新たな後天性スキル
「そうね、土造形と糸操作、魔力操作を覚えてもらうのが妥当かもしれないわね。あと、成長スキルの攻撃手段の仕方も教えないといけないかしらね」
「……成長スキルって攻撃手段になるんですか?」
成長スキルって、成長を早めるだけって言う固定概念があったから、思いつきもしなかった。
「零ならね。あなたの成長スキルは強力よ、歴代の有栖の中でもダントツだからこそ、できる技ね。魔力や生命力をエネルギーにして成長させるのよ。魔力操作や生命力操作を極めれば、強力な拘束手段や罠くらいにはなるわ。まあ、燃やされることを気をつけていれば、あなたの武器になるはずよ」
それは納得できた。
……糸操作とは、何ぞや? 覚えられると言うことは、後天性スキルなんだろうけど、スキル一覧には載っていなかった。
「ふふ、糸操作が気になっているのね。そりゃそうよね、あまりに技術が必要で風化したスキルだもの」
……そんな技術の高いスキルを覚えさせようとしているのか! まあ、ノアールの分身が安全にそばにいるためには、仕方のないことかな。
「どんなスキルなんですか?」
「糸を操作するスキルだと思うでしょう? まあ、その想像でも間違ってはいないんだけど、それは基礎の基礎。挫折するのはその先よ。魔力で糸を作り、それを自由自在に操るの。このスキルは生命力でも応用できるでしょうね、私達が使えているんだもの」
話を聞いて、他にも応用できるんじゃない? と思った。
「例えばですよ?」
「ええ、なにかしら?」
「魔力もしくは生命力で糸を創作します。で、札術で強化すれば罠にすることもできますし、武器にもなると思うんですよ。再現可能かは実験してみないとわからないことですけど」
イメージはピアノ線だ。
青龍様は、口元に手を当てて考えるような素振りをした。
「結論から言うわ。それは可能よ。札に工夫をしないと、避けられてしまうかもしれないけれど、そこは零の工夫次第だから」
可能なら、逃亡手段に有効に活用できるかもしれない。
「僕が神殿に狙われる可能性が高いことは理解できました。逃亡する未来のことも考え、強化した糸には鈴をつけたいと考えています。計算してつければ、神殿の人間がどこまできたのか特定することも可能となるのではないでしょうか?」
ノアールが肩の上で、ぴょこんと跳ねた。
「位置が特定できれば、ボクが壁なりを製作して閉じ込めることができるのだ! そのアイデアはいいと思うのだ」
思わぬ誤算をノアールが口にした。
驚きで言葉がでないでいると、続けて、
「地面がある限り、ボクの属性である土は存在しているのだ。つまり、この星の地面全てがボクであると考えれば簡単なのだ? 少し大袈裟に言ってしまったけど、少なくとも土の位と緑水の位の土地なら、合図があれば、遠隔でスキルを放つことができるのだ」
ドヤ顔をしていた。
表情はわからないけど、多分、ドヤ顔をしている。
その言葉に驚いたのは僕だけじゃなかった。
「私が知っている限り、ここまで強い精霊は衰退してから見たことがないわ」
「先代は、信仰による力じゃないかって言っていましたのだ。先代自体、原因はわからないって言っていましたけど、自分と違うのは先代から祠を作って、気まぐれに力を貸していたところだけと言っていたので、それかな? と思いますのだ」
神妙な面持ちで、黙る青龍様。
僕らは、静かに青龍様の言葉を待っていた。
「結論から言うわ、多分その推測は合っているわ。白虎だけ眠らずに済んでいたのは、信仰を集めていたからだもの。人と関わりを持ち、力を貸す精霊がいたことがないから前例はないけれど、神獣近しい存在だもの。信仰を力にできることも考えられるわ。
先代はここまでの力を得たことがないから、あなたの強すぎる力を対処する手段がなかったのね。それなら、力のコントロールの仕方を教えるのは私が適任だわ。この事実はなくても、ここまで零を守るつもりなんだもの、私が師になるしかないけれどね」
「教えることが山ほどあるわね。糸操作は恐らく、朱基には教えられないもの」
その言葉に、今まで空気と化していたお父様が手を上げた。
