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許せないよね?


「奴隷紋や暴力で従わせるだなんて許せるわけがないでしょう? ねぇ、季水くん」


「もちろんです」


 ん? どうして敬語を使っているのかわからないけど、とりあえずにっこり笑っておく。

 ついでに、なんで冒険者さんまで背筋を伸ばしているのかな?

 その様子を見て、唯一愉快そうに笑う朱基さんのことを見て、ますます首を傾げるのだった。



 すっかり大人しくなった、橙色のスライムを治療しながら話し合いをしている朱基さんと季水くんの様子を遠目から眺める。

 悔しいけど僕はお留守番かなぁ。


「気は進まないが、れいちゃんには来てもらう。傷ついた生き物を心を開かせるには、れいちゃんは必要不可欠じゃ。それに、探索スキルの精度も高い」


 ん? どうやら、朱基さんは僕を参加させようとしているみたいだ。それを聞いて、ゆうが鬼のような形相で。


「零様を危険な場所に行かせるのは反対です。この方にはトラウマがあります、これ以上傷を負わせるわけにはいきません」


 ……反対するよね、そりゃ。


「れいちゃんはお前が考えているほど弱くない。経験を積ませず、一人の時に襲われた方がトラウマを増やすだろう。れいちゃんを、一人では生きられないお姫様にしておくつもりか? それは、この子の望みではないようだぞ、だから儂はこの子を連れて行く」


 ……朱基さん、ありがとう。

 ある程度、危険が少なくなるようにすればいいんだよね。きっと。


「ですが!!」


「ゆう、僕は行くよ。僕は守られているだけのお姫様だなんて嫌だからね。心配なのは、わかる。だから、朱基さん今から言うものを作ってもらうことは可能ですか?」


 反論は認めない雰囲気を出せば、ゆうは悔しそうに言葉を飲み込んだ。


「……なんか思い付いたのか? よし、聞こう」


「作って欲しいのは……」


 僕は身振り手振りで説明すれば、朱基さんはネズミを見つけた猫のような顔をして、


「それは良いな。すぐに用意しよう」


 一旦屋敷に引き返すことにした。……冒険者さんには口止めと、ことが終わるまで守衛さんに身柄を保護してもらうことにした。

 ……仲間じゃないと言う、証拠はないからね。

 作戦は、朱基さんに頼んだアイテムが出来次第すぐと言うことになった。



「零様、場所を教えていただけますか?」


 ゆうと琉陽が話し合いが終わった後、そう言ってきた。彼らの言い分は、出来るだけ僕の安全を保つために潜入してくると言ってきたのだ。

 僕は心配したが、朱基さんが許可を出したので二人は潜入してくれている。


 僕は三つ子と小ぐまたちを寝かしつけながら、かたわら花毒治療調合師、同時進行で調合師の勉強を進める。


 守られるだけはもう嫌なんだ、自分で守れるくらいになれるように努力しないと。

 日付が変わるまで勉強し、小ぐまに母乳を与えたあと、就寝したのだった。



「出来上がったぞ!」


 チートとはこの人みたいな人を言うんだと、実感した今日。朝一で、僕の起きるタイミングを見計らってやってきた。

 しかも、作戦で頼んだものだけではなくその前に頼んだものまで持ってきたのだ。


 ……目の下真っ黒。


「説明はあとです。ゆうたちが帰ってくるまで、仮眠をとっておいてください。万全でないと、何が起こるかわからないですから。それと今日は鍛錬は中止です、自主練しておきますから朱基さんは休んでてください」


 いいですね? とダメ押しをすれば、朱基さんは苦笑いをして頷いた。……素直で、よろしい。

 朱基さんがいなくなったのを見計らったかのように、用意した寝床から橙色のスライムが僕の膝まで跳ねてきた。


「んきゅ?(……おとうとは?)」


「ゆうたちが帰ってきたら、絶対助けるから待ってて」


 僕は、そう言うことしかできなかった。




 今日の夕方、ゆうたちが帰ってきた。

 聞かされた結果はとても悲惨なものだった。


「なるほどね……、魔物だけではなく人までもが奴隷になっていたと。……へぇ? しかも、子どもまでも酷な仕事をさせられていたって?」


 また、頭の中で砂嵐の音がした。

 今度は前よりも見えた。


『…お…ぃ………は、わ………ものでしょ? ね?』


 あまりに歪に笑う女の子。

 その子に対して、僕は何故か体温が下がるくらいの恐怖心を抱いていると……。

 誰かの背中が、変わるように写った。僕よりも小さな背中、それでもその背中は頼もしく思えて、暴れるくらい速くなっていた心臓は落ち着きを取り戻した。



「完全に、壊滅させる。いいね?」


 その一言に、ゆうは口元だけで笑い、


「……全ては零様の仰せのままに」


 その目は冷酷な目をしていた。

 そう、2歳の時にボロボロになって雨の中、倒れていた時と同じ目。

 あまり、ゆうにはそんな目をさせるようなこと、させたくはないんだけど。……今回ばかりはしょうがないか。


 結構は今日、いや……日付が変わるんだから明日か。明日の夜中だ。



 月明かりしか明かりがない中、僕は木の影で身を潜んでいた。

 母ぐまに事情を話して預けてきたが、同じく魔物が酷い目に遭わせられていると聞いてとても怒っていた。一緒についてこようとまでするから、宥めるのが大変だったよ。

 落ち着きを取り戻した後、僕を心配して狩りの仕方を教えてくれた。そのおかげでこうして、気配を消して潜むことができたのだけど。


 作戦はこうだ。

 まず、ゆうと琉陽を潜入させ、戦う人数を減らす。できれば奴隷紋を刻まれた人を狙って欲しいと頼んだ、彼らは手加減が得意だからね。

 次に朱基さんと季水くんがド派手に潜入する。その時、用意してもらったあれを派手にぶちまけてもらうつもりだ。


 派手にやってもらっている間、僕がゆうと琉陽に合流し、魔物や子どもたちと接触して保護する。そう言う手筈になっている。


 あ、ゆうと琉陽だ。

 そろそろ、作戦開始かな? と考えた時には、ゆうと琉陽は側にいた。


「手荒いですが、奴隷紋がつけられていた人間は縄で動けないように何人かでまとめて、死角においてきました」


 冷静に報告をする琉陽に、小さく頷いておく。


「ゆうと僕は、保護対象の所に行く。琉陽はその人たちを仮に作った集合場所まで運んだら、僕たちと集合ね」


「……全ては、貴方様の仰せのままに」


 跪いて、右手を胸に当てた。

 ……僕はお姫様じゃないんだけどなぁ、と苦笑いして頷いておく。

 打ち合わせをしていると爆音が鳴り響き、建物中が煙に包まれた。


「さて、行きますか」


「「かしこまりました」」


 今頃、正面突破した二人が大暴れしているところだろうなぁ。まあ、向こうは戦力が削られていることにも、建物が煙だらけなのも戸惑っているだろうけど?

 さて、僕は裏口から入って地下にいるって言われている魔物や子どもたちの保護に行きますか。


 朱基さんの情報だと、ここの山賊さんたちは基本的に自分の身がかわいいみたいで、自分たちだけ逃げるみたいだし?


「……まあ、今回は逃がさないけどね?」


 なんせ、こちら側には過剰戦力って言えるくらいの実力者ばかりがいるんだから、逃げられるわけがないよね?

 まあ、今回逃しても気配は覚えたから、簡単に逃げられないと思うけど。


 気配を消し、僕は口と鼻にハンカチを当てながら建物に潜入するのだった。



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