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守護騎士


「神殿を守る騎士を、有栖の末っ子に与えるべきと?」


『ああ。あの子には聖獣に関わる重要な任務をこなしてもらう、それは神殿には極秘でだ。あの子のそばには青龍がそばにいるが、お前で言う貴族のバランスとやらを考えて契約をしていない。それ故、青龍は表立ってあの子を守ることができないのだ』


 そう言えば、光帝は頭を抱える。

 近年、神殿の勢力は伸びている。その力のバランスを保つのに胃がやられている彼に新たな問題がでてきたのだ、頭を抱えたくなるだろう。

 守護騎士は、力のバランスを保つためにも光帝の管轄の騎士だ。神殿に動向を探られることができない騎士で、あの子のそばにおくには一番安全だ。


『あの子を聖女代わりにするわけにはいかんのだ、お前だって知っているだろう。天神ではない人間が聖女であった時の悲惨な人生を』


 勢いよくこちらを見た。


「末っ子を護れば、あなたは死ななくて済むのですね?」


 その勢いのまま、我に抱きついてくる。

 この子は繊細だ。王位争いなど、血みどろの争いに向かないくらいに優しい。だからこそ、壊れてしまった。人を信じる機能だけを。

 だから、我はこの子を置いていけないのだ。そうなった時、それこそ本当に壊れてしまう。この世界を守るために、過剰にあの子を守らなければならない。


『そうだ。だから、あの生真面目で忠実なあいつを表上クビにして有栖と行くように命令してほしい』


 ここまで依存していると後戻りはできない、我はここで繊細なこの子を支えるだけさ。


「わかりました。聖獣を見つけたが、本人は神殿に見つかることを恐れている。有栖ならばそばにいることを許したため、祠の管理する末っ子を極秘で警護してほしい、と言うのでどうです?」


 うむ。ある程度情報を出しておかなければ怪しまれる、か。この程度なら良いだろう。


『では、そのように。近いうちにまた末の子が我の祠の様子をみにくる。その日を最後に、表上の守護騎士としての任務をとくように頼む』


 あの子は頑として、結界を張りにくると言うだろう。それならば、中を見せはしないが護衛として彼をつかせる方が都合の良いだろう。

 この子が頷くのを確認した後、我は祠へと戻るのであった。




 守護騎士をして、5年。

 初めて陛下からのお呼びだしがあった。


苑火緋曜えんかひよう、とある任務にて守護騎士の役目を終了とする。……ご苦労であった」


 は?

 自分で言うのもあれだが、私は生真面目な性格をしている

と思う。そんな私が、クビにされるようなことをするか? 否。絶対にしていない。


「ここからが本題だ」


 抗議をしようとした瞬間、陛下はそう遮られたので姿勢を正す。


「お前には極秘任務を行ってもらう。今回とある伝で聖獣を見つけたのだが、本人は神殿に見つかることを恐れている。有栖ならばそばにいることを許したため、祠の管理する末っ子を極秘で警護してほしい。お前も神殿での悲劇の記録は知っておるだろう? そんな悲劇を有栖の子で起きると考えると、有栖を敵に回すことになる。それはどうしても避けたいのだ。……引き受けてくれるな?」


 どれだけ探していても見つからなかった、白虎様以外の聖獣様が見つかったのが不思議でならないが説明しないのも有栖様を守るためなんだろう。

 私が選ばれたのは多分、性格だ。守護騎士は忠実であるが、貴族らしい奴らが多い。そんな性格と自由を愛する有栖様が合うとは思えない。だから、生真面目ではあるが私が選ばれたんだろう。

