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謁見


『光帝よ、有栖が王都に来ているようだぞ』


 わざわざ教えに来てくださったのか、相変わらず律儀な方だ。


「そのようですね、門番からも報告が来ています。来てくれていることが奇跡のようなものですから、日程を早めても良いんですが……」


 どうします? と視線だけ向けて伺えば、うむと考え込む。


『謁見には準備が必要なものではないのか?』


「もちろん、他の貴族に対してはそんなことはしません。私は礼儀にうるさくない方ですが、周りが気にしますからね。ですが有栖は別です、謁見に来てもらうことが最優先ですから礼儀がどうやら言っている場合じゃないでしょう。

それに、有栖家の末っ子はどうやら発作持ちだと従者から聞いています、王都に長く止めるのは酷です」


 末っ子は、過保護に育てられていると聞く。

 大切に育てている末っ子に何かあれば、それこそ有栖家の逆鱗に触れることになるだろう。すでに、天神がそれをやらかしたらしい。あれは、完全に天神側が悪いが。

 貴族の上に立つ者として、詫びをしなければならないな。


「胃が痛い……」


『お前は昔から繊細だな、初代と瓜二つだ』


 聖獣は笑って、私の肩に頭を乗せる。

 思わず頭を寄せても、咎められなかった。




「予定が早まった、謁見が3日後になるらしい」


 朝食の時に聞かされた。

 僕は、別に構わないけど……。


「零が発作が起きやすいことに対する配慮だ。さすがは今代、気遣いが繊細だ。喜んで受け入れたよ」


 聞いている限り、横暴な人ではなさそうで安心した。




 3日後。

 目の前には大きな扉、もはや門と言っても過言ではないくらいの大きさだ。


「有栖玲亜様一行が入られます」


 鎧を纏ったガタイの良い二人が、その声を合図に楽々と開けた。

 光帝の前まで歩き、跪いた後、左手を胸に当て、頭を15度下げる。


「頭をあげよ、楽にすると良い」


 言われるまま頭を上げ、全員立ち上がる。


「今回は長年の膿であった、山賊の解体ご苦労であった。奴隷紋をつけるなど人とは思えない行い、心を痛めておった故、感謝する。懸賞金を渡したが、褒美を与えたい。何を望む」


 正直、あまり貴族に向かなそうな繊細そうな人だった。心を痛めていたのは、事実なんだろうと思う。それに、聖獣が寄り添うようにいる時点で、契約されていなくてもこの方を主人と認められるくらいの人格者なんだろう。


「発言よろしいでしょうか」


「良いぞ」


「月花にて、天神が契約違反を致しました。弟は精神的に追い詰められると発作を起こしてしまう体質でございます。私は、天神が次似たようなことを行うことを防ぐため、弟に天神翡翠が近づかないようにご命令

をお願い致したい」


 季水くん……!

 自分のために使えばいいのに!


「その願いは、褒美ではない。契約違反を対応するのは、貴族の上に立つ者として当たり前のこと。他に願いはないか?」


 この方、人がいいな。

 それなら、この願いを叶えてくれるかもしれない。


「発言よろしいでしょうか」


 そう発言すれば、一瞬驚いた顔をしたがすぐに優しい顔になった。


「良いぞ」


「ありがとうございます。褒美として、民に学ぶ機会を与えてはくださらないでしょうか? 学ぶことにより、犯罪の抑止力になり、職の幅も広がります。生活の質も向上にも繋がり、結果王都を豊かにしてくれることでしょう。お願い致します」


