札結界
眠りこけて次の日。
精神的なものなので、鍛錬を再開して良いと言われたことにホッとする。
自分で言うのもあれだが、些細なことをきっかけに頻繁に起きるので、毎回休養しては鍛錬が進まないと思っていたのだ。
その代わり、朱基さんが開発した魔法具を胸と手首につけることになったんだが。毎回心配させるのも申し訳ないので、ちゃんとつけてますよ。
今日は季水くんと一緒に午前中に勉強をしました。どうやら目標ができたと言うことで、今までの進捗状態から比べると、倍速といっても過言ではないくらいの速さで勉強が進んでいた。
目標があれば、勉強ができる人なんだなと感心した。……目標は何かは教えてはくれなかったけど、なぜ?
僕も人生二度目ですので、かなり勉強が進んでるけど……、いつ発作が起こるか分からないので、進められるところまで進めることにした。
あとは、一応光帝に招待されているのでマナーの確認とかを午前中いっぱいしました。
午後から鍛練。
「さて、今日から札結界の鍛錬と行こうかの」
僕は結界を引き継ぐのに、別の防御手段を身につける必要があるのかな? と首を傾げる。心を読んだかのように、朱基さんは続けた。
「伝承性スキルは表舞台からないものとされている。そんなスキルがあれば誰だって身につけたいだろう? そうなると、無駄な争いが生まれる。それを避けるために、隠れ蓑が必要なんじゃ」
なるほど。
「納得してくれたみたいじゃの。
札結界を使うためには、札結界のスキルだけではなく札術というスキルが必要なんじゃ。まずは鍛練と行く前に『札結界』と『札術』の説明といこうかの。まずは『札結界』から説明した方がわかりやすいじゃろうか、これを見てくれ」
札結界とは?
文字により、札で結界を張ることができる結界のことで、カウンター付きの結界も張れる。ただし、カウンター機能をつけるためには札結界以外のスキルが必要となる。
注意すること:弱点は札は紙なため、火系統の攻撃には効果はない。
集中して書いたものでなければ発動しない。
差し出された紙に書かれた文章を素直に読んでいくと『札結界』について詳細がわかりやすくまとめられていることが伝わってくる。
……ここまで丁寧に説明してくれるとは、本当にマメな人だな、と考えながらさらに読み進めていく。
札結界とは、後天性スキル特有のものではない。札結界は、血縁スキルの『結界術』の劣化版とされている。
札での結界だけではなく、動作により、結界を張るため、火系統の攻撃の弱点がなくなった。
……ふむふむ、なるほどね。伝承性スキルの『結界』は気を使う、『札結界』は札を使う、『結界術』は動作による発動……と言うことか。
後天性スキル一覧表にはここまで詳しく載っていなかったから、ここまで丁寧に説明してもらえるのは正直有難い。
「さて、結界の種類のことは儂が実際の札を見せながら説明していこうかの」
読み終えたことを察したかのように朱基さんは、いくつか札を机の上から出した。
出された札には、《防壁》《土防壁》《水防壁》《風防壁》《四天》《三天》《円陣》と書かれている。
……結構種類があるんだな……。
後天性スキルの中でも有能なスキルかもしれない。
「札結界は、1枚の札から結界を発動することが可能だ。しかし、1枚の札に与えられた防御力は小さい。が、その防御力を増やすことは可能で、強化するために札を追加するたびに防御力は高まるのが札結界の良いところじゃ」
……じゃが、と朱基さんは呟いた後、
「しかしな、札結界には難点があってのぅ。大量の札の所持とその札を用意するためには〝集中力〟が必要なのじゃ。〝集中力〟の切れた時に書いた札はただの紙切れなんじゃよ、そこは気をつけるように」
有能なスキルであっても、気難しいスキルなんだなぁ……、このスキル。持ち物も多くなるし、気難しいスキルときた、多分使用している人は少ないかもしれないな。
同時にこのスキルを使いこなせるようになったら、武器になるとそう感じた。
物にすれば、かなり戦いやすくなるかも。
「まずはこれじゃな。《防壁》と書かれた札の説明からいこうか。防壁陣は名前の通りなんじゃが、物理攻撃に効果的とされておる。まあ、さっきも言った通り攻撃が増すごとに、防壁と書かれた札を追加していくと防御力が更に増すと防御力は上がるぞ」
なるほど、防壁陣は物理攻撃。じゃあ、属性陣は属性のある攻撃から守るってところか。
となると、攻撃手段で札結界の種類を変えていかなきゃダメなのか、それなら札の入れ物についても考えないと効率が悪いか。
「次に《土防壁》《水防壁》《風防壁》の札は属性陣と呼ばれておる。スキルにも必ず属性と言うものがあるんじゃ、まあこれはあまり知られておらん知識じゃがな。大半のスキルは無属性であるが、時より四大元素+光と闇などの属性付きスキルから守るための札じゃ。……あとは属性の付加スキル付きの武器からの攻撃から守るための結界じゃな。結界の強化の仕方は防壁陣と同じと考えてくれて良い」
やっぱりね。効率良くするために札の入れ物について考えることは必要だなぁ、この後相談するとする。
遮ってまでする物じゃないしね。
「次に説明する《四天》《三天》《円陣》は似たような結界だから一気に説明していく。この3つの結界は、あらかじめ下準備をして地面または床、建物に張るような結界とされておることは共通していると理解してくれ」
なるほどね、設置型の結界もあるのか。万能だなと考えながら、そのまま朱基さんの話に集中する。
「まずは《四天》と書かれた札で作られる結界のことを四天結界と言う。四天結界は立方体か直方体の結界が張れるとされておる。主に一部屋全体か、家全体を張るものとされていてな、主に建物があるところで張る結界じゃ」
「なるほど」
「次に《三天》と書かれた札は、三天結界と言って地面または床に、自分または結界を張りたい対象を囲うように三角になるよう札を置き、発動させる結界といわれとる。最後に、《円陣》と書かれた円陣 八枚の円陣と書かれた札を円になるように結界を張りたい集団全体を囲うように札を置き、発動させるのじゃ。複数人用の結界とされておる」
設置型の結界か……。あんまり、戦闘には不向きだな。使い所を間違えないようにしないと!
