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土地を回復しよう その2


「せめてものお礼に使った回復ポーション代を色をつけて払っておいた。あとで、当主からもらうと良い」


 律儀な方だなぁ、この方は。

 まあ、それでも公の場は嫌いなので、社交場とかは参加しないけども。


(有栖の末っ子よ)


 あ、念話だ。

 これは光帝に聞かせたくない話なんだな。

 しかも、光帝に背を向けて座っていることで、こちら側の様子が見えないようにもしている。よほど、知られたくないようだ。


(これを渡しておく。青龍の穢れを祓うまでは王都にいるように有栖の当主に伝えて欲しい。今日の夜、それを目印にお主のところへ転移する。有栖に関わる者以外には内密に行って欲しい)


 牙のような装飾のネックレスを渡された。

 光帝に見えないように慎重にアイテムボックスへとしまった後、力強く頷く。その様子を見て、満足そうな顔をした。


(青龍の穢れを祓い終わった後、それを返して欲しい。あと2体の聖獣の穢れを祓うために、移動する手段については我に考えがある。お主は穢れを祓うことに集中してくれ)


「はい、かしこまりました」


 聖獣様に考えがあるのであれば、それに従うまで。僕から特に言うことはない。生き物のヒエラルキーは大切だ、一番上が崩れてしまえば魔物にも影響が出る。貴族として、国民のためにそれは避けたい。

 僕の力でなんとかなるなら力を貸す。が、目立つのは避けたい。僕には、満足に自分を守れる力があるとは言えないから。


「それでは失礼します」


 最敬礼でお辞儀をし、部屋を去ったのだった。




「聖獣様から王都に残るように言われた?」


 お父様の顔は険しい。

 そりゃそうだろう、お父様からすれば治安が良いと言えない王都からはすぐに去りたいはずだ。僕は完全に自衛できる状態ではないしね。


「はい。聖獣様曰く他の三体の聖獣様も、穢れがひどい状態で維持するために眠りについているのが真実らしいです。青龍様の祠の穢れを祓えば、緑陽に帰って良いと言うことです。残り二体の聖獣様の穢れを祓うためには青龍様の穢れを祓う必要があるとのことです」


 理由を聞いても、お父様の顔はまだ険しかった。


「零、お前は聖女……いや、聖人の役目を負うかもしれないぞ。神殿が、聖獣様の力を回復させるような人間を放っておくわけがない」


 僕もそれが怖かった。人間は欲深い、稀な力を持つ者を利用しようとする。それは重々理解している、それについても対策を練らなければならないとは思っている。


「僕は有栖として役目を果たす、それだけです」


 神殿から何言われようと、有栖として頂いた役目だ。神殿側の人間として役目を果たすつもりはさらさらない。


「……零、お前がもしも貴族の娘を好きになってもその娘とは結ばれないし、一生家庭を持てないとしてもか?」


「はい」


 それは僕を守るためなんでしょう?

 有栖として役目を果たすとなると、僕は一生有栖に縛られることになる。貴族の娘と結婚するとなると、僕を当主にしたい誰かが季水くんに手を出すかもしれない。……まあ、簡単にやられるとは思えないけれども。

