健全的。お弁当がなくても、兄はこれだけで満足です。


「サンドウィッチが、食べやすくて良い」


「挟むだけなんだから、季水くんも手伝ってよね」


 俺に対して、つんつんしてるのが可愛くてしょうがない。まあ、素直でも弟は可愛いんだが。

 まあ、弟の言うことは絶対だが、つめるのは零が作ってくれたサンドウィッチしかいれないけどな。



「季水くんのことだから、なんかよくないことが起きてるって感じとったんでしょ? そうじゃなきゃ、ぼくが勉強優先って言ったら、わがまま聞いてくれるじゃん。戻るって明確に言ってきたんだから、命に関わる何かがあるんでしょう? それなら、次期当主として国民のことを見に行くのが優先だもの。頑張ってきてもらわないとね?」


 的確に零の作ったサンドウィッチを指差して、零に詰めてもらう。零は作った覚えがあるのか、苦笑いしながらも丁寧に詰めてくれているのが、かわいい。零以外、ダークマターしか作れない有栖だが、唯一まともに作れるのがサンドウィッチなのだ。

 自分の作ったものしか食べないんだなって察したのか、零は俺の作ったサンドウィッチをつまみながら、べんとうを作ってくれている。


 そして、国民優先と圧をかけてながらも、応援してくれる弟、最高だ。なんて、考えてると碌でもないことを考えていると思われたのか、俺作サンドウィッチを口に突っ込まれる。


「季水くんがいなくなると、実験の力仕事役がいなくなるから、早めには帰ってきてよね」


 また、つんつんしてる。

 これは学園に通うようになったら、休日のたびに転移アイテムで帰らなくてはならないな。これは遠回しの「いて欲しいな?」ってことだ。いてほしくないって言うわけではない、勘違いしてはいけないのだ。


「もちろんだ。零のことが最優先だからな。お土産も持ってこれたら持ってくる」


「別に良いよ。お土産のせいで、怪我されたら実験の力仕事役で困るでしょ」


 小さなおててで、お弁当を包む。

 4歳でここまで世話を焼けるなんて天才すぎやしないか、弟。さすがは俺の弟。


「行ってらっしゃい、季水くん。

ほどほどに暴れておいで」


 猪が全力で行っちゃうと、周りも巻き込んじゃうからね、と見送ってくれる。

 これは、「猪突猛進なところ、直しなよ。冷静に行動すればたくさんの人を助けられるのに」と言う意味だ。つんつんしながらも、俺への優しさなのだ。かわいい。


「あーはっは! わかってるぞ! 行ってくるな!」


 零に冒険の許可は取ったが、玲亜にはしてない。零が伝えてくれるだろ。家庭教師の時間をバックれたことは、数えきなれないくらいある。

 そこまでバックられたら、辞めてしまうと思うだろうが、そこは有栖。自由人だから仕方ないとみんな思っているらしい、今まで逆に大人しく授業を受けていたことに怖がっていた。……なぜだよ。



 とことことこ、と。

 冒険者ギルドにやってきましたっと。

 ついでに、ポーション売っておいてと零に言われたので、買い取って、零の口座に振り込んでもらった。言っておくが、普通は代打の買取は受け入れてない。緑陽の位ではな。

 零は特別に許されている。と言うより、貴重な回復ポーションの売り手だけは、家族の代打のみ許されると決められている。他のギルドは知らん。俺は、基本的には朱基さんのところか、地元しかギルド使わないから。

 他のギルドの依頼は一旦、今言った2つのギルドを挟んで依頼を受けてる。ギルド側はめんどくさいかもしれんが、知らん。


「いひぃーひひひ! 今日はドア壊さんの?弟の尻に引かれてんねぇ」


 コイツは腐れ縁の冒険者だ。

 よく、コンビで依頼を受けている。

 笑い方に癖があるが、おっさんの癖に強い。未だに、俺でも勝てない時がある。なんというか、経験値がべらぼう高い。

 おっさん曰く、ここの冒険者ギルドに来るまでは、酷い目に遭ってたからなと爆笑して言っていた。鋼のメンタルだと思う。


 まあ、おっさんは俺とコンビの仕事以外は、パーティの仕事は受けないから、零と同じく心の闇をかかえているんだとは感じている。あえて、それを言うことはしないが。


「あんなかわいい弟のわがまま、叶えない兄がいるのか?」


「あれをかわいいわがままって言える、心の広さにおじさんときめくわ」


 あー、おじさんの癖の強さは笑い方だけじゃなかった。よく、乙女ムーブするんよなぁ。キャバクラとか行ってるから本気ではないだろうが。


「季水ぃ〜、おじさん、久々に二人で依頼行きたいなぁ。一人で草むしり行くの飽きちゃったんよぉ」


 おじさんが腕を絡ませてくる。

 ……他のやつにやったらセクハラだぞ。ひっぺがしたら、悲しそうな顔してくるから、やらんけど。まあ、おじさんと妖精使い以外はひっぺがすけどな。


 あと、おじさんが言う草むしりは、難易度高めの森の薬草収集だから騙されてはあかんぞ。普通、パーティで行くとこなんだぞと言い聞かせても、


「おじさん、このクエスト神がかって得意なんよぉ」


 言われてしまう。

 他の人よりかは信頼されていても、なんか隠されてるんだろうなとは思ってる。まあ、でもおじさんのためにも休日は領地に帰ってこないと、彼が消えてしまいそうな気がするから、気をつけないと。


「いいぞ。なに行きたい?」


「えー、どうしよぉ。この依頼気になってだんだよね。だめかなぁ?」


 注意! おじさんは笑い方が癖強で、基本的には乙女ムーブです。

 おじさんが出してきたのは、燃え続ける火の原因を探ってくださいって依頼だった。正直苦手な依頼だし、おじさんも俺が断れば別の依頼に移ると思う。だが、気になる点が一つある。


 "燃え続ける"と言うことが気になった。と言うか、冒険者活動に戻らなくちゃ、と思った理由がこれだなって、もやが晴れた感じだ。


「いいぞ」


「えー、ほんと? いつもは解明系嫌がるじゃん! どうしたの? おじさんは別に楽しそうだからいいけどぉ」


「弟の手土産がありそうだと思ってな」


 もー! ブラコンなんだからぁ! と嬉々として、受付に行ってしまった。


 ……楽しそうでなりよりだ。



季水くんは基本、辛かった過去を持つ人に好かれやすいです。依存させ、その依存を軽々と受け止めます。季水くんの立場上、いつかは確かな血筋と結婚しなくちゃいけないと思われているため、今のところはヤンデレは発生してません。


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