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札結界(その3) 


 そう、唐突に舞い降りてきたのだ。

 集中力を切らさなければ、手書きじゃなくても良くない? と。

 偶々、一緒に食事を摂っていた朱基さんを見る。


「また、舞い降りてきたんじゃな?」


「集中してれば手書きじゃなくてもよいのでは? 捕縛は縛るをイメージして縄のような文字の見た目で、判子を作る。負荷は重石をイメージに石で判子を作れば十分発揮できるのでは?」


 うむ、と呟く。


「理論上は可能だ。だが、判子は専門外じゃ」


 うー、いい考えだと思ったんだけどなぁ。

 がっかりしていると、思わぬところで鶴の一声が上がる。


「うちの職人に頼めばいいじゃないか。ちょうど零の部屋のリフォームをしてるんだから、追加料金を払えばやってくれると思うぞ。そう言う変わった案件が好きな連中だからな」


 お父様が、さも当然と言うかのように言う。


「お父様……!」


「任しておきなさい、うまく伝えておこう」


 どうして有栖の人間は末っ子にとことん甘いんだか、と小さく呟いてるの聞こえてますよ! 朱基さん!

 どう伝えたのかはわからないけど、僕のイメージ通りの判子がお昼には完成していた。感動で、お礼と同時に職人さんを抱きしめていた。


 ……つい、恥ずかしい!


「喜んでいただいて何よりです」


 優しい職人さんで本当に良かった!



 さて、今日は鍛練を始める前に、使える札かを確かめる作業から入ります! 今回用意したのは負荷、捕縛の札です。

 ついでに、とある工夫をつけたものを用意したよ!


 協力してくれるのは〜、


「零の武器に、誤作動があったらたまったもんじゃないからな! 喜んで協力するぞ」


 季水くんです!

 あの事件で、ギルドランクがBからAになりました。おめでたいですね!


「実験しなくても、鑑定だと使える札だと出てたがな」


 過保護すぎて呆れるのもわかります、正直僕も身を削ってまで試さなくても……と思ったよ。スキルが中心の世界だから、攻撃も防御も後天性スキルで補わなければいけないって心配になるのもわかるし、止められなかった。


「まあ、季水にもいい経験になるか」


 ん? どう言うこと?


「じゃあ行くよっ。……負荷」


 鈍い音が地面から響いた。

 うそっ、季水くんを中心に地面がへこんでる……。


「……えっ、あれまずくないですか?」


 想定していた負荷じゃないよ。


「集中して、全体重をかけて押しているわけで。なによりも判子の素材が石だ、重くて硬いイメージがあるじゃろ? これくらい強い負荷になるとは想定しておったよ。……だから言ったろ、季水にも良い経験になるって」


 解いてやれ、と言われるがまま紙を破く。

 しゃがみ込んだ季水くんに駆け寄れば、かなりの汗をかいていた。


「季水くん……」


「……零、捕縛の札の実験がまだだろ? 零に持たせる武器なら、ちゃんと実験してからじゃないとな!」


 嬉しいよ、嬉しいけど!

 朱基さんの言葉通りなら、捕縛も強い威力になると思われるんだけど。

 知っちゃったからには、札を使うのも躊躇う。


「れいちゃん、大丈夫じゃ。捕縛はあくまでも捉えることが目的。逃げられないことに特化しているだけで負荷のように季水に負担はない」


 季水くんは一度決めたら、引かない。僕が折れなきゃ、このまま平行線のまま時間が経つだけ。

 ……朱基さんの言葉を信じる。


「……捕縛!」


 札から縄が飛び出し、季水くんに巻きつく。

 朱基さんの言う通り、負荷よりは苦しそうではなさそうだ。そのかわり、どう足掻いても直立不動で動けないみたいだけど……。


「……これなら、逃げる時間も稼げるか」


 珍しく静かに呟いて。


「筋力成長」


 季水くんの肩幅が明らかに広くなっていき、縄がすごい音を立てて切れる。いわば、ボディビルダーの食事制限する前みたいな体型から、一瞬で元に戻る。

 僕は呆然と、季水くんを見る。


「まあ、相当強化スキルを鍛えてなきゃ、この捕縛は破れないだろうな! 俺みたいに、攻撃の成長スキルがあれば別だけどさ!」


 いてて、と呟きながらそう言った。


「どこか怪我したの?」


 駆け寄って確かめようとしたのを、朱基さんに止められる。


「筋肉痛だ。急激に筋肉を成長させることで起こるんだ。……季水、お前も強化スキルを持っているだろう? とっておきを使わないと破れないとは、強化の修行が足りてないな。筋肉成長は頼るな、ないもだと思えとAランクになった時に言ったろ」


