一方、天使サイド2
メリークリスマスですね。
できた話から少しずつ投稿していこうと思います、不定期ですが。
よろしくお願いします。
「ああ、最悪だ。有栖零さんでしたよね? その方とは別の意味でタチの悪い人間を殺めてしまったようですよ。単純なあの子のことですから、被害者として月光島に送るようです」
黒猫の姿に縛った幼馴染はそう言う。
昔からそうだ。妹の方は兄の動向はわからないが、兄は妹の動向がわかるんだ。彼曰く、妹の魂は悪魔に落ちる素質があるから最悪な事態を起こさないためにその能力をもらったとのことだ。
まあ、所謂未来予知に近い力を彼は持っている。それを知っているのは、妹すらも知らない。教えてくれたのは私だけだけと本人は言っていた。
それでも、私は冷静だった。
黒猫の姿で最悪だ、と悪態つく幼馴染は可愛らしいモノだなとクスリと笑うだけ。
「零さんと違う意味でタチが悪いとはどう言うことか教えてくれるか」
「もちろんですとも、あなたのためになるなら! 妹は自分と感性の近い人間を殺めて、月光島に送るようです。……まあ、同時にそれに対抗する力を持つ少年を送ったようですが。我が妹ながら、よくわからないことをするもんです」
私の肩にとんっ、と軽やかに飛び、擦り寄ってくる。……こいつ、猫の姿を良いように使ってるな? 普段なら遠慮しているのに。
まあ、拒否する理由もないから言わないが。
「……その娘はそのまま月光島に送る。少年の待遇を考えなくてはならないな」
月光島の転生者リストが更新されていないかを確認する。……ふむ、幼馴染の言うとおり最新の被害者は少年少女の一人ずつ。
「ん?」
少年の適性が目に入った。
……ふむ。
「セーラー服の少女よ」
なりたくない神様の立場になってしまった。この立場にならなければ、この幼馴染をそばにおくことは到底叶わなかった。だから、後悔などはしていない。
それに、体質が故に殺められてしまった彼が、月光島の本来の力を意図せずに回復してくれている好機を逃すわけにはいかなかった。
「役目のために、この人生を終わらせる覚悟はあるか」
これで、月光島が完全回復するためのピースは揃う。多少時間がかかっても、彼女を説得するつもりだった。
しかし、それは杞憂だったようで。
脳裏に響く声は、
「この血筋に生まれた時から覚悟しております。全てはあなた様の思うがままに」
若いとは思えないくらい強い覚悟だった。
長年、勇者の素質を持つものを転生させてこなかったが、何を企んでいるかわからない。幸い、2体の聖獣が回復しつつあるが……、彼女の企みがわからない以上、勇者の素質のある彼女に転生してもらうのは避けられないと思う。
地球の神には、あらかじめ了承をもらっている。
「最期に挨拶したいものはおるか」
「私には親として愛してもらった両親はおりません。ですが、一人だけ。最期に夢だけで、お別れをさせてください。……化け物として扱われていた私を、包み込んでくれた彼に。
それからどうか、お願いします。化け物だった私がいたことを、彼の記憶から夢を最期に消してください。それが私の望みです」
随分、一方的な望みだな。
ちらり、と幼なじみを睨みつければ、焦ったように頬に擦り寄ってきた。……全く。
「約束しよう、その彼だけにはお別れできるように手配しよう。……だが」
神とは必ずしも望みを叶える生き物ではないのだ。
「勝手に、愛しいと感じている相手のことを忘れさせるのは好まないんだ。その願いは叶えられないな。だが、彼が私との契約を破棄するならば、その願いを叶えよう」
自己犠牲の愛など、私は好まないのだ。
「では、せめて……。誰かを愛し、幸せになれる未来へ、彼を導いてください。私が歪まず、病まずに生きていれるのは彼のおかげなのです」
綺麗に笑った。
歪まず? 何を言っているのだ。そこまで、愛しているのならば、自分との幸せを考えれば良いと言うのに。自分とは釣り合わない、そう言う自己肯定感の低さがそうさせているのか。
使命とは言え、加護を与えないのは良くない。
そう、神様とは自分勝手な生き物なのだ。
なぁ、そうだろう?
