精霊の話
「まあ、そうね。土の位と土影の位の水不足については、私の力が枯渇していたことが原因なのは間違いないわ。あそこまでの距離の水源を維持するのは回復する前の私では不可能だったもの」
僕は浄化のスペシャリストではないから言い切れないけど、聖獣様たちの土地の汚染は、緑陽と比べてものにならないくらいにひどいものだった。
緑陽は、自分で言うのもあれだが、他の土地と比べても空気の清潔さは段違いにきれいなのだ。それと比べるのは間違いなのかもしれないけどね。
まあ、近い未来、緑陽にも水不足の問題は関係ないと言ってられない事態にはなっていたと思う。だから、僕が清潔変化を手に入れられたことで、未来起こるはずだった問題を防げたんだから、儲けもんだろう。
「もし、だ。零が例のスキルを使えなかったら水問題は緑陽に影響を与えていたか?」
「その答えは、いいえよ」
季水くんの質問に対して、青龍様はそう答えた。
え、なんで? と思ったよ。でも、季水くんは何かに気づいているようで、やっぱりかと呟いた。
「この土地には恐らくだが、水の精霊が住処にしている。もしくは、水の精霊と他の精霊が共存して住処にしていると思うんだ。だから、緑陽は水の精霊が力尽きるまで水不足には関係ないのではと思ったんだ」
なんで、季水くんはこの土地に精霊がいると思ったんだろう?
……季水くん、説明してと袖を掴めばニカリと笑った。
「緑陽はあまりにも他の土地と比べてきれいすぎるからだ。零は王都しか行ったことがないからわからなかったんだろうけど、他の土地から帰るとどれだけ緑陽の空気が清潔なのかがわかるくらいなんだ」
へぇー。さすがはB級冒険者だけあるよね。色々な土地に行ってるんだぁ。
そうか、王都には白虎様がいらっしゃるから空気に違和感がなかったんだね。なるほど、僕が気付けないわけだ。
「まあ、あなたたちなら大丈夫かしらね。ここには水の精霊と土の精霊がいるわ」
水の精霊ならわかるけど、土の精霊?
「何で土の精霊が緑陽に……?」
普通、土の位とか土影の位のところとかにいるもんなんじゃないの?
「普通の土の精霊なら、土の位の土地か土影の土地にいるみたいなんだけど、今代は土の精霊の中でも変わり者みたいね。プライドはあるみたいだけど、律儀な精霊だったわ。わざわざ移住する挨拶にきてね、攻撃魔法ばかり使う奴らの土地は疲れたから、自然と共存している緑陽に引っ越すといっていたわね。
彼曰く、自分の力が影響するなら植物を育てることに特化している人がいる土地がいいともいっていたわ。どうやら今代の土の精霊はあまり攻撃的ではないみたいなのよね。居場所さえわかれば零なら懐柔できるんじゃないかしら?
むしろ、呼んだら来るんじゃない? うふふ。あぁ、今代の水の精霊はプライドが高くて、攻撃的だから無理だろうけど」
水の精霊がプライドが高いのに、よく共存を許してもらえたもんだと青龍様の話を聞いて関心する。
ふむ、青龍様の意見なら試してみないと失礼にあたるだろうし、やってみるか。
「土の精霊さ〜ん、近くにいるならお話ししませんか? よければ、汚染に悩んでいるなら僕がどうにかしますよ、いかがですか?」
土の精霊だと言うので、地面に向かって話しかけてみる。
まあ、精霊はプライドの高い生き物だとは聞いているので期待はしてないが。
「これでよし。まずは、青龍様の住処の整備を終わらせましょう」
緑陽の人間なら立ち入り許可を出して頂けたので、湖に橋をかけたり、植物を周りに植えたりとそれだけで1日が終わった。全ての作業が終わったところで、お父様を呼び、結界と札結界を施して完成した。
「良い感じだわ」
出来上がった住処を満足そうな顔をしている青龍様。
……気に入っていただけたようでよかった。
「お世話役は必要でしょうか?」
お父様が青龍様にそう聞いた。
温厚な方だとは言え、白虎様より人間嫌いなことは事実だ。無理して、お世話役をつける必要はないんじゃないかと思うんけど……。
