土地を回復しよう!
「あーはっはっはーーー!!!」
奇声をあげているのは、言わずがもがな季水くんである。
鍛練になると言って、休みもせず木を刈り尽くしている。
……脳筋。
これが有栖家時期当主とは頭が痛い。
まあ、お父様は微笑んでらっしゃるので大丈夫だろう。……多分。
一種のランナーズハイのおかげか、それとも僕の菜園より広さがなかったおかげかはわからないけど、ものの3時間で木がなくなった。
草刈りに慣れている従魔は、3時間もあれば僕の菜園よりも規模は狭いので草刈りも終わらせた状態である。
そこからは斧と鎌から、くわへとバトンタッチ。
くわを扱えないスライム組は跳ねて、耕すのを応援している。……日頃から、くわで耕すのが慣れているから数時間もあれば、全ての土地を耕し終わるだろう。
さて、とりあえず調合は朱基さんとお父様に任せて僕は伐採された木の元へと向かう。この土地を回復させるための実験だ。
まずは清潔草で綺麗にした水をじょうろに入れ、回復ポーションを入れる。この水をかける前に、
「清潔変化」
スキルをかける。
んー、なんとなく綺麗になったような? 何回かかけてみよう。
4回かけた時、手応えを感じたのでじょうろで水をかける。
……これは、かなりスキルを使うことになりそうだと、額から一筋汗が流れる。
もし、聖女がいたとしたら。
僕より簡単にこの土地の浄化ができていたのかもしれない。……ううん、こんなことを考えるのはよそう。
「零、出来たぞ!」
チート、そう呼ぶなら季水くんのことを呼ぶんだろうなとぼんやりと考える。
「はい、あとは僕にお任せを」
さて、ここが正念場だぞ。と気合を入れてから、大体中央の位置に立つ。
探索スキルでこの土地の地形を頭に入れておいた。あとはその範囲を意識しながら……。
「清潔変化!」
僕らに備わっているのは魔力だ。
僕の魔力がかなり持っていかれたのを感じた。
倒れそうになるが、足を踏ん張る。
「清潔変化!」
千鳥足になりながら、なんとか足を踏ん張った。
「清潔、変化!」
だめだ……、倒れる。
誰かによって支えられた。
何か言っているけど、わからない。でも、僕はやめるわけにはいかない。
これで、最後……。
「清潔、変化……」
そう呟き終わった時には、意識が遠のいていったのだった。
零が倒れた。
どうやら、魔力欠乏症のようだ。
有栖は常日頃からスキルを発動している。そのスキルとは育ちの手のことだ。
そとおかげで魔力が多い家系なんだが、この範囲を複数回スキルをかけたのだから当たり前か。
完全に失ったわけではなさそうだから、魔力が回復すれば意識は戻りそうだ。
零は強い攻撃スキルがない。
少しでも、人より優れた点が存在した方が良い。
現実的と言えるのは魔力量を増やし、人よりもスキル上限を増やして、生存率を高めることだろう。魔力欠乏症で倒れさせないようにするところまで、過保護になってたらこの子はこの世界で生き抜けなくなる。
私よりも過保護な季水も同じ意見なようで、ふらふらになりながらも清潔変化を使う零を支えてはいたものの、使うのを止めなかった。
倒れた後、零を気にしながらも意識が戻った後のことを考えて、零じゃなくてもできる作業を進めているところを見ると成長したなと感じる。
植物を植えるのは零でなければ意味がない。
いつも、植える前に回復ポーションが入った清潔草入りの水をジョウロで撒いている作業をすることにしたみたいだ。……どれ、私はこれでも季水よりも育ちの手の威力が強い。眺めていないで、手伝うとするかな。
重たい腰を上げ、楽しそうに作業をする季水たちの元へと向かったのだった。
目を開けば、頭の痛みを感じる。
それよりこの、もふもふとした感じはコハク? いや、今回は借りた家でお留守番をしていたはずだ。
『起きたか。魔力欠乏症を起こしたようだ、あまり急に体を起こすではない。……随分と無茶をさせたようだ、保護者は魔力量を増やすいい機会だと気にしてないようだったが』
ん?