 貴族らしい奴らが多くて、息苦しいと思っていたところだ。それに、有栖様は自由を愛するが誰に対しても平等と聞く。……引き受けない理由がない。


「承知いたしました、喜んで引き受けさせていただきます」


 むしろ都合がいい。

 貴族も、神殿のしがらみもうんざりしていたところだ。私が忠実に仕えていたのはこの王のためのみだったのだから。王直々の命令を受けることはなかなかない。


「……妖精の力が失われている今、有栖を失うわけにはいかない。頼んだぞ」


「はっ」


 そう返事をすれば、肩を叩かれた。

 そこにはトラ耳の銀髪の美丈夫がいた。


「早速、有栖の末っ子のところへゆこうか」


 この気配はまさか……、そう考える暇なく移動させられたのだった。




「あら? 白虎じゃない。そこにいるのが、零の護衛ね」


 この気配は……、白虎様に近しいものを感じる。

 私は跪き、聞き手を胸に当てて頭を下げる。


「お初にお目にかかります。私、零様の護衛に任命されました苑火緋曜と申します。貴方様が青龍様ですね、お目にかかることができ光栄でございます」


「ご丁寧にどうも。……有栖家には生真面目すぎるんじゃないかしら? あの子達は天然でやらかすから」


 返事が来ただけでも、ありがたいことか。白虎様以外の聖獣様の人間嫌いは伺っている。今の私に出来ることは黙って、立つことの許しを待つことだけだな。


「生真面目と言うよりかは、主人に忠実なだけだ。忠実な人間は有栖と相性が良いと思うぞ。……それよりもこの男、お前に立つことを許されるまで跪き続けるぞ」


「そう……、ねぇあなた? 顔をあげなさい」


 顔を上げる前に指先で顔を上げさせられる。目の前には綺麗な顔で、無表情で怖かった。


「有栖を裏切ることは許さないわ。神殿に寝返った時には、私の出来る限りの仕返しをする。その覚悟を持って、零の護衛をなさい」


 これだけ思われて、契約をしていないのか。

 これは神殿に狙われたら、悲劇な人生を歩むのが容易く想像が出来る。


「私は神殿が好きではない、そして貴族も」


 しまった、慣れない敬語が取れてしまった。

 敬うべき存在相手だと言うのに。


「気にする必要はないわ、敬語なんて概念を気にするのは人間くらいよ。私達は感情に敏感なの。本当に敬ってくれているかはわかっているつもりよ。……零に会うんでしょう? こっちよ。今の時間は庭で従魔達と鍛錬をしているわ。立ちなさい、案内するわ」


 綺麗な手が私を引っ張り、立ち上がらせた。

 引っ張られるまま、素直に歩き続ける。連れてこらされたのは頑丈に守られている感じがする、庭の大きな樹の下にその方はいた。スライムと手を取り、その方を守るように大きな犬が座っている。

 こちらに気がついたのか、綺麗な琥珀色の瞳がこちらに向けられ、可愛らしい笑顔を向けられた。


「青龍様、白虎様なにか御用ですか?」


 幼い体ながらも、優雅さを感じる歩みで近づいてきてそう言った。

 この方こそ、いや有栖家の方こそ本物の貴族なんだと、一目で私は惹かれてしまった。

 これが、苑火緋曜と主人となる零様の出会いだった。




 手慣れたように跪き、頭を下げられた。


「お初にお目にかかります。私、零様の護衛に任命されました苑火緋曜と申します。お目にかかることができ光栄でございます」


 胸に当てられた手を優しく取り、両手で包む。


「よく来てくれましたね、僕は弱いので頼りにしています。元々護衛二人いるのですが、仲良く協力してくださると嬉しいです」


 包んだ手に口づけを落とされ、


「喜んで」


 にっこりと柔和な笑顔を浮かべてくれた。

 ……騎士の人はキザな人が多いのか、と若干引き気味でいるとそれを読んだのか、青龍様と白虎様はフッと笑った。


『そうだわ、もう守護騎士を任命したのだから緑陽へ帰っても良いのよね。力もだいぶ戻っているし、すぐに転移できるわ。早く王都から出ましょ、いつまでも神殿のそばにいたくはないもの』


「ああ、構わんぞ。むしろ、あの有栖がここまで大人しく王都にいたことが奇跡みたいなものだ、もう引き留める理由はない」


 やった! そろそろ、借りた屋敷に引きこもっているのも辛かったんだよね。やることはあるけど、早く自然の多い緑陽に帰りたい。そう思うと、うずうずしてきた。

 嬉々として、青龍様はどこかへ消えていった。多分、お父様のところ。この屋敷を返す手続きをしなくちゃいけないし、早くて数時間は王都にいなくてはいけない。


「寂しくはなるが、あまり我と親しくすると神殿に狙われる。元気にしているんだぞ」


 一言言い残して、城に戻ってしまった。

 ……うーん、従魔がいるけれど初対面の人と二人きりになってしまった。

 頬を掻きながら、さてどうしたもんかと考える。


「遠くから見張られている感じ、私がいなくても十分警護は足りているように思えるのですが。下手な令嬢よりも、警護が随分厳重のように思います」


 こらこら、ゆうだな。全く。

 僕が首を振り合図を送ると、緊張していた緋曜の肩が落ちたような感じがする。……良かった、指示通り警戒をやめてくれたようだ。


「僕には攻撃手段がないんだ。僕のスキルは、有栖家特有の傾向が強く出ている。まあ、末っ子だからと言う理由もあると思う、過保護に守られているんだよ」


 まあ、それだけじゃないんだけどね。

 まだ会ったばかりの人に、ぺらぺら状況を話すことではないと思うし。


「有栖家の力は、妖精の存在がいない今代わりがない力です。その力が強く出ているのであれば、厳重に守るのは正しい判断だと思います。それ以上に、家族を大切に思う気持ちは素敵なことだと私は思いますよ。

苑火では……と言うより、本家である炎青の位の華清もそうなのですが、力や血を重視する一族なので、零様が羨ましく思います。あの子も、有栖のような考えの家系に生まれれば肩身の狭い思いもせずに済んだのでしょうが、私は本家の人間ではないのでどうしようもなく情けないです」


 あの子……?


「ここまで大切にされていることの方が、この世界では珍しいことなのですよ」


 それ以上、彼はあの子の話はしなかった。



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