「青龍様、恐らく朱基さんは糸操作を使えると思います。あの人は見た目のままの歳ではありません。言葉遣い以上の歳をとっています。それに、零と同じく後天性スキルマニアなあの人が糸操作をしらないはずがありません。それを零に教えなかったのは、今までの零の戦い方には必要ないことだったからです。ですから、零に関しては変わらず、朱基さんにお任せします」
うん、思っていた。
どちらかと言うと、僕よりの戦い方をする朱基さんが知らないはずがないのだ。糸操作と言う、難癖がありながらも実用的なスキルを使えるようにならないはずがない。
それにだ、神出鬼没な朱基さんのことだ。どこから話を聞きつけたのかわからないほど、タイミングよく現れるのだ。
「と言うことじゃ。零のことは儂に任せてくださいよ、青龍様。玲亜の予想はあったとるから、安心してください。しっかり教え込みますので。成長スキルの攻撃手段についてだけ青龍様にお任せします」
ほらね。いつから聞いていたんだか。
多分、大半聞いていて自分の話になったから、姿を現したんだよ。そうじゃなきゃ、空気のまま聞き耳立てていたと思うよ。
「……はあ、一本取られたわ。何百年も眠っていて、体が鈍っているのかしら? ここまで気配が読めない人間がいるなんて。玲亜の言うとおり、見た目通りの年齢ではなさそうね」
「儂は、ただの生命力の取得に挫折した中途半端な存在なだけですぞ」
食えない態度でかわす、朱基さん。
「何言っているのよ。あなたに適正する、伝承性スキルがなかっただけのこと。適正するスキルがあれば、間違いなく強力な使い手になっていると言い切れるほど、第二段階目まで完成しているわ。あなたのことを中途半端と呼ぶなら、大抵の使い手は中途半端だわ。
……それだけの使い手だもの、零に自ら教えなくても安心ね。私が口出しするのは使えるようになるべきスキルと、成長スキルに関することだけにするわ。話は終わりよ、さあ行くわよ、ノアール」
ノアールを摘んで、書斎から出て行ってしまった。
「自由な方じゃの」
にっこりと微笑んだ。
「青龍様が連れて行った方は、土の精霊だったかの? 確かに幼体であの力を制御するのは厳しいじゃろうな。同族に教わるより、自分以上に強い力をお持ちになる青龍様に教わるのがよいじゃろう」
「一応、成人はしているみたいですよ。ただ、二つの土地を管理しているのと、幼体の姿を気に入っていてあの姿をしているだけみたいです」
ほぉ、と声を上げて驚いていた。
「幼体かつ、二つの土地を管理してあの力か。ならば、本来の生命力量は考えている以上に多そうじゃな。力のコントロールを覚えたのなら、過剰戦力になるくらいの守りになりそうじゃの。問題はどう、合法的にノアールをそばに置くかじゃ」
まあ、あれだけ慕われていて、分身をそばにいさせるのを断るのは心が痛い。断った時の、ノアールのがっかりする姿が容易に目に浮かぶ。
「妖精がいればのぅ……、妖精と偽れるんじゃが、そうもいかないからのぅ。妖精と思われても、神殿に付き纏われるのは確定じゃからのぅ」
まあ、そうですよね。
協力的だった妖精が、また再び現れたんだもの。欲深い人間は利用しようと考えるよね。
「青龍様の言うとおり、糸操作と土造形を覚えるしかないかのぅ。魔力操作も必須じゃの、あとは生命力操作の強化も必須じゃ。ノアールを自由に動けるくらいのレベルになると、目に見えないくらいまでの糸を製作できるようにならないといけないからのぅ。修行の見直しをしないといけないのぅ」
ひぇ、今以上に厳しくなると言うことですか?
「零の話を聞いている限り、札術の強化もしなくてはならんし、鈴の作成もしなくてはならん」
「あっ!」
札術の強化と聞いて、思いついてしまった。
「なんじゃ、言うてみろ」
「蜘蛛の巣みたいに、人や魔物を捕らえることが出来たら生存率が上がるかなぁ、と思いまして」
鋭く睨まれて、渋々そう答えると大きなため息をついた。
「……糸造形と付加の追加じゃな。糸造形も、造形の難しさで風化していって、スキル一覧から消えた後天性スキルだ。付加は付与の劣化版だ。簡単なものしか付け加えられないのが難点だがのぅ。札結界では粘着性を加えることはできないからのぅ。……まあ、いずれのスキルも想像力の力が大きい。零とは相性がよいじゃろう」
零の戦い方スタイルも決まってきていたんじゃがな……、と呟いて書斎から出て行ってしまった。
……え? 今日の鍛練は?




