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橙色のスライム


 数日間、僕は3時間ごとに母ぐまの元へ運ぶ生活を送っていた。

 数日も経てば、手のひらサイズのぬいぐるみくらいの大きさになっており、部屋や菜園を走り回るくらい元気になっている。

 鍛錬の間以外は、この子達のお世話は僕がするようにしている。


 絵本を読んであげたり、外で遊んだり、菜園を一緒にしたりと色々だ。

 朱基さんにはなぜか苦笑いされたが、その遊びには三つ子も加わっているため、とてもにぎやかな生活を送っている。


 昼寝する小ぐまたちを、前世で言う子宮の形に似ている抱っこ紐で寝かしつけながら、様子を見にきていた朱基さんに話す。


「どうしても、僕が強くなるには限界があると思うんです。それを補うには、魔法具を強化するしかないしか思いつきませんでした。朱基さん、協力してくれませんか?」


 僕がそう問えば、優しく微笑んで。


「もちろんじゃ、儂にできることならなんでも協力するつもりじゃよ。さて、れいちゃんはどうきょうかするつもりなのかの?」


 馬鹿にしないで、そう聞いてくれた。


「花毒治療調合師の勉強を始めました。この資格は、毒の治療だけではなく取り扱えなければなりません。銃やナイフに付与したいと考えています。それだけではなく、属性を加えられたら戦う上で武器になるでしょう」


 朱基さんは真剣な顔をして、頷いた。


「毒はともかく、属性は属性石を使っても毒よりは威力は出ない。それにだ、ナイフは属性ごとにナイフを用意することになる。毒だけに絞った方が良いと思うぞ」


 それでも、だ。


「ナイフ、火属性と氷属性だけは用意できませんか?」


 この二つの属性だけは欲しかった。

 考えるように俯いた後、何か答えが出たように僕の顔を見た。


「火傷と凍傷で、完全な力を出させないようにすると言うことか。……できなくはないが、火傷や凍傷を負わせるくらいの威力を出せるかどうか……。まあ、火や氷を出すことが目的でないからまだいけるか」


 僕は運が良かった。

 無謀な願いを叶えられるくらいの実力を持った人が先生なんだから。そうでなければ、僕は一生護衛付きでないと歩き回れないことになっていた。

 まあ、実力をつけられても、護衛付きは変わらなそうだけど、人数は減るよね?


「それでお願いします。銃の付与なんですけど、一つか二つの銃で済ませたいんです。なので、弾に付加できませんか? 他の付与は思いつかないんですが毒は、体内で溶けるような仕組みにしてほしいんです」


 命に関わることだ、お願いを躊躇しない。

 難しそうな顔をしているが、口元が笑っているところを見ると僕の要求を楽しんでいるようだ。


「随分、面白いことを言う。久しぶりに楽しめそうじゃのう」


 この世界は、正直スキルに頼っている。

 魔法具で、攻撃力を強化しようなんて考えは思いつかないんだろう。だから、僕の考えを面白いと言うのだ。


「あとは、防御面が心配ですね。

あと、油断されるように武器が見えないように収納できるようにした防具が欲しいですね」


 僕の心配をよそに、穏やかに笑って言う。


「防御面は、結界を夜兎から教わる予定だろう? まあ、儂から結界とバレないようにカバーする後天性スキル、札結界を教えるつもりだったがのぅ。使い勝手は悪いが、なかなか良いスキルじゃから安心せい。

防具の件は上手くやろう」


 朱基さんは結界の存在を知っていたのか。

 知っていた上で、バレないような対策まで考えていただなんて、さすがすぎる。


「銃やナイフを使い始めて間もないが、真面目に取り組んでくれているおかげで、思ったよりものにできておる。……そろそろ実戦しても良いが、あまりにも安全地すぎるからのぅ。まあ、もう少し形になってからでも良いか」


 あ、それは良かったです。


「守られているだけでは嫌なんです。人が傷つく姿をただ見ているのはもう嫌なんです」


 はて? なんでそう思ったのだろう?

