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この世界の従魔事情

 

「保護された人たちはどうなりましたか?」


 そう言えば、これだけは聞かされていなかった。


「奴隷紋をつけられていたため、大人は情状酌量の余地があるため、数年の牢獄行き。釈放された後は、孤児院に行った子どもと合流できるようには手配している。釈放後の就職先も用意済みだ」


 数匹、孤児院の子らから離れない魔物がいた。

 その子たちは、どうしているの気になった。


「孤児院の子らに引き取られた、魔物たちはどうしてます?」


 痛みを知っている、子どもたちが魔物を恐怖で従わせるとは思えないが、心配だった。

 前世では、毒親に育てられた子は毒親になりやすいと聞いたことがある。それは、そう言う愛され方しか知らないからだとどこかで聞いたことがある。だから恐怖で支配している姿を見て育っているから、心配なのだ。


「零が心配しているようなことは起きないよ」


 考え込む僕に、優しく微笑む。

 ……それはどうして?


「恐怖で支配しても、魔物たちは言うことを聞かない方が多かった。それなのに、魔物の心に寄り添って接していた零の頼みごとはすんなりと受け入れていた。それを見て、テイマーは絆の力なんだねと魔物を引き取った子は言ったよ。

だから、あの子たちは大丈夫」


 僕はその言葉に、涙ぐむ。

 この世界での従魔のヒエラルキーはとても低い。

 奴隷紋をつけられていなくても、まるで奴隷のように扱われている。暴力と言う恐怖で支配して、力を出させようとするのだ。


 それではだめなんだ。

 恐怖での繋がりでは、本気の力を出せない。


「良かった、良かった……」


 僕のように、恐怖で縛られて家族以外とは接しられない孤独な生活を強いられるような目に遭わないようで。

 ……え? 僕今なんて思った?


『お兄ちゃんは私と結婚するの、他の人たちと関わる必要ないよね?』


 不意に、そんな声が脳内で響く。

 僕は理由はわからないけど、その声が怖くて怖くてしょうがなくて引き攣ったような音が喉から鳴る。


「……怖い、怖い。誰とも結婚しない」


 僕はそう言い聞かせる。

 気づいていなかったが、その言葉は口に出していたようで、お父様が険しい顔をしていたなんて落ち着かせようとしていた僕は知らなかった。

 それから、僕は気絶するように眠ったのだった。




 零がパニックを起こして、疲れて眠ってから半日が経った後、


「ただいまー」


 季水と朱基さんが戻ってきた。


「どうでした?」


「まあ、れいちゃんが考えた作戦のおかげで結果は上々じゃな。儂と季水、冒険者数名の構成だと過剰戦力と言えるくらいだったのぅ。子どもの保護は季水のおかげで上手くことが運んだが、魔物の保護はれいちゃんがいないと難しくてのぅ、れいちゃんに頼みたいんじゃが」


 零の発想力には驚かされる。齢4歳にして、作戦を考えたことでの貢献でギルドランクをあげたのだ、その発想力は才能と言えるだろう。

 だが、緑水の位の血筋が故に攻撃スキルが全くないのと、朱基さんの言葉を借りると「魂に傷がある」ことが心配で、ついつい過保護になってしまう。


「さっき、パニックを起こして眠りについたばかりなんですよ。今日1日は安静にさせておきたいのですが……」


 思案する顔をした後、


「儂が住む土地に、転移スキルを持つ者がおる。その者に転移する方角を正確に伝えて、スキルで連れて行ってもらうことで移動の負担は少なくさせるが、今日は安静にしていた方が良いな。

……しかし、思っていた以上に魂の傷が深そうじゃ、れいちゃんの負担を減らす魔法具を開発しよう」


 真剣な表情でそう言った。

 ぜひとも、零の負担を減らす魔法具を開発して欲しい。


「……今回の件関連で発作が多く出てる気がします。恐らく、虐待に近い状況にいたのかもしれません。それから結婚をしたくないとも言っていました。女性に対して恐怖心があるのかもしれません。