 学ぶことで、就ける職の幅が広がる。

 そうなることで、生活苦で犯罪を犯し、生活していた者が減る。つまり、子ども安全に生活できる豊かな土地になると言うこと。

 民ばかりが苦しい思いをするのはおかしい。


「発言よろしいでしょうか」


 今まで黙っていたお父様が、不意にそう言ってアイテムボックスから書類を出した。


「うむ」


「こちらを参考に、息子の願いを叶えていただけないでしょうか?」


 そばに仕えていた側近に書類を渡した。

 側近はすぐに光帝へと書類を渡すと、数分目を通した後、


「良いだろう。朱基、お前は何か願いはあるか?」


「零様の願いが叶うことが、願いでございます」


 光帝の問いに、朱基さんは一言答えただけだった。

 書類には慣れているんだろう、ものすごい速さで書類に目を通し、うむと頷いた。


「よくできている。これは末の息子が考えたのか?」


 関心したような顔で僕を見る。


「いえ。私は提案しただけで、それを元に書類を作ったのは父と朱基でございます」


 政策的に未熟な案を、政策にできるまでに仕上げたのはこの二人だ。


「それにしても、この政策はよくできている。私としても、希望のある子らが誘拐されるのをどうにかしたいと考えていた。……緑陽はこの政策を思いつく前から誘拐件数が他より極端に少なかった。そして、職についている国民の人数は他より多い、それを照らし合わせると納得できる。宰相、この案にかける金額を考えてくれ」


「かしこまりました」


 ふぅ……、上手くいったようだ。これで、貴族だけではなく国民も幸せになれる世界に一歩近づいた。


『話は終わったか? 我もその末っ子と話がしたいんだが?』


 光帝に寄り添っていた、聖獣が立ち上がった。


「いえ、これではこちらの利益が後から高くなります。別の褒美をこれから……」


『個人的な空間で敬語なら良いが、お前より立場が低い者の前で敬語は示しがつかないと言っておるだろう。我は敬語抜きで構わないと言っておる。それに、他の貴族ならともかく、有栖はこれ以上褒美は受け取らない。時間の無駄だ』


「ですが……」


 どうやらもめているらしい。


「発言してもよろしいでしょうか?」


 ここで止めなければ、この言い争いは平行線のままだ。お互いにお互いを思いあってのことだから、尚更ね。


「う、うむ」


「我々は国民に学を学ばせる機会を与えるだけではなく、聖獣様に会う機会も頂いております。ですので、十分なほどに褒美を頂いております故、次は聖獣様の言う通り、聖獣様の番だと考えます」


 すると、二人はびっくりしたような顔をした。


『お主、この姿での我の声が届いておるのか。随分と魔物たちから信仰が厚い、生物の声を聞く者だな。……ふむ、我と話したいと願うのも納得よ』


 大正解です、聖獣様。


「私が聖獣様とお話ししたいと思ったのは、この存在が生まれるにはたくさんの生命力が必要なため、力をお貸しして頂きたいと思ったからなのです」


 持ってきていた、スイの卵を見せる。


『これは……!!』


 光帝の側から離れ、近づいてきた。

 僕にしか聞こえないように、囁く。


(……別世界の天使ではないか!!)


 恐らく念話だろう。


「はい、その通りでございます」


『お主がその卵をなぜ持つのか聞かない。その願いの答えだけ述べよう、助けてあげたいが我にはその力がない。我は、こうして光帝の側にいて守れるくらいの僅かな力しか残っておらんのだ。全盛期であれば、緑陽の地を再び、豊かにした褒美に分けてやったが聖女がいない今、それも不可能なのだ』


 ……力が僅かしかない?

 聖女がいれば力が戻るってことは……。


「お耳を拝借しても?」


 そう言うと、不思議そうにしながらも僕の方に耳を向ける。


(清潔変化でも、効果はございますか?)


