特別なスライム
夕ご飯を食べた後、さすがに鍛錬をするわけにもいかず札作りをしたり、調合したり、勉強したりしている。
その間、従魔のみんなは暇していて、ハッサクやサクアが何か作ってはアイテムボックスにぽいぽい入れてたなぁって思い立って、不意に確認してみたんだよ。
謎の桜餅に、香水や石鹸が入ってたのよ。
前世のスライムって消化が発達していたようが気がするんだけど、この世界では違うのかな?
ステータスを確認するか。そう言えば、色々あって確認できてなかったし。
ハッサク
ほのかに柑橘類の香りがするオレンジ色のスライム。
スキル
調合(香水、石鹸担当。ただし、香りは問答無用で柑橘類の匂い)
お菓子作り(ただし、柑橘類の菓子しか作らない)
柑橘投げ (柑橘類の果物、ただしそれはレモンに限る。目にぶつけ、果汁を眼球に浴びせシバシバさせる。地味にHPが減る)
ユニークスキル
柑橘類生産(地球産の柑橘類を召喚する)
この世界のスライムは生産系なの?
いやいや、明らかに違うよね? ユニークスキルに地球産の柑橘類を召喚するってあるし……、明らかに僕がテイムする前提のスライムだよ、これ。
ユニークスキル、安易に使えないよ……。
これは、朱基さんに相談案件だ。
サクア
桜色のスライム。1週間に一度桜餅を贈呈してくる謎のスライム。
スキル
お菓子作り(しかし謎に桜餅縛り。桜餅は作るのに時間はかかるが、絶品。
ほんのり桜の香りがするお餅しか作れない。なぜかわからないが、お餅は大量生産可能。自分で自分のお餅を食べられる)
投げる(何を? もちろん、出来立てのピンクのお餅ですよ。突き立てなので、とてももちもちです。)
共食い(何を食べるかって? そりゃ、餅に決まってるじゃないですか。食べたあとは餅の量によってサイズアップします。)
ユニークスキル
桜の羽衣(マスターの危機が起きた時に、桜で出来た羽衣で発動する捕縛スキル。)
2匹とも、前世のスライムとなんか違う。
ここまで違うと、前世のスライムの知識は役に立たない系ですか? 混乱してきたので、まだ夜遅くではないから、朱基さんの部屋に突撃だ。
「スライムの能力じゃと? 消化じゃよ」
しれっと求めていた答えをくれる朱基さん。
「アイテムボックスに見知らぬアイテムがあったので、この子たちのステータスを確認したのですが、消化の能力が一切なくて」
ふむ、と改めて観察し始めた。
「ユニークモンスターじゃろうな。色合い的にもそうじゃろうとは思っどったが」
へぇ。
モンスターって言わないのに、そこはユニークモンスターなんだと関係ないところに気を取られつつ、それならステータスが変わっててもおかしくないかと思うことにした。
「ここまで品数があるなら、冒険者ギルドに売ってはどうじゃ? 桜餅はさすがに売れないが。零のアイテムボックスに入れているんだから、有効活用して欲しいんじゃろうし」
ハッサクが触手で丸を作った。
本人が良いと言うなら、まあいいか。
「明日売りにいきます」
琉陽が予定があったので、ゆうにギルドカードを渡して、代わりに売りに行ってもらいました。
ゆうは有栖家で働いていることは知られているのですんなり買取の手続きができたそう。ついでに、たまりにたまった回復ポーションも売ったおかげで、数があったのでかなりの額が入ってきた。
今日も朝の鍛錬をお休み。
理由は、三つ子が暇していたから。
「零さまっ、これレトの実でしょっ! ボク、零さまのいうとおりによしゅー、ふくしゅーしてるからおぼえてるよっ!」
「うん、正解。よく覚えているね」
三つ子の三男、咲乃の勉強報告を微笑ましく思いながら、実際に食材系のものは全て覚えられているからちゃんと褒めておく。
すると、へへっと照れ笑いを浮かべる咲乃を見て、さらに心が温かくなった。
僕が指定した植物を探して、見つけたエリアの数字を書くクイズをしている最中なんだけど……、頭の良い三つ子はすでに全部終わって僕の側からべったりとくっついて離れないんだ。
従魔たちは思い思い、仲の良い保護した子たちと遊んでいる。それを眺めるだけなのに、そばから離れないかわいい子たち。
