有栖家だからできること
またまた僕の部屋付近を改装中です。
とりあえず、仮としてお母様の部屋が寝る部屋として使っている。
今度は季水くんの暴走ではなく、お父様の判断。
僕は今、花毒治療調合師の勉強をしていることを知られ、安全のために温室をもう一つ追加。
従魔がたくさん増えたから、部屋を広げることになった。そして、僕用の調合室と言う名の調理場が部屋に隣接されることになった。
花毒治療調合師の勉強用、調合用、料理用、そしてその部屋には咲斗たちも使えるように錬金釜も置いてある。
ちなみに、三つ子の部屋は僕の隣だ。
あとは人に会うと錯乱してしまい野生に戻れず、従魔になれないくらい傷ついてしまった子のために、僕の菜園を広げたり、人の目が行かないように塀の高さを上げる工事をするらしい。
どの子も、有栖家に住む人には慣れたため、その他の人と関わらないように工夫をするらしい。
僕の菜園の奥に、その子達用の住処や果樹園などの餌場を作ることになった。
あまりに大規模な工事なため、金銭的な面で申し訳なさを覚えたが、
「住民の税金には手をつけていないし、月夜も私も稼いでるから問題ないよ」
と慰めてくれた。
ちなみに月夜は、僕のお母様だ。
お母様はS級の冒険者で、ほとんど家にいない。と言うか、会ったことがない。
季水くんは本格的に冒険者をしているから、頻繁に会っていたみたいだけど、僕は有栖家の領地から出る機会がないからね。
お父様は、何で稼いでいるかは不明だ。お父様が言うにはそのうち教えるよ、だそうだ。
個人で資金源がある有栖家だからこそ、こんなに頻繁にリフォームができるようだ。
橙色のスライムと桜色のスライムには、なぜか懐かれてしまい、従魔となることになった。……かわいいから大歓迎だけどね。
まさか、こんなに早く大家族? になるとは思ってみなかったけど、たくさん弟ができてスイも喜ぶだろう。
「んきゅ!(よしよーし)」
触手で器用にあやしている橙色のスライムが、ハッサク。そして、いないないばぁもどきをしている桜色のスライムがサクアと言うらしい。
ステータスを確認したら、名前がついていた。初めは契約者がいるのではと焦ったが、本人に聞けば契約者はいないと言うことだった。
はて? なぜ名前がついているのか? と疑問を持ち、お父様の元へ向かえば、ちょうど朱基さんと二人で話していたところに質問をしたのだ。
そのことに焦ったのは、二人の方だった。
ハッサクやサクアのように、名前をもって生まれた魔物をネーム持ちと言うらしい。とても貴重な魔物でそれが知られれば、誘拐されてしまうくらい貴重な存在だと教えてくれた。
念押しされたのは、ネーム持ちだと言うことを誰にも話さないこと。名前をつけたのは、僕だとすることを約束させられた。
うーん、これは警護が余計に過保護になりそうだ。
これを知ったのは、契約をしてほしいと頼まれた後だったので、警護の件は避けられなさそうだ。
リトルベアとメイプルベアの様子はと言うと、もうすでに元気よく部屋中を駆け回っているよ。
成長が早いね、もう果物とか食べれるようになったし、母乳も必要なくなったみたいで母ぐまは元の住処に帰っていったよ。
今のサイズは膝に乗せられるぬいぐるみサイズってところかな?
どれくらい大きくなるのかは定かではないけど、4匹もいるから部屋も改装するのも必要経費かもしれないね。
僕が鍛錬している間は、目が届かないからゆうたちに任せてるんだけど、なんか企んでるみたいで。
僕もヘトヘトだけど、リトルベアたちも力尽きたように眠ってるんだよね、一体どんな遊びをすれば子供が力尽きるまでになるのか不思議だよ。
僕の鍛錬の成果はと言うと、やっと動かない的に対して指示されたところを命中させるのは、7割になったところ。
銃とは相性がいいみたいで、ほぼ10割と言っても過言ではないくらい。
ナイフでの近接戦も慣れてきて、だいぶ動けるようになってきた。半日の鍛錬の成果が出てきているようで嬉しいね。
実戦はしたことがないからなんとも言えないけど、自分の身を守れるくらいの強さにならないと、過保護な扱いから卒業できないからね!