『お主!! まさか!! あぁ、あるとも! 全盛期の力は戻らないが、生命力を分けても光帝を十分に守れるくらいに効果はある!!』


 少し涙目になっていた。

 ああ、この方は本当に今代を大切に思っているんだと心があったかくなった。この方の力になってあげたい。


「力にならせてくださいませ、聖獣様。私は聖女にはなれませんが、あなたのお手伝いをさせてください」


『その代わり、お主の願いを必ずや叶えよう。だが、我が与えられる生命力はその方を目覚めさせるには足らぬ。そこで頼みがある』


 僕は首を傾げる。

 またしても、念話を飛ばしてきた。

 どうやら、光帝には聞かせたくない話らしい。


(他の聖獣は隠居しているとしておるが、真実は違う。我は光帝を守る契約で姿を保てておるが、他の奴らはその手段を拒み、弱さを見せないために祠で眠りについているのが真実よ。そこでだ、奴らは人嫌いだが有栖には興味を抱いておった。近づく分には拒まれぬだろう、他の奴らの祠も清潔変化をしてやってほしい。その代わり、我が生命力を分けるよう話を通す)


 なるほど。


「お願いしてもよろしいでしょうか? あと、人手は必要なので有栖が関係する者が入ることの許可を頂きたい」


(良いだろう。……僅かに、卵から生命力を感じる。精霊と契約を交わして生命力を分けてもらった経験があるか?)


「いいえ?」


 僕がしていたこととすれば、スイを囲うように植物を育てたくらいだ。精霊とは契約なんて、していない。


「僕がしたことは、スイを囲うように植物を育てたことくらいです」


『……生命力が植物を育てることで回復するなんぞ、聞いたことがない。とりあえず、我の祠へと来てもらおう。お主の周りは過保護な人間が多そうだから、皆連れて行くとしよう』


 床に大きな魔法陣が描かれる。

 えっ、と思った時にはもう、目の前の光景は変わっていた。


「これはひどい」


 思わずつぶやいてしまうくらい、聖獣様の土地は痩せていた。一見、木も草花も咲いているけど、これは聖獣様がいてこそ咲いているんだと思う。そうじゃなければ、木も草花も咲かない土地だった。


「聖獣様」


 僕は跪き、胸の前で組んだ。


「お願い致します、この土地に有栖家が手を加えることを許してください。そうでなければ、この土地は聖獣様の命が尽きたときにこの土地の寿命も尽きてしまいます」


 僕にはわかる。

 この土地は、悲鳴をあげている。

 早く手を加えてあげないと、いつ木や草花が咲かなくなるかわからない。……たとえ、聖獣様の力があっても枯れた土地になってしまうかもしれない。


『……我の力によって、なんとか咲かせられていると言うことか?』


「はい」


 僕は力強く答える。


『わかった。有栖にこの土地を回復させる権利を与えよう』


 その言葉に、息を吐き出す。


「ありがとうございます。この土地にある木や草花は汚染されています。総入れ替えしても構いませんか?」


『ああ、構わない』


 そして、立ち上がり季水くんを見る


「力仕事をすれば良いんだな、耕す前に木を伐採するそれで良いな?」


 その言葉に強く頷く。

 ブレスレットが光り、中からリトルベアとメイプルベアが現れた。リトルベアは、僕もやるぞ! と言わんばかりに斧を握りしめていた。

 愛おしく思い、頼むよと言う気持ちも込めて、手を置くように数回、頭を撫でる。


「僕は、回復ポーションを大量生産します。お父様と朱基さんは手伝ってください。メルとミツは薬草を鎌で刈っておくように」


 メイプルベアとリトルベアは、僕が手入れを見ている姿を見様見真似で手伝いをしてくれている。メイプルベアの2匹は、菜園でも草取りや薬草取りをしているから、2匹に任せてもきっと大丈夫。

 そう考えていると、またブレスレットが光り、ハッサクとサクアが出てきた。やる気満々のご様子に僕は思わず微笑む。


 栄養が足りてない薬草を刈るのはメイプルベアとスライム組に任せるか。そう思い、アイテムボックスから鎌を渡していったのだった。



ここからは平日毎日更新は難しそうです。

目標の10万文字は達成できたので、話ができ次第の更新となります。

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