 あくまでも、当主は季水くんだ。それを示すためにも、僕が後継者候補を作ってはいけない。だから、家庭を持ってはいけないのだ。


 はなから家庭を作るつもりはなかったけども。


「……わかった。あらゆる手を使って、お前を利用しようとする大人から守ろう。やりたいことを、やりたいようにすると良い」


 お父様は僕のことを心配していただけで、聖獣様を助けることは反対していなかったのは様子からわかっていた。

 ……利用されないよう、自分で自分の身を守れるくらい強くなろう。


「ありがとうございます」


 夜に来ることを伝えて、それに備えて仮眠を取ることにしたのだった。




 仮眠を取った後、回復ポーションをあらかじめ大量に用意しておいた。あとは清潔草できれいにしておいた水もね。

 夜といっても、いつ来るんだろう? とぼんやりしていたときだった。床に魔法陣が現れて、眩しくて目を瞑り開いたときにはもう、そこに聖獣様がいらっしゃった。


「聖獣様、いらっしゃいませ」


『白虎だ。これから会う青龍も聖獣だ。そう呼ぶといい』


 月明かりに、絹糸のような毛並みが照らされる。

 ……やっぱり、白虎だったのか。青龍と聞いて、聖獣様の正体はなんとなく想像がついていた。


「わかりました、白虎様」


 白虎様が来たら、呼ぶようにと渡されていたベルを鳴らし、来訪を知らせる。すると、ものすごい勢いで近づいてくる足音が聞こえた。

 夜なんだから、静かにくればいいのに全く季水くんは。


 思った通り、トップバッターは季水くんだった。


『騒々しいな、有栖家の次期当主は』


 文句を言いつつも、微笑ましそうな顔をしているところを見ると、この方は人間が好きなんだろうと思った。

 季水くんが来ると次々と僕の部屋にやって来て、5分もせずに全員が集まった。


「夜も遅いことですし、早く終わらせましょう」


『そうだな』


 それを合図に再び、床に魔法陣が広がり、目を開けた時にはもう景色が変わっていた。



「白虎様の時もそうですが、土地の栄養不足も穢れもひどい状態ですね」


 どう判断しているかは言葉にできない。

 なんとなく、ひどい状態だと感じるのだ。

 そう、言わば直感。


「今回は本人の意志を聞かなければならないので、まずは祠から清潔変化をかけていきましょう」


 白虎様曰く、青龍様は眠っているそうだ。

 そのせいか、白虎様の土地よりひどい状態になってきる。先に、青龍様の回復をした方が良さそうだと判断した。


『お主に任せよう』


 その言葉を合図に、祠に触れる。


「清潔変化」


 契約していた白虎様よりも、穢れがひどい。


「清潔変化」


 もしかしたら、聖獣と言う存在は信仰も力になっているのかもしれない。


「清潔変化」


 手厚い信仰はできないけど、少しでも穢れが少なくなると良いなとは思う。


「清潔変化」


 ここで、白虎様は祓える限界がきていたけれど、まだ祓えるみたいだ。……まだ、清潔変化が使えるだけの魔力がある。限界まで祓ってしまおう。 


「清潔変化!」


 気合いを入れてスキルをかけると、かなりの量が持っていかれた。直感で、これ以上清潔変化がかけられないことを知る。


「これ以上はかけることは出来なさそうです」


『疲れただろう、こちらに来なさい』


 白虎様は伏せの状態になり、尻尾で地面を叩き、そこに来るように言われた。聖獣様の気遣いを無駄にするわけもいかず、素直に言われるがまま休む。

 すると祠が光り、女性のようにも見える男性が現れた。


「聖女がやっと現れたのね。 ……ってあら? スキルをかけてくれたのは白虎に守られている可愛らしい坊やね。と言うことは、かけてくれたのは清潔変化かしら。人は嫌いだけれど、感謝するわ……ってあなた、有栖家の人間ね? その美しい黄緑の髪、琥珀色の瞳……間違えないわ」


 優しくほおを撫でられた。


「このような体勢で申し訳ございません。私、有栖零と申します」


 そういえば、優しい笑顔を向けてくれた。


「まだ穢れが残っているけれど、力が回復すれば祓えなくないところまで消えたんだもの。体勢くらいでうるさく言う野暮な聖獣ではないわ」


 優しい方で良かったと、一安心。


『青龍よ。お主に施したように、他の聖獣にも清潔変化をかけてやりたい。その橋渡しをお主に任せたいと思って、初めに回復させたのだ。我は悪意のある人間に関わる機会が多い、それに巻き込まれないためにも頼みたいのだ』


 考えるような顔をして、


『あまり人間に関わらないようならいいわ』


 そう言った。

 やはり、白虎様以外はあまり人が好きではないようだ。


「……あの、青龍様がよろしければ有栖の領土に来られませんか? 有栖の屋敷の土地は広いですし、関係する人間しか出入りがありませんし、やりとりがしやすいと思うのです。

来ていただく代わりとはなんですが、できる限り過ごしやすい環境を用意させていただきます。……動物がたくさんいるので、それが嫌であれば無理にとは言いませんが。あまりに、土地の様子がひどいので……」


 青龍様の力は恐らく、水。

 有栖家とも相性が良い。きっと、有栖家の力が宿った緑陽で過ごすことで回復が早まるのではないかと思ったのだ。


『あら、素敵ね』


「うちの土地にはドラゴンが住んでいたと記述されていますし、領民も珍しい生き物が住むことになれております。さすがにお力の強い青龍様を迎えるにあって前触れを出さないわけにはいきません。もしかすると供物を持ってくる領民がいるかもしれませんが、お許しを頂けますか?」