視線を、幼馴染に向ければ頷いてくれる。
「今の私は気分がいい。一つ、特別な加護を与えよう。それはその加護が目覚めた時のお楽しみだ。……さあ、眠る時間が来たようだ」
「おやすみ」
手のひらには、器から抜いた少女の魂。
その魂を幼馴染に渡し、月光島の転生者リストに載せる。あたかも悪魔の被害者かのように。
「すまないね、お前には濡れ衣をさせてしまうが」
「構いませんよ、私はあなたのそばにいれれば罪が増えようとも構わないのですから」
それはどうかと思うぞ。
「■■■!!」
笑顔で話しかけてきた少年は、私の表情を見て顔をこわばらせた。……ほぉ、なんとタイミングのいい男だ。それに、勘もいい。
「お前は誰だ!! ■■■をどこにやった?」
「その少女は死んだよ、役目を果たすためにな。少女から伝言だ、化け物と呼ばれた私のことは忘れて愛する誰かと幸せになってほしいと言っていた。それから、お前の記憶から少女の記憶を消してほしいとも」
さあ、どうする? どうしたい?
少女が言うように、この世界では少女は強すぎる力を持っている。それを、人として愛せる少年の心は本物なのか。そう思案していると、苦しそうな顔をして私の胸ぐらを掴んできた。
へぇ? 私の神気に触れようとできるくらいの、気持ちがあるのか。
「彼女は化け物じゃない。そこら辺の花の冠をプレゼントしても涙ぐむくらい喜ぶ、それくらい純粋な女の子だ! 100人が化け物だと言っても、俺だけは彼女のことを純粋な女の子だって言って見せる!」
一度、それも一瞬じゃない時を私の神気に触れている彼はこの世界では異質な存在になってしまう。ならば、こうしよう。
「お前は、彼女の盾になれる覚悟があるか。
神はこちらから使命を与えることはあっても、何でもかんでも望みを叶えるわけにはいかないんだ。それに私としても、お前の意思関係なく記憶を消すことは好まない。お前に言われなくても叶えるつもりはなかったさ。
最初はお前が望むなら、消すつもりだった。望まないなら消さなかったよ。その代わり、彼女が望んでいた、お前に幸せな未来を与えてな。……気が変わった。お前の魂を私によこせ。いや、正しくは私の世界によこせだな。
そこには、お前の愛する少女がいる、これで少女が望むお前の幸せな未来は叶えられるだろう? それとも、幸せな未来にいる愛する人は少女ではないのかな?」
我ながら、わかりやすい煽りだな。
幼馴染はやれやれと、私の方で首を振っている。
黒猫の姿だから可愛らしいが、人型だったら憎たらしいんだろうな。……全く。そう考えていると、少年の目の色が明らかに変わったのがわかった。
「その使命とやらに俺を巻き込め。彼女に惹かれた時から覚悟している、命をかけて戦うことの覚悟を。強いからこそ、一人にしたくない。孤独になんてしてやるものか。
忘れてなんてやらない、俺が心から愛したいと思うのは彼女だけだから! だから、お前に俺の魂をくれてやる。俺を彼女の元へ連れて行け!」
その言葉に、幼なじみの尻尾がピンっと立った。
ん? この言葉を言わせることで、何かの選択肢の分岐点を拾ったのだろうか。……まあ、いい。
「その言葉を待っていたよ。じゃあ、準備はいい?」
すまん、の意味を込めて撫でれば手のひらに頭を押し付けるように押し付けてきた。……幼なじみの私の心酔加減には話し合う必要がありそうだ。
「とっくにできている」
その表情に、未来がわからない私でもわかった。
……幼馴染の妹より、先手が打てたと。