 その瞬間、脳内で砂嵐の音がした。それとうっすらと一部、何かの記憶が見えて。

 か細く、喉が鳴る。


「思い出さなくて良い、儂もれいちゃんが苦しい思いをするところを見とうないからのぅ」


 優しく微笑んで、不思議と涙が止まらない僕の頭を撫でた。すると、脳内の砂嵐の音は止んで、僕の呼吸もゆっくり落ち着いていった。


「れいちゃんの魂は傷ついておる、生きているのが不思議くらいに傷ついておるんだ。……倒れるまで、精神的にやられないように、警告してくれるような魔法具も作ろう」


 ……きっと、朱基さんは察してる。

 僕が転生者だって。

 それでも言わないのは、僕が話さない意味を尊重してくれてるから。それに甘えて、今もこれからも話すつもりはないんだ。




 季水くん、ゆうと琉陽は僕の一言で血眼で飛翔靴の練習をしたらしい。街に行けるよ、と言われてちょうど母乳の時間だったので、母ぐまに一言断りを入れて街に行くことにした。

 三つ子は、水化の人間によるスキル指導の日なのでお留守番。

 弟子が不在で暇していた朱基さんを連れて街に行くことにした。


 街についた時には、僕と朱基さん除く三人は調子の悪そうな顔をしていた。残念だけど、休憩した後、屋敷に帰るかと話し合っていた時、


「落ち着けって! うわっ、いてっ!」


 何かを宥める男の人の声がした。

 季水くんは知り合いなのか、おぼつかない足取りで近づいていき、何かを話した後、こちらに戻ってきて僕を見た。


「零が適任だ。おいで」


 僕は言われるがまま行けば、触手を振り回し、液体を目に向けて放とうとする橙色のスライムがいた。


「んきゅっ! きゅっ! んきゅー!(はなして! ボクのおとうとをつれさったおなじやつらなんかしんじられるもんか! ボクはおとうとをたすけにいくんだ!)」


 ふむ。


「ねぇ? 冒険者さん。この子の他にスライムがいなかった? この子、弟を拐われたみたい」


 僕がそう話しかければ、冒険者さんは背筋を伸ばし、橙色のスライムは抵抗をピタリとやめた。


「はいっ! おっ……私がスライムを見つけた時には1匹でした!」


 どうして、畏まってるの?

 別に、あまり気にしないのに。


「ふふっ、そんなに畏まらなくていいよ。僕もこれでも有栖家の血が入ってるから、あまり気にしないから肩の力をぬいて。

この様子だと、拐われたのは確定だね。季水くん、お願い! この子の弟、助けてあげて」


 季水くんにそう訴えかければ、満面の笑みで頷いてくれた。さすが!


「じゃあ探索するね! この子と同じ気配を探すよ!」


 ……探索。

 地図は記憶してるから、範囲が広くても問題ない。橙色のスライムと似たような気配を探して、と。


 なかなか見つからないなぁ、うちの領土の外みたい。あまり探索使ったことないから、少し汗が滲んでくる。


 汗が一筋頬を伝った時、反応を見つけた。


「見つけた! かなり離れてるよ。うちの領土を出て、数十キロ離れた山奥!」


 そう言った時、朱基さんの顔色が変わった。

 気にしつつも、スキルの使い過ぎで目眩がし、地面に座り込みそうになったのを、ゆうに支えてもらった。


「……山奥で、魔物を売買する山賊がいると聞いたことがある。逃げ足が速くて、捕まったのは下っ端。情報がなく、上の人間を捕まえた試しがない奴らかもしれんのぅ。……これは腕が鳴るのぅ、儂が動くからには逃さんぞ」


 んー、朱基さん本気モードです。

 生き物好きだからなぁ。それにしても、魔物を売買する組織は違法とは言えないらしいんだけどな。


「どんな奴らなんですか?」


「奴隷紋を使用して従わせてるんじゃ。売買は禁止されておらんが、奴隷紋を使うのは禁止されておる。それに、虐待もしている。そんな奴らを野放しにしておけん」


 ……へぇ? 奴隷紋。虐待。

 なるほどね。


「すぐに、壊滅させるよ」


 僕はにっこりと笑うが、なぜか冒険者さんは震え上がっていたのだった。


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