 領民は珍しい生き物を受け入れるのに、抵抗はないみたいで前触れの反応では度々、好評であった。神聖な青龍様が来たら、きっと供物を持ってくるに違いない。

 だから、お許しを得なければならないのだ。


『有栖に関わる領民なら構わないわ。昔から、人間の中では有栖を評価していたの。生き物を大切にするし、平等だわ。そんな有栖が認めた領民なら信じる価値があるもの』


 あれ? 意外とあっさり受け入れてくれるんだな。


『我の次に力を回復するのを、こやつを選んだのはこの性格だ。認めた者に対しては柔軟なんだ。しかも物腰が柔らかいだろう? 有栖にはこやつが一番合うと思ったから選んだんだ。かつ、穢れがひどく早く対処しなくてはならなかったと言うのもあるが、こやつが機能しなくなると水が枯渇し始め、人類が滅亡する。だから回復の優先順位が高かったのだ』


 確かに、物腰も柔らかく柔軟だ。

 僕は女性恐怖症のようなところがあるが、この方は性別不明さがある男性と直感でそう感じたので、安心して話せている。

 青龍様を失えば、水が枯渇していたのかと思うと身震いする。


『そうね、玄武ならともかく朱雀が繋ぎをやるとは思えないわ。玄武は玄武で、役目を果たしている聖獣だし、繋ぎをやるのは負担になるでしょう。それなら、存在していることが役目である私が繋ぎをやるのが無難よね。どうせ、お人好しのあなたのことだから、精霊も回復させると言うのでしょう?』


『お前には面倒をかける』


 青龍様は微笑んで、白虎様の頭を撫でる。


『構わないわ。望んでやっていることだとしても、あなたは光帝を守ることを一人で行っているんだもの。有栖の手助けくらいするわ。……そうね、まずは手始めにこの子に聖水スキルを貸してあげれば良いのかしら? これがあればだいぶ浄化も進むでしょう。人柄もわからない博打のような聖女に渡すよりも、この子に渡した方がこの世界のためになるわ』


 聖水スキル?!

 聖女が持つべきスキルなんじゃ……。


『我からも頼もうと思っておった、先に提案するとは相変わらず話のわかるやつよ。いいか、有栖の末っ子よ。聖水スキルを持つ資格者としての最低ラインは清潔変化を持っておることなんだ。

浄化スキルは一定の期間経てば現れる故、聖水スキルが与えられることが多かったが、本来なら清潔変化の持ち主にも与えて良いスキルなんだ。しかし、浄化スキルとは違って、狙って行動して得られるスキルではない。よって、取得は浄化よりも難しいスキルだ。つまり、該当者がいなかったため、与えられなかったのだ』


 浄化スキルより、入手困難な後天性スキルって本末転倒じゃないか!


『低下した能力だとしても安易に与えられれば、悪意のある人間に悪用されるのよ。それは後天性でも、先天性でも、血縁性でも同じ。清潔変化は、ふるいにかけるのが必要なスキルなのよ。聖水スキルを与えることで、より悪意が近づいてくると思うと申し訳ないけれど』


 この世界には聖水がないようだ、そのためスキルを使って生み出すしかないってこと? それなら、良い考えがある。


「聖水を普及すれば良いのです。僕がスキルで作った聖水ではなく、模倣した聖水を普及するのです。そうすれば、悪意を浴びる回数も少なくなるかもしれません」


 聖水のレシピを生み出すのに、最適な人物がここにはいる。


「話の詳細まではわからんが、儂が聖水とやらをレシピ化すればいいのだな? れいちゃんを悪意から守るために」


 わぉ、さすがは朱基さん。

 聖獣二方に対しても、いつもの調子だ。


『あえて、普及して錯乱させるのね。面白いことを考えるわ。いいでしょう、その者に聖水の模倣品を作らせて広めなさい。もし上手くいかなくても、廃れらせる方法はいくらでもあるわ』


 上機嫌でそう言った。

 そのあと、僕の両頬を両手で包み、額と額を合わせた。

 ……あったかい、何かが流れてくる。


 数分くらいして、青龍様は僕から離れた。


『さて、さっそく有栖の領土へいきましょうか!』


 うきうきのところ申し訳ありませんが、


「このひどい土地をなんとかしてからです」


 僕ははっきりそう言いのけた。




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