 あらら、とても怒ってる。

 まあ、それもそうか。筋肉は傷つけて、修復することで筋肉量が増える。いわば、チートしているようなものだ。

 だから、とっておきとされているんだろう。まあ、季水くんのことだから、弟の前でかっこつけたかっただけだろう。今できることは、ただ一つだよね。


「タンパク質を摂らないとね」


「いや、そう言うことじゃないんだが」


 どう言うこと?


「やってしまったことはしょうがないじゃないですか。今できるのは、筋肉をつけることに繋げることですよ!」


 そう言えば季水くんは大爆笑、朱基さんはため息をついた。……え、なんで?


「零に免じて見逃す。次、それに頼ったら一から鍛え直すからの」


 話がまとまったようで何よりです。

 ……実はまだ、思いついたまま作った札があるんだけど、季水くんが満身創痍なので、なかったものとして隠しておこうっと。

 無邪気に作ってた、自分が恐ろしい。


 捕縛、負荷の札を、墨汁を麻痺状態を追加したもので作った札があるだなんて言えない。これを言ったら意地でも季水くんは、自分で実験しろって言うはずだもん。

 こんなに効果が強いだなんて聞いてないし!

 これは後で、朱基さんに鑑定してもらうとして。


 まだ隠し持っていると季水くんだけには察しられないように振る舞い、見送った後。


「……さて、れいちゃん。まだ隠しておるな?」


 さすが、年の功。

 季水くんは騙せても、朱基さんは騙せないようだ。

 抵抗せずに、自分でも恐ろしいと思う札を素直に差し出した。

 見せた瞬間、ため息をつかれました。


「とんでもないものを作りおったな。……これはとっておきだ。儂以外には極力言うな、もちろん家族であってもだ。零に持たせる武器なら自分が試すと良いかねないからのぅ」


 ですよねぇ……。


「咲斗、思いつくまま作るとこのようなことになる。零は自分だけ使うからまだマシだが、お前は違う。作る側だ。これを作って、未来にどのような影響を与えるのかを考えてから作るようにしなさい」


 ごめんなさい、迷惑をかけているのは自覚してます。

 ……いつの間に咲斗いたの?


「零様はしょうがないだろ、後天性スキルで自分を守らないといけないんだから。過剰に付加しちゃうのもしょうがない。そこまで言わなくて良いだろ」


 うずくまって反省する僕を、前に立って庇ってくれた。

 ……いや、朱基さんは僕の性格を理解して言ってるから、彼が正しいのはわかってる。この恐ろしい札だって、思いつくまま好奇心で作っちゃったわけだし。自分を守るために、過剰につけちゃったわけじゃないんだよ〜。


「多分、思いつくまま作っておるぞ」


 はい、大正解!


「……過剰戦力くらい持ってもらわないと困る。この人たちを傷つけられて失ったらおれ、未来を気にしないで作るよ。……いいの?」


 顔見えてないけど、多分本気で言ってるこの子。

 ……月光島を滅ばさないためにも、強くならなきゃ。なんとなく、有言実行しそうな感じがするんだよね……。


「困るから、思いのまま作るのを止めてないんじゃろうが」


 ……頑張って、強くなります。



 朱基さん曰く、僕は小柄のまま育つ気がするらしい。なので、スピード重視の戦い方を極めろとのことだった。

 基本的には遠距離攻撃でいて欲しいみたいだけど、突破された時に攻撃手段がないのは困るから、その方針で行くみたい。

 長めのナイフの二刀流の鍛錬をしている。

 あとは、飛翔靴での模擬戦とかね。


 それをほぼ毎日夕ご飯まで鍛錬し続ければ、多少はみんなを安心させられることができるかな? パニックを起こさないのも、そうだけどね。


 実戦もした方が良いんだろうけど、周りの様子ではしばらくむりそうかな?



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