それじゃあ、普段と変わらないから軽症作りに使うものを回収を手伝ってもらったんだけど、優秀だからすぐに終わると僕のもとに来ちゃうんだよね。
諦めて甘やかすことにする。……優秀とは言え、3歳児には変わらないからね。
その結果、芝生に座る僕の右腕に咲良、左腕に咲乃に抱きつかれ、僕の足にしがみつくように横になっている咲斗と言う状態になってしまった。
ゆうは隣でクスクス笑っているだけ、……もう好きにしなよ。
諦めの境地にいると、
「零様、零様の温室の植物はとても質が良いですね。土も良く、水も良いのは何故ですか?」
完全に甘えん坊モードままの咲斗から質問が聞こえてきた。この子は年相応に甘えにきたと思ったら、質問内容は大人びたまま。……彼の知りたいことに答えれるのは今のうちだけだろうし、だからこそこの時間を楽しみたい。
「それはね、多分回復ポーションを水やりの水に混ぜたり、栄養剤の代わりに回復ポーションを土に混ぜたりとかしてるからだと思うよ。気になるならスキルで確認してきてもいいよ?」
そう言えば、少し考えるような素振りをした後、
「今度にします」
年相応の可愛い感じでそう言われれば、その今度の機会を作ってあげたいなぁとは思った。
この子は甘えられる人が少ないから、甘えてくれるうちは甘えさせてあげたいなぁ……と考えていると、隣からゆうのクスクス笑う声が聞こえる。
「使用人でさえも、甘えてくれないと言うのにまるで母猫に甘える子猫みたいです」
子猫、ね。
「……いつまでこの子達は僕に甘えてくれるんだろうね。いつか僕離れをする時、苦労するのは僕の方かもしれないね。寝る時以外の自由時間はこの子たちがそばにいるから」
僕の方が依存しやすいから、それは前世むかしから変わらない。僕の方が子猫の方に依存しているんだ。
……前世の記憶はあまり思い出せないけど、そうだった気がする。
「彼らはずっと貴方に甘えたいと望むことでしょう。彼らにとって貴方は家族よりもっと深い絆として結んでおきたい存在であるようです。
ですから、彼らから貴方から離れることはまずないでしょう。彼らの愛に対しての飢えは例え愛する人が現れようとも、心を許せる友人が現れようとも、貴方がいる前提で満たされるのですから。
それは私も同じ思いでございます」
にっこりと優しげに微笑んで、そう教えてくれた。そのとおりだといいなと考えてしまいそうになるのを避けるために、僕は甘えている彼らに新しいことを教えることにした。
「回復ポーションの品質の高め方を今日は教えてあげようか。これでもう少しは品質を高めたことで、生活が楽になると思うよ」
「「「うん! 知りたい!!」」」
知識欲が強い彼らはすぐに甘えん坊モードから切り替えて、知識を知ることに強い関心を向けてくるようになったから、思わず苦笑しつつ、
「ちゃんと覚えるんだよ」
三つ子に言い聞かせれば元気な声で、
「「「はーい!」」」
そう返事をしてくれた。なんていい子達なんだと考えつつ、
「回復ポーションの品質を上げるには……」
僕がどうやって品質を上げているのか、回復ポーションの品質の向上と薬草の品質の高さの向上を一通り説明した後、ちゃんと理解できているか、3人で話し合ってもらって聞かせてもらった。
しっかり理解出来ていたので、実践して身につけてもらおうと回復ポーションの材料を回収する作業から始め、教えた通りに作業をしてもらい、問題なく品質を向上させることが出来ていたから合格を出してあげることが出来た。
ほんと、彼らは優秀だ。
その後は軽食を取り、数時間後には簡易キッチンで一緒にご飯を作った。昼食にはハッサク達も参加し、楽しい昼食になったと思う。
夕食前まで鍛錬をこなした後、いつものルーティンを終わらせ、食堂に向かった。いつもはまちまちしかいないのに、きちんと全員が揃っていた。
「光帝から来るように呼ばれた。
零の支度はゆうがすませている、急だが明日に出発する」
本当に急だった。
リメイク前の話で、好きな話で、個人的に入れたかった部分を後半に入れました。前は4歳編はあっさり終わっていたんですが、思ったより長くなりそうです。
4歳編で10万文字、確実に超えそうです…。