一方、天使サイド
思った以上に忙しく、体調不良も続いていてかけない状態が続いているので、出来た1話を投稿することにしました。
もうしばらく不定期投稿を続けようと思います。申し訳ございません。
「いた、確かにいた。あの女の言うとおり零くんがいた。言われたとおりに力を使ったのに、どうして私の思ったとおりにならないのよ!! この力を使えば零くんは私のものになるはずだったのに!!」
聖女家系とは思えないほど慈愛とはかけ離れた、凶悪な顔で、ベッドの上を枕で力づくで殴り続けている。
「今度こそは、あいつの思いとおりにはさせないんだから。あいつばかり零くんの側にいられるだなんて……、くそ!!」
握りしめていた枕を投げ、親指を八重歯で噛み締める。その指からは、血が出るくらいに力強かった。
ふと、顔の見えない女は空を見上げた。
「どういたしましたか?」
よく似た顔をした男女がいて、男の方はそう聞いた。女の方はしかめっ面をして、
「はぁ……、せっかく私の力をあげたのに、失敗したようね。神々に一手進められちゃったみたい。しかも、人間に出し抜かれたなんて恥をかかされたわ」
気分を害したような顔をした。そんな顔を見て男は嫌そうな顔をする。
「あなた、幼馴染の領域に悪影響を与えるようなことをしたのですか? たとえ妹のためでも、彼に影響が行くようなことは私はいたしませんからね。
その顔は、幼馴染を振り回すような時にする顔です。私は復讐には満足いたしましたし、そろそろ幼馴染の元へと帰らせていただきます」
仲間割れをしたような発言をしたのだ。そんな男に対して鬼の形相な顔をして、
「あんたはいつも幼馴染の味方だったわね。今更、天界に帰ろうと幼馴染の元になんて帰れないわよ。それくらいのことはしていること、自覚していなかったの?」
馬鹿にするように笑いながらそう言えば、男は企んだような笑みを浮かべた。
「私がこれまで復讐していたのは幼馴染と、妹と引き離されて投獄されたからですよ。幼馴染の側にいられるなら、大人しくしていても構わないってことです。
あなたの計画に手を貸したのも、幼馴染の元に帰るため、復讐はあくまでもついでです。満足しましたし、幼馴染に何かしなければ何か悪いことをするつもりなんてありませんよ」
「それに」と呟いた後、
「そろそろ引き際みたいですよ。神々が本格的に我々を人間を使って封じようとしているみたいですよ? ね、お嬢さん」
そう言って男が指を指し、女を振り向かせれば藍染で染められたセーラー服を着た少女がいた。
「気づいていたらなんで言わなかったのよ?!」
「それは、今はあなたの味方ではなく幼馴染の味方になったからですよ。無駄ですよ、お嬢さんはあなたより強い。あなたと一緒に行動していなければ、私は彼女には勝てます。私は強くても、あなたにも私の本来の力は毒なんですから。あなたは逃げれば良い。まだ、復讐したりないんでしょう?」
そう男が言えば、待っていました! と言わんばかりに女は飛び去って行き、男は姿が見えなくなるまで見送った後、にっこりと微笑んだ。
「お嬢さん、あなたは私をどうするおつもりですか?」
男がそう聞けば、少女はなぜか目を閉じて開けば目の色が変わっていた。そして口を開く。
「やはり、そうだったのか。いたずら好きではあったが、平和を好む君が悪魔になったのもそう言う理由があったんだな……」
少女に似合わない低い声、しかし男には聞き覚えがあったのか涙ぐんだ。
「ああ! あなたに殺されるならば、本望です! あなたを守るために悪魔になりました、あの子はやると決めたら大切な人まで殺めようとしますから。そう決めた時から殺される覚悟はしていましたよ。
あなたを守るためにはしょうがないことでしたが、まさか妹と離れて長い時間投獄されるとは思わないでしょう? あなたか、妹が側にいれば私は大人しくしているつもりでしたよ。ですが、そうならなかったので、また妹の計画に乗りました」
少女を依り代に地球におりてきた幼馴染だと知った男は喜んでそう話し、全ての武器を道路に投げ捨てた。そんな行動に幼馴染は悲しそうな顔をする。