「せっ、聖獣様を枕に?! 大変申し訳ございません!!」
通りで、上質なもふもふだと思った!
『体を起こすでないと言っただろう、ほれもう少し寄りかかってなさい』
尻尾が、器用に腰に巻きつく。こうなっては身動きはとれない、諦めて寄り掛からせてもらうことにした。
「土地が随分と回復しましたね」
『我にはわからぬが、有栖が言うのだからそうなのだろう。あれからお主は長いこと眠っておった。テントも何もないから、我が背もたれになったと言うわけよ。恩人を硬い地面で寝かせるわけにはいかないからな』
恩人、ね。
僕は調合したり、清潔変化はしたけどほとんどは季水くんたちがこの土地を整備したようなものだ。恩人と言われることをしたかは、疑問だ。皆でしたことだ、皆が恩人ってことだろう。
『恩人と呼ばれるほどのことではないという顔だな。この地から聖女と呼ばれる存在が生まれるとしたら、あと千年はかかるだろう。我の力は、お主がスキルを使ってくれなければ今代と共に死すところだったのだ。これなら恩人と呼びたくなるのもわかるだろう?』
「そんなに力を消費していらっしゃったのですか?」
そうとは思えないくらいの存在感だ。
『理解してくれたようでなによりだ。
眠っている間、お主の兄が地面に回復ポーション入りの水をかけておった。そのおかげで随分と体が軽くなった。
お主が言っていた、我の力でこの土地を生かしているという意味が理解できたぞ。生かすためにも力を使っていたようだ、力の消費が減ったしな』
通りでうちの菜園に近い、空気感だと思った。
まあ、まだ弱々しい感じはするが、植物を植えればなんとかなる、なんとなく思った。
「季水くん、まだ弱っているから回復ポーション入りの水を地面に一通りかけて」
少し声を張れば、離れたところから「おう!!」と元気な返事が返ってくる。季水くんは、僕に頼られるのが好きなのだ。ここは素直に頼っておこう、彼は力仕事が得意なのだから。
「あーはっはっはーーー!!!」
またランナーズハイを起こしてる。
思わず、苦笑いをすると、聖獣様が微笑ましそうにしていた。
『兄が頑張っている間、お主はゆっくりしてなさい』
とても、とても優しい声だった。
「はい」
それから数時間、聖獣様と話に咲かせながら作業を見守ったのだった。
3時間後くらい。
季水くんたちが、あとは植えるだけまで整えてくれた。
お父様も季水くんにも、育ちの手や成長があるはずなんだけど、僕の力は二人よりも強いらしくて、植える作業は僕の担当だ。
優しい聖獣様は、いつ倒れても大丈夫なように側で控えてくれている。……コハクみたいに、優しい方だ。
一つ一つ、聖獣様の容態が良くなるように祈りながら、丁寧に植えていく。植えてすぐに双葉が可愛らしく生えているのは、いつもの光景で順調に土地が回復していることに一安心だ。
『んなぁ?! 芽が出るまで早すぎやしないか』
聖獣様からみても、僕が植えたものの芽が出るスピードは速いようだ。自分にも、誇れる才能があるんだと胸が熱くなる。
僕はいつもより丁寧に、聖獣様のことを思いながら植えていくのだった。
一人で植えたものだから、3時間かかってしまった。夜も遅くなったので王宮で泊めてもらい、朝一で聖獣様の祠に来ていた。
目の前に広がるのは、生き生きとした植物たちの姿だった。
緑陽とまではいかないけど、これでもう自立して、植物が生きられるだろう。
「聖獣様、あとは祠に清潔変化をかけるだけです。僕がまた倒れましたら、よろしくお願い致します」
コハクも心配なので、用事は早く済ませたい。
『任された』
聖獣様は、強く頷かれた。
この方を助けたい。
苦しめる汚れが少しでも多く、きれいになりますように。
「清潔変化」
まだ綺麗にできる上限まで来ていない。
「清潔変化」
まだいける。
「清潔変化」
あともう一回!