まあ、でも討伐系の依頼では救護班として活躍する分には役に立ちそうだけど……。
「本来なら、お前は『札結界』のみ取得しようとしていたな。……それは『札結界』の効力をわざわざ半減させているようなものよ。爺がお前くらいの頃は、『札結界』を学ぶ子らには、とある後天性スキルを同時に学ばせておった。それが使えるからこそ、『札結界』はスキルとして成り立つのじゃ」
ああ! さっきのカウンターを札結界につけるためには、他の後天性スキルが必要ってやつか。
攻撃のカウンターができるか否かで、そんなにも札結界の効力が変わるのか、と思わず関心する。
そんな僕の内心を察してか、朱基さんは続けて、そのスキルについて教えてくれた。
「『札結界』の効力を半減させないために覚える後天性スキルのことを、『札術』と言う。ちと、この紙に書かれた説明に目を通してくれ」
言い終わったと同時に差し出された紙を受け取り、言われるがままに目を通す。
札術とは?
後天性スキルである。
札結界をより強固にするために必要なスキルで、カウンター機能をつけるためには必須なスキルとされている。
基本的なもの札は、3種類。術者の工夫次第ではオリジナルで札を作ることができ、カウンターに工夫を加えるならば、オリジナルの札は必要不可欠。
攻撃は出来ないが、札術のみで使用することも可能とされている。
……オリジナルの札を作れるんだぁ! これは研究心がくすぐられる!
「……お前は賢者向きな性格をしておる。儂の知り合いにも賢者がいるんじゃ。あやつはお前のように社交的ではなく、愛想はなかったが、研究課題を出された時のあのキラキラと輝いた目がお前と一緒じゃった」
染み染みと言った様子でそう言う朱基さんに、僕は苦笑いを浮かべて、
「僕には賢者に必要な先天性スキル、『検査』がないから賢者にはなれません。それに賢者には『検査』だけじゃなくて、先天性スキルの『探索』と『鑑定』が必要不可欠だから、なりたくても僕には賢者になる資格はないです」
前世は恵まれていたのだ。
確かにスキルという存在はあったが、このスキルがなければ研究者になれないということがなかったから。
なんて考えていると、朱基さんはいきなり我に返ったかのような顔をして、机の上に《反射》《強化》《負荷》と書かれた三枚の札を並べた。
「すまん、すまん。札術の種類について説明せずに違う話をしておった。まずは反射札から説明していこうかの。反射札とは、《反射》と書かれたこの札じゃ。この札はのぅ、相手が攻撃した攻撃力の半分くらいをカウンターで返すことが出来る札じゃよ。結界にカウンター機能をつけるには必要不可欠な札のことよ。必ず覚えておくように」
1枚1枚、実際の札を見せながら教えてもらえるのはわかりやすく、すんなりと頭に入ってくる。理解したことを頷くことで示せば、朱基さんは満足げに頷き、説明を続ける。
「おっと、先に説明しておかなければならないことを忘れておった。『札術』とは、基本的には『札結界』の補助をするためのスキルなのじゃが、単体でも使用することが可能じゃ。それの礎となるのが今説明しておる3枚の札、《反射》《強化》《負荷》と言うわけじゃ」
なるほどね。《反射》《強化》《負荷》と上手く〝自分のオリジナルの札〟と組み合わせることで、『札結界』の補助の役割だけじゃなく、『札術』のみでも使うことができると言うことかな。
「さて、話を戻すぞ。強化札とは、《強化》と書かれておる札のことじゃ。防御力の強化ではなく、札結界を強化した時にそれを維持する時に必要な術のことを表しておる。……ここまでは理解できたかのぅ?」
理解できたことを示すために、再び頷けば説明をさらに続けた。
「最後は負荷札のことを説明しよう。負荷札は、札に《負荷》と書かれた札のことよ。オリジナルの札と組み合わせて使うことで、結界に攻撃することで負荷がかけられるのじゃ。負荷をかけるためには反射札と負荷札を同時に使用する必要性がある。……これで、大体のことは理解できたかのぅ?」
「うん、大丈夫。『札結界』と『札術』については理解できた。朱基さん、この2つのスキルには関係してはいるんだけど、スキルの内容とは関係ない話なんだけど……、良い?」
そう朱基さんに聞くと、不思議そうな表情を浮かべながらも、「構わんよ」とそう言ってくれた。
「朱基さん、あのね……?」
自分がこう発言することで、家庭の出費が増える未来に申し訳なさを感じながら、話を切り出したのだった。