零は後継者じゃありませんし、婚約を断ることはできますからその辺はどうにかなりますが、発作を軽くするのは私には難しいのでよろしくお願いします」


 うむ、とだけ呟いてこの部屋から去って行った。


「……零をこの件から手を引かせるのが一番じゃないのか」


 ただいま、以降から黙り込んでいた季水がそう言った。

 私もそう思った。……だが。


「あの子は、自分と同じ目にあった魔物を助けることで過去の自分を助けているんだと思う。そう思うと、手を引かせるのは零のためにはならない。私たちにできるのは発作が出たときに支えてあげることだ」


「……それでも、俺は苦しんでる零を見たくない」


 季水の気持ちもわかる。

 でも、あの子の魔物へ対する気持ちは本物だ。

 これ以上するなと止めても、傷ついた魔物を見れば手を差し伸べるだろう。


 傷に触れるようなことから逃げれば発作が起きないだろう。でも、不意に過去と重なることが起きてしまったら?

 きっと、大きな発作が起きるだろう。


「逃げるだけでは、あの子の苦しみを取り除くことはできないんだよ。傷と向き合って、過去と折り合いをつけることで、やっと零の苦しみは和らぐんだ。

私たちにできるのは傷と向き合う零の支えになってあげることだ。現に無意識ではあるが、零は過去と折り合いをつける行動をしている。本人の意志を大切にしようじゃないか」


 私だって、大切な息子が苦しむ姿なんて見たくないさ。


「……零は、月光島の従魔事情と自分を重ねて苦しんでる。それを解決するのは、零じゃなくても良いってことだよな?」


 ああ、そう返事をすれば、季水は真剣な表情で言う。


「俺が、人生を賭けて解決する」


 そう宣言したことで、季水の勉強に対する姿勢が変わるだなんて、今の私には思いもしなかった。




 家庭教師から驚かれ報告にあがるくらい、季水の勉強の進捗ペースが変化した次の日。

 零は、パニックになったことが幼い体には負担がかかったのか眠っている。申し訳ないが、朱基さんには鍛錬をお休みとさせてもらった。


「発作起こした時に測らせてもらった心拍数を基準に、れいちゃんが発作を起こした時に儂とお主に届くようにした魔法具じゃ。

これは心臓に張り付けて、呼吸をする回数の増加を感知する。手首に心拍数が表記される機械が取り付けられたものを巻きつけると、心拍数が記録されるようになっておる。で、儂らが持つこれはれいちゃんの魔法具と連動しておる。基準以上になったときに知らされるように設定された魔法具だ」

 

 説明してくれている朱基さんの目の下には、隈ができている。連日動き続けて疲れているはずなのに零のため徹夜で作業を進めてくれたことに、この人に足を向けて眠れないなと思った。


「ありがとうございます。零が起きたら、早速つけましょう。とりあえず、今は仮眠を取ってください。連日、例の件で動き続けていますし、疲れているでしょうから」


 仮眠を促せば、


「儂は嬉しいんだよ。心を痛めていたことが、れいちゃんのおかげで取り締まることができて。これはその恩返しをしただけだ。そんな申し訳ない顔をしないでくれ」


 そう言ってきた。

 ああ、そう言えばこの人も零と同類だった。

 人よりも魔物を信用していて、この世界の従魔事情に心を痛めていた。奴隷紋を使用して魔物の売買している組織も長年追っていて、あと一歩のところで逃してしまうことも多々あったと聞く。


「これから、この世界は変わりますよ。季水が零のために従魔事情の改善を目標にしました。あの子ならきっと、本来のテイマーの姿を取り戻してくれるでしょう。……朱基さん、これからもうちの子たちをよろしくお願いします」


「ああ、もちろんさ」


 きっと大丈夫、うちの子たちなら成し遂げてくれるだろう。そんな根拠のない自信が、不思議とわいてくるんだ。




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