「清潔変化!!」
4回目の清潔変化で上限がきた。
……まだ、穢れが残っている。やっぱり浄化には叶わないようだ。
わかっていても、肩を落とす。
『有栖の末っ子よ、我は十分回復した。今代の死と共に力尽きる未来はなくなった。こうなる前からこの程度の穢れは祠についておった。あと数年もすれば、自分で祓えるまで回復するだろう。だから、そう肩を落とすな』
僕の頬に、頭をすり寄せて慰めてくれた。
『有栖の末っ子、有栖零。お主に頼みがある。公にしないと約束する、また年に一度清潔変化をかけにきてはくれぬだろうか』
有栖家は公の場を嫌う。
だがしかし、困っている人を見て放っておけないお人好しだ。
「……天神翡翠に会わないように細心の注意をしてくださるのであれば、聖獣様のお力になりたいと考えております」
数日接してみて、この方が優しく穏やかな方だと思った。そんな方を見捨てるなんてこと、できるわけがない。
『そのように光帝に伝えよう』
その言葉にほっと、一安心したのだった。
『さて忘れぬうちに生命力をその卵に分けてやろう』
一安心したのも束の間、聖獣様がそう言ってきたのだ。まだ回復したばかりなのだ、生命力を分けるのは危険ではないかとおろおろする。
その様子を見て、微笑ましそうにして、
『祠が回復すれば、ある程度は生命力が回復する。そう心配するでない。好調と呼べるまでには時間が必要だが、分けても問題ないくらいの力は回復しておる。それに分けられる生命力の量は決まっておるのだ、他の三体の聖獣から生命力をもらってもその天使が回復する量には足りない。どのみち、精霊たちに会って生命力を分けてもらわなければならんのだ』
そう教えてくれた。
精霊との交渉だと、聖獣様たちのように交渉してくれる人も、交渉をする切り札もない。そう考えると思わず難しい顔になる。
『そう難しく考え込むな。あの事件で、悪影響を受けたのは我らだけではない。精霊も影響を受けておる。清潔変化は生命力を分けてもらう上で良い切り札になるだろう。今は他の三体の聖獣を回復するために、倒れないようになるため精進なさい』
励まされたあと、聖獣様の額にある黄水晶のような石を卵に当てた。
手のひらから強い力を感じる、つまり生命力を分けてくれているんだろう。……これで一歩前進したはずだ!
そのことが、とても嬉しかった。
「はい!」
『さて、王宮へ帰ろうか』
僕らの下に魔法陣が現れ、それを見たときにはもう王宮へと変化していた。
「有栖の末っ子よ、おかえり」
出迎えてくれたのは、光帝だった。
僕は慌てて跪こうとすると、首を振った。
「うるさく言う奴らはここにはいない。ここで出迎えたのは非公式である。礼儀をうるさく言うつもりはない。……それより今回のことだ、盟友を助けてくれてありがとう。私個人から、君に褒美を与えたい。何が欲しい?」
この前、頼んだこと以外に特に欲しいものはない。
それに、僕は聖獣様から対価を頂いた。
「特に欲しいものはございません。私は、すでに聖獣様から対価を頂きました。それ以上望むことはございません。また、私一人で行ったことでもございませんので、褒美は私以外に与えてくださいませ。私はもらいすぎです」
そう答えれば、光帝は苦笑する。
「他の者も褒美を望まなかったから、言っておるのだ。……まあ良い、お主らには助けられた。何か困ったことがおきたら頼りなさい」
……まあ、それくらいならと頷く。
「他の者なら金やら、土地やら、名誉やらを求めるんがな。有栖は欲がないから褒美を与えるときにとても困るな」
困ると言いつつも、とても優しい顔をしていた。