「用意して頂かなくて結構よ。零が定期的に清潔変化をかけてもらえれば十分だもの。それに、世話役をつけてもらわなくても、私が必要とする人間は自ずと寄ってくるわ。そのときはその子の生活を援助してあげて頂戴」
それが孤児院の子であれば良いと思ってしまうのは、きっと僕のエゴなんだろうなと思った。
その日の夜、寒気を感じて目が覚めた。
「うー、あれ? 窓閉め忘れてる……」
確か閉めていたようなきがするんだけどなぁ、と首を傾げる。
大きく欠伸をし、窓に手を伸ばすと身を覚えのない土人形が置かれていた。
……まさか、と思った。……でも。
「土の精霊様ですか?」
まさか、あの呼びかけで本当に姿を現すとは思えないんだけど……、だってプライドが高い生き物、それが精霊なんだから。
「様なんてつけないでよ。様つけが許されるのは、聖獣様クラスでしょ。ボクたち精霊はわがままで、プライドの高い生き物なだけなんだから。聖獣様のように生命を維持するために力を使っていないし、力を貸すにしても借りを作った時か、その才能を認めた時にしか力を貸さない、そんな生き物を敬う必要なんてないでしょ」
確かに偉そうだ。……偉そうなんだけど……。
小さな土人形が、偉そうに胸を張っている姿はどこか可愛らしい。
「じゃあ、なんとお呼びすれば良いですか?」
「仕方ない、自己紹介をしてやろう。ボクはノームの、ノワール。ノワールと呼びが良い。生まれは土の位の住む土地、攻撃することが好かんからこの土地に引っ越してきた。ボクは防御魔法を得意とし、好きなものは自然だ。緑水の位の末っ子、お前は植物に特化しているから呼びかけに応じてやったまで。光栄に思うが良い」
うう〜ん、確かにプライド高そう。高そうなんだけど……。
「ノワールってなんか可愛い」
「はぁあ?! なんだと?! このボクを可愛いだと? ふざけたことをいうんでない!!」
ぷんすこ、おこってらっしゃる。可愛いなぁ……。
ちょっと照れているのも伝わってくるから、尚更可愛い。
「僕に何かして欲しくて、呼びかけに応じてくれたんじゃないの?」
そう聞くと、土人形は身体ごと傾げている。
「確かに汚染には困っておるが、青龍様が復活なされてこちらに来られてからはだいぶ身体が楽になったぞ」
じゃあ、なんで姿を現したんだろうか? この子は。
「じゃあ、ノワールの住処を整備したり、清潔変化をかけてあげたりして欲しくてきたわけじゃないんだね?」
そう聞くと、土人形はぴょんっと跳ねた。
「してほしい!! してほしいのだ」
なるほど、わかった。この子は、本当に僕が呼んだから来てくれただけなんだ。特に、ノワールの住処を整備してほしいとか、清潔変化をかけてほしいとかそう言う打算抜きに。
……なるほど、これが青龍様に変わり者扱いされる精霊か。とても可愛い。
「いいよ。青龍様の整備も終わったし、次はノワールの住処を綺麗にしてあげる」
「光栄に思うがいい!! 特別に、土の精霊の住処に入ることをやろう!」
ぴょんぴょん跳ねる土人形。
……可愛いなぁ、と癒されながら、
「今日は青龍様の住処を作って疲れたから、明日案内してね。明日、専属の大工さんと季水くんと相談しながらノワールの住処をどうするか話し合おうね」
精神年齢は二十歳を超えているが、身体は3歳。
眠気には逆らえず、そのまま窓枠に寄りかかり、意識を失ったのだった。
「むっ! ボクとの話の途中に寝るなんて失礼だぞ。……まあよいか。真夜中に訪問してしまったボクもちょっぴり悪いしな。特別に許してやろう、こやつはまだまだ赤子も当然だし、仕方あるまい。ふふん、ボクは精霊の中で一番心に余裕があるからな、特別に布団に戻してやろう」
ぴょんと窓枠から降りて、「ふんっ」と意気込むと手のひらサイズの土人形が三頭身くらいの土人形になった。その赤ちゃんボディから想像もつかないが、余裕で零のことを持ち上げ、ベットの上で横たわせる。ご丁寧に布団をかけ、満足げに汗を拭うような仕草をしていたのだった。