「……詳しく調べたところ、君は関係ない者までは殺めていないようだね。君が今まで殺めてきた人間は、一人だ、あとは彼女が殺めていたことはわかっている。
それは単独行動して目をつけたらタチの悪い人間だった、いつか自分が罪人として天界へ戻ることをわかっていたかのように状況を悪化させないためにその方の命を奪った。今まで君の方の意識が殺めてきたのは人を狂わせるように依存させる体質を持った人間だった。……代表的なターゲットは有栖川零、彼だよね」
そう呟いた。
「……そうですよ。有栖川零の血筋はタチが悪い。彼の血には成人になるまで、サイコパスの素質がある女性を魅了し、狂わせる血が流れています。その血と妹の血が混ざれば、まずその世界は破滅していたと思います。そうなれば、君にも被害が行くでしょう? だから、止めたに過ぎません。……まあ、彼には感謝しています。私は自発的に殺めたいと思ってはいませんからね、最悪を防ぐ防衛は致しましたし」
幼馴染の話したことを、男は素直に肯定して、今もまだ防衛するような体勢を取ることはなかった。それを見て、幼馴染は悲しそうな笑みを浮かべて、
「大人しく殺められるつもりか?」
そう聞けば、
「はい。相手があなたであるならば」
そう男は答えた。その答えに幼馴染は決心したような顔をして、
「……悪魔としての権利を奪い、事実上の死を行うことを命ずる。我の僕になり、我の盾になり、我の命令には命をかけて従い、許可なく術を使うことは許さない。そして、人の姿をすることも許さない。常に我の側にいて、自分のためでなく、人のために生きよ」
その言葉に男は目を見開いた。
「それをするってことは、あなたはあれほど嫌がっていた立場になると言うことになるんですよ? 構わないのですか?!」
「……君らを悪魔にさせた神々を罰したため、そうならざる終えなかった、それだけだ。それに、君を罰すればあの娘は必ず災厄を起こすだろうからな。そうなった時の予防線だ」
幼馴染は質問にそう答えれば、男は崩れ落ちるように地面に座り込み……、
「我々が悪になってまで堕としてやろうとしていた神を立場を落とさず罰するなんて……」
絶望したような顔をしてそう呟けば、
「私が気付けていればこう言う対応もできたと言うことだ。……今まであの神を罰しなかったのは月光島が安定していなかったから。安定した今、あの神が存在する意義はない。あの男がやらかしたことは君らが悪魔になった理由だけじゃなく、他にもあったからな。徹底的に処罰した。
……これで心のつっかえるものは取れただろう?」
さらに追加するようにそう言えば、男は頭痛の痛みを和らげるための動作をする。そして、
「……取れましたよ! 取れましたけど、はぁ……、あなたは本当に未来が見えてないんですかね……。なんでここまで、的確な分岐点を回収するんですか」
頭を抱えて、男はうずくまってしまった。そんな姿をくすくすと笑いながら、
「……君みたいに未来の分岐点なんかわからないさ。ただ、必要だと思ったものを捨てて後悔したくないって思っているだけさ」
そう一言呟いて、男に対して手を差し伸べたのだった。
その一方。
「みぃ〜つけた」
男の手によって逃げ延びた女は楽しそうに、狂ったように笑いながら、仲良く並んで猫と散歩する双子を見つけて近づき、女の子の肩を掴んだ。そして、自分の指を噛みちぎり、口に突っ込んだ後、耳元で呟いた。
「……平和な世界、飽き飽きしてるんでしょ? 私と同じ匂いがするもの、もっと素直にいきましょうよ、ね?」
呟いた後、女の子の胸部を貫いた。そして、自分で噛みちぎった指を再生した後、一緒にいた男の子の方に視線を向けて……、愛おしそうに血塗れのままの手で頬を撫でた。
「お兄様にそっくりだわ……。殺さないで側にいさせるのも良いけど……、やっぱり、お兄様に似ているなら絶望させてみたいわ……。そうね、こうしましょうか」
そう呟いた後、女は男の子の胸部を貫き……、目の前にいた存在すべてを殺めた。
「皆と一緒なら寂しくないわよね?」
血を浴びながら、その姿にそぐわないくらいに上品に微笑んだのだった。