よし、今日は魔物の弱点について学ぼう。時より、従魔たちの様子を見ながら、勉強を進めるのだった。
次の日、朝の4時。
最近始めた自主練のナイフ投げ、銃で当てる鍛錬を30分、ランニングを30分する。
それから、最近お手伝いを覚えたリトルベアたちと菜園のお世話をするのが最近のルーティンだ。
7時に朝食なので、先に従魔たちにご飯をあげて時間があれば、調合師と花毒治療調合師の勉強をしている。
「光帝から返信が来た。条件をのむとのことだ、どうする? 行くか?」
朝食を摂りながら、僕が出した無茶な条件が叶ったことに驚いて、思わず口に含んだものを噛まずに飲み込んでしまった。
もちろん、むせたから飲み物を飲んだ。
「かなり無茶を言ったのですが、本当にいいんですかね? ……会えるなら、スイのためにも会いたいですが」
「光帝の方が渋ったようだが、聖獣様の方が乗り気だったそうだ。気にせず、謁見するといい。光帝としても、緑水の位が光帝の招待に応じたと言うだけで箔になるのだから、向こうにもメリットがある。気にすることはない」
ああ、そこまで公の場を嫌っている家系なのか。それなら、箔になると言われるはずだよ。
「それより、僕馬車乗れませんよ」
「それは向こうも了承済みだ。
こう言う時、王都をパレードして城に入るのだが、それは省略される。我々は何せ、公の場を嫌う貴族だからな、それを配慮したと言う体で行くらしい。
移動は早めに出て、零の護衛以外は全員馬での移動だ」
それを聞いて安心した。……それと、あともう一つ。
「僕が王都に行く間、従魔たちはどうします?」
できれば、あの事件で重宝した従魔を違う空間に居てもらうことができるブレスレットで、連れて行きたいのだけど。
「例のブレスレットで連れてくといい。万が一、零が誘拐されたとき、一人で誘拐されるより心の持ちようが違うだろう」
僕は力強く頷けば、お父様は静かに微笑んだ。
「そう言えば、今日はお父様と久しぶりに二人での食事ですね。三つ子は水化の者と鍛錬と聞いていますが、朱基さんと季水くんは?」
「ああ、あの二人は例の山賊がリークした他の悪事を働いた組織を潰しに向かったよ。零の威圧のおかげで、まあ色々話してくれるから助かるよ」
その話はやめてくださいよー、僕は魔物が酷い扱いを受けているとすぐに頭に血が上っちゃって困ってるんですから!
『お兄ちゃんがいけないんだよ? 私の言うことを聞かないから、痛い思いをするの。わかる?』
いきなりだった。
いつもよりも鮮明な声だった、記憶は砂嵐で見えなかったけど。
僕は、自分の意思関係なく立ち上がり逃げようとしたが、腰が抜けてしまった。過呼吸になりそうになるのを、呼吸を意図的に遅くして抑え込む。
「零」
優しい声が上から降ってきた。
僕が顔を上げる前に、優しい声の持ち主は抱きしめて背中をさすってくれる。
「今日はよく過呼吸にならなかった、頑張った。季水たちが帰ってくるまで休んでなさい。この発作については、朱基さんと相談しておこう。安心しなさい、お父様たちがついてるよ」
そう言って、僕を壊物を扱うように抱えて、仮の部屋まで連れて行ってくれた。
「何もするなとは言わない、ただ運動はするな。いいね?」
逃げようとしたのが失敗だった。
過呼吸っぽくなると地面に座り込むと、腰から下が動けなくなり、立てなくなるのだ。今も座らせてもらったベッドから立ち上がることができない。
どのみち、安静にしているしかないのだ。
僕は素直に、